『第一競技は、全生徒参加による、百メートル走です。出場する一年生の皆さんは、速やかに、トラック内に整列してください。また、三年生の実行委員のみなさんは、放送室前に集合してください』
準備体操が終わり、駆け足で退場してすぐに石沢先輩の声がスピーカーから流れる。
一年生はテントに戻る間もなく全生徒が退場するのを待って、とんぼ返りにトラック内に戻って整列を始めていた。
第一競技である百メートル走を含め、学年別全員参加の競技は一年男子からスタートする。男子からと言ってもクラス毎に十五名、始まってしまえば七〜八分で女子にも順番が回ってくるからゆっくりもしてられないんだよね。
「さくら〜、選手宣誓、かっこよかったよー」
出走順に整列するためごった返す中、俺の後ろに並んでいた茜がじゃれ付くように肩を組んできた。
「そ、そう? ありがと」
近いです。顔とかいろいろと。
と、率直な感想を飲み込んで、引きつらないように気をつけて笑顔を作る。
「入学早々欠席していたあの娘が、こんなに立派になって。お母さんは感無量だよー」
茶化されてるのか褒められてるのか、おそらく両方ともなんだろうなと思ってたら、『感無量だよー』の辺りで正面からガバっと抱きつかれる。
「はいはい。お母さんもそろそろ子離れしましょうねー」
「きゃはは。脇やめて。わかった。わかったから」
隙だらけの脇腹を指先全部を使ってくすぐると、茜は身悶えながらしゃがみ込んだ。
よし。このタイミングならバクバクと急激に高まる心音は悟られてはいないと思う。
しかし、体育祭の準備期間を経て、茜だけではなくみんなのスキンシップ度合いがエスカレートしてる気が。それともこれが普通なんだろうか? 中学はほとんどハブられてた身としては、なにが普通なのかの線引がよくわかんない。
「あんたは迷惑なんだから、いい加減にしなさい」
「ぐぇ」
懲りずに戯れてくる茜の襟を桔梗さんが遠慮無く引っ張って引き剥がしてくれた。
「ごめんね、さくら。コレは抑えておくから準備してていいわよ」
「悪い。助かる」
「いいって。その代わり頑張ってね。さくらはうちのエースなんだから」
グッと親指を立てて微笑む桔梗さんと、苦しそうにもがく茜が列の後ろに下がっていくのを手を振って見送った。
『一年男子は申請した走者順に整列してください。なお、今回のチーム分けは、一年生から三年生まで、ひとクラスずつ縦割りで組分けしています。当校はA組からBCDE組と一学年に五クラスまであり、一年A組、二年A組、三年A組がひとつのチームとなっています。同じく一年から三年までのB組が……』
整列し準備する間に一般来場者に向けた説明が放送で案内される。これは放送部が独自にやってくれていることで、入場行進の時の案内と同じく、退屈しないようにとの配慮からのものだ。
最初の競技は全校生徒による百メートル走で、放送にもあったように一年男子から順に、一年女子、二年男子、二年女子、三年男子、そして三年女子で締め括られる。
得点配分は基本として一位が五点。以下、四点、三点、二点と一点刻みで五位が一点になる。それほど差はつかない配点になっているのだけど、これには特例があって、各学年男女それぞれの第一走者は得点が五倍。第二走者から第五走者までは二倍の得点が与えられる。
つまり、第一走者の一位は二十五点で五位だと五点。ひとつ順位が違えば五点差がつくこととなる。それだけに第一走者には、各クラス最速の記録保持者を揃えてきているはずだ。そして、A組女子の第一走者にはなぜか俺が選ばれていた。実を言うと欠席裁判で決まったことなのだが、クラスの準備をほとんど手伝っていない身には文句の言いようもないし、自己申告のスポーツテストの記録的にも一番良かったらしい。
この出走順は事前に申請することになっていて、今朝方、公平を期すため実行委員ではなく体育の教員が回収している。一年はそうでもなかったが、三年生ともなると誰が速いのかわかっているため、かなりの情報戦が行われていたそうだ。正直、準備でそれどころじゃなかったのもあって、話は耳にしたけど深く考える暇がなかった。
二番から五番目までの走者は、順当にいけば記録が良い生徒の順にエントリーされるだろう。しかし、こちらはトップとは違って多少の駆け引きの要素がある。単純に考えると速い順に走ってもいいんだけど、得点が二倍と共通のため、他のクラスが速い順にエントリーしているのなら、逆に遅い順にすれば、四番五番走者の勝率が高くなるから結果的に高得点が見込める。その分、二番三番が順位を落とす確率も高いので、一概に総得点が稼げる方法かというとそうでもない。コノエなら読みきってプラスにすることもできるのかもだけど、ウチは単純に記録から速い順に選んでいるそうだ。
そろそろ時間かなと考えていると、第一走者が並ぶスタート位置がなにやら騒がしくなった。スタート係の実行委員が助けを求めるように周囲を見回している。なにか問題が起きたのかと立ち上がった瞬間、インカム越しにコノエに呼ばれた。
『ミキちゃ〜ん、聞こえる〜?』
「うん。聞こえてる。ひょっとして……」
『うん。スタート位置でトラブってるみたい。ちょっと様子見てくれるかな』
「了解。ちょうど行こうとしてたところ」
『よかった。よろしくね』
そんな要請もあってスタート地点に顔を出すと、平島先輩がなにやら話を聞いている最中だった。
苦い顔を見せていた先輩は俺に気づくと、手を上げて近寄ってくる。
「実は陸上部がスパイクがついた靴を履いててよ。それが違反なんじゃねぇかってクレームが出てるんだが……」
そう聞いて靴に注目してみると、なるほどB組とD組の第一走者のシューズは短距離走用でスパイクが付いてそうだった。と言うのも、素人には靴を見ただけじゃスパイクの有無まで見分けがつかない。
とりあえず問題点は把握したのでインカムを操作して生徒会用回線をつなげる。
「スタート地点のトラブルはスパイク付きの陸上用シューズ使用の是非について。いまから聞き取りします」
『了解。急かすようで悪いけど早くまとめちゃって。決定権はミキちゃんに一任するから。みんなもそれでいい?』
『了解です』
『えっと、了解です』
時間差で返ってくる返答を聞いてインカムを集音モードに切り替える。これで、みんなの話し声まで拾ってくれるはずだ。
「ズルいんだよ、お前ら」
「そこまでして勝ちたいのかよ」
C組第一走者の言葉にA組第一走者の火野くんも同意して非難する。
「うるせぇ! スパイク付きじゃダメだってルールにあんのかよ」
売り言葉に買い言葉で、B組第一走者も怒鳴り返し険悪なムードが漂う。
「んなもん常識で考えろってことだろ」
「まぁまぁ、まずは落ち着いて」
揉めるふたりの間に割って入る。まだなにか言いたそうだけど、平島先輩がそばで睨みをきかせているせいで表面上は大人しくなった。
「ちょっと靴底見せて」
「あ、あぁ」
B組の男子生徒に靴底を見せてもらう。しゃがんで覗きこむと、なるほど土にまみれた黒いスパイクがあった。
「ありがとう。えぇっと、陸上用シューズを履いててもいいのかってことだよね?」
お礼を言って、振り返ってから平島先輩にそう尋ねる。
「あぁ。ルールっつーか規定がどうなってるのか知らねぇんだけどよ。実際、スパイクシューズの使用ってのはどうなんだ?」
平島先輩の問いに記憶の中のルールを探ってみる。
そもそも体育祭の競技に明文化されたルールは少ない。勝者を決める基準が書いてあるほかは、フライングやバトンの受け渡しなど、元となる陸上競技のルールに則っているのがほとんどだ。
「そうですね……」
どう答えるべきか逡巡していると皆の視線が集まってくる。ルールを確認したいところだけど、いいや。その辺はインカム越しに聞いてるだろうコノエに判断を預けて考えながら話そう。
「生徒会としては、スパイクシューズの使用は百メートル走なら問題ないと思います。確かにルールでは明文化して禁止されていませんし、本人が走りやすければ裸足でも運動靴でも軽量化シューズでも大丈夫です。正直言うと、そこまで本気になってくれているのは嬉しいですしね」
と話したところで、各選手の表情がパタパタとオセロのように明暗を分けた。
理屈を抜きにすると、替えのシューズを準備するのに手間取ることは避けたい。これだけの人たちが見に来てるのに、すでに規定時間はオーバーしている。とにかく決定してしまおう。問題が出てきたら次回以降に改善するってことで。
「ただし、選手同士が接触する可能性がある競技では禁止としましょう。誰かが怪我してからでは遅いですからね。具体的には障害物競走とか騎馬戦とか。リレーももつれて転倒することが考えられますから、結果的にスパイク付きシューズの使用は、この百メートル走のみとするのがいいと思います。……実行委員の見解はどうです?」
そう問うと、納得したのか出来なかったのか、平島先輩は微妙な表情で頷いた。
「会長がそういうんなら俺もまぁ異論はない。スパイクシューズは許可としよう。ただし、この百メートル走のみでだ。他の競技での使用は禁止とする。守らなかった場合は、その選手が出た競技の得点は没収し結果の如何を問わず無得点とする。……ってことでどうだ?」
「はい。では、そうしましょう」
実行委員長の同意が得られたところでパンっと手を叩いて周囲に決定したことを知らせる。
「そんなぁ」
思わぬ結果だったのか、がっくり項垂れる火野くん。
むむ。これはまずいかな。気落ちしたままじゃ成績に影響しかねない。
「大丈夫だよ火野くん」
驚いた表情で見返すに火野くん微笑みかける。
「A組のみんなも聞いて。まず知っておいて欲しいのは、スパイクシューズは滑りにくくするための道具だってこと。要はスパイクが地面にめり込んでグリップ力を高めるんだけど、正式なトラックじゃないうちのグラウンドの状態じゃ効果はそこまで高くないし、履きなれてないと違和感から逆に遅くなると思う。つまり、効果はそれほどでもないんじゃないかってこと。だから、私たちはスパイクシューズを気にするよりも、自分のベストを尽くすことに集中しようか。その方がきっと、いい結果につながっていくと思う」
気を持ち直したのか、目に見えて元気になる火野くん。集まったA組の男子からも笑顔がこぼれる。
「お、おぅ! いいか野郎ども。要はアレだ。球技大会のソフトの試合の時と同じで、ひとつになってぶつかろうってことだ」
「そうそう。そもそもスパイクがどうのとか火野しか気にしちゃいねぇって。だから心配ないさ」
「バカ野郎! 俺も気にしてねぇって……今はな」
軽口を叩いて笑いあうみんなを見て、もう大丈夫かなと内心で頷く。
それとなく周囲に気を配ると、スパイクシューズを履いてない生徒たちの表情は明るく、逆に履いてる生徒は面白くなさそうだった。それぞれにいろいろと思うところはあるだろう。でも、落とし所としては間違ってないと思う。
「それじゃぁ、そろそろ始めるぞ!」
話が終わるのを待っててくれたのか、ちょうどのタイミング平島先輩が切り上げの指示を出す。
「ちょっと押してっからテンポ良く進めるからな。……会長は列に戻ってくれ。世話かけたな」
「いえいえ。このくらいならいつでも」
平島先輩の言葉に笑顔を返して列に戻る。男子の列を遡ってる間に準備が整ったらしく、列に戻る間に第一走者スタートのピストルが高らかに響いた。
「ね、結構足早そうだけど、どのくらい速いの?」
列に戻るや否や横に並ぶ女生徒に声をかけられた。
誰だろう? さっぱり見覚えがない。並びからするとC組の第一走者らしいが、正直言って同学年でも他のクラスの女子まではほとんど覚えていない。かろうじて体育が一緒のB組ならば話は違うんだけれど。
「どのくらいって、……そこそこ?」
答えながらみんなと同じくしゃがみ込む。思い返せば、足は速かった方だと思う。クラスで一番が取れるほど抜きん出てはいなかったが、それでも上位には入っていた。でも、それは中学一年までのこと。それ以降はいろいろあって体力……というか筋力も落ちたし、走りこむような部活もしてこなかった。女子の中に混じれば十分速いのかもだけど、薙に勝てた試しがないので自信もない。
「ふふーん。余裕なのね」
その娘は目を細めて、まるで肉食動物が獲物を狙うような笑みを見せた。その表情が印象的で、ようやく相手をまっすぐに見つめる。
身長は立って並んでみないとはっきりとは言えないけど俺よりも高くはなさそうだ。と言ってもしゃがんでいてもわかる手足の長さから高校一年の女子としては高い方だろう。
くせっ毛なのかウェーブを描く髪は無造作に束ねられている。日差しを浴びて黄金色にキラキラと煌めくのは染めているからかな。目鼻立ちははっきりしていて、個人の主観では美人だと思う。タレ目がちなのに獰猛な雰囲気がミスマッチで、それがとても印象的だった。
「そんなことないよ」
「そうかな。態度や物腰からはずいぶんと余裕そう」
そう見えるとしたら、生徒会長の立場や役割の方が気がかりで、競技に集中できていないせいかもしれない。ひとつのことで意識が一杯なのが逆に余裕そうに見えてるとか。
「これでも緊張してるんだけどね。競技そのものよりも他のいろんなことに対してだけど」
参観している人々の視線、生徒の目、テレビカメラ、報道陣もかくやというビデオカメラの群れ、至るところで撮られているであろう写真。常に見られているという圧力に押しつぶされそうになる。気になって意識しだせば体調に響きかねないので無理やりに無視しているのが現状だ。
「それも平気そうに見えるけど……なるほど。ポーカーフェイスが得意みたいね」
苦笑いで返すと、彼女はこちらを値踏みするような笑顔で目を細めた。
「ねぇ。唐突になんだけど、私と賭けない?」
「かけないって……賭け事の賭け?」
まさかと思いつつも、駆けっこの駆けじゃないだろうと問い返す。
「そう。お互い第一走者だし、どちらが先にゴールするか。ね、単純明快でしょ」
「まぁ、ね。賭ける理由がよくわからないけど」
「あはは。そっか、理由、理由ね。ごめん。自分の中で完結してたから、いろいろと説明が不足してたね。と、まずは自己紹介からか」
そう言うと彼女は膝立ちして背筋を伸ばした。
「私は一年C組の志々倉詩桜(ししくらしお)よ。志すに倉庫の倉で志々倉、ポエムの詩にさくらの二文字で詩桜。はじめまして、波綺さくら生徒会長殿」
差し出される手を握り返すと、冷たいとさえ感じる手がきゅっと握り返してくる。
「手、あたたかいね」
つないだ手に目線を落として、志々倉さんがつぶやく。
「志々倉さんの手は少し冷たいかも」
「それは、緊張してるからね」
と、まったく緊張している素振りを見せずに微笑んだ。
「そっちもそうは見えないけど?」
「それはお互い様ね」
得意そうな表情に一瞬だけ間をおいて笑いあう。うん。こういう娘は好きかも。
「それで。賭ける理由なんだけど、私が本気を出すためにちょっと協力して欲しいなって」
「……え?」
「勝てなかったら貸しひとつで相手の言うことをなんでも一回だけ聞く。もちろん常識の範囲で。あと、金銭的なこともなしで」
なんだかものすごく独善的な理由をさも当然のように話すと、自信満々の顔で『どう?』と返事を待つ志々倉さん。そのあまりな理由に毒気を抜かれた。でも、この図々しさは薙の相手をしてるようで嫌いじゃない。
「いいよ。その条件で」
「ホント!? マジで? やった。言ってみるもんね。ねぇ、せっかくだから他のみんなもひと口乗らない?」
そう声をかける志々倉さん。だが、他のクラスの娘は戸惑いを隠せず、あまり乗り気ではないようだ。
「ここに並んでるってことは、みんな各クラスの代表みたいなものじゃない。まさか自信がないってことはないでしょう? 云わば一年女子の頂上決戦なんだから。それに、ここで生徒会長に貸しを作れれば、今後の学校生活になにかと便利だと思わない?」
「生徒会というか、私に出来る範囲で前向きに検討するくらいはできるけど」
あまり期待されても困る。生徒会長ってそんなに実権ないからね。
「ん。それでも、例えば、一緒にテレビに出して〜とか、赤坂くん紹介して〜とか、試験前にノート貸して〜とかイケるでしょ?」
「まぁ、それくらいなら……」
「よし。乗った」
真っ先に手を上げたのはB組の杜若(かきつばた)さん。
体育で一緒になるので顔は知ってるものの、まだ話したことはないし苗字しか知らない。
「実は、波綺さんとは話をしてみたかったんだ」
杜若さんが少しはにかむように告げる。
「そう? いつでも声かけてくれて良かったのに」
「そうなんだけど。ほら、選挙活動の時とか周囲もピリピリってしてたじゃない? 用もないのに話すのはちょっとためらう雰囲気と言うか」
「あー、確かにそんなだったかも……」
思わず苦笑いになる。あの時期は『敵か味方か!?』ってクラスのみんなにガードされてることもあって、それは取っ付きにくい状況だった。
「そういうことなら、私も」
E組の娘が小さく手を上げる。
「正直、勝つ自信はないけど、櫻子ちゃんから話はよく聞くから、波綺さんとは話してみたいなって思ってた」
「あーん。じゃぁ私だけ乗らないわけにはいかないじゃないの。いいわよ。一番になれば、他の四人に貸しができる。負けても一番の娘にだけ貸しができるってことでいいのよね」
続いてD組の娘も乗ってきた。
「そうそう。そうこなくっちゃ」
全員の参加に指を鳴らして微笑む志々倉さん。
そして、改めてお互いに簡単に自己紹介を交わす。B組の娘が杜若祥子(かきつばたしょうこ)さん。D組が小林ほのかさん。E組が笹原和香奈さん、と名乗った。
「あはは、ちょっと燃えてきたなぁ」
なんと言うか志々倉さんの目の輝きが違ってきた。
「……お手柔らかにね」
「いやいや。手を抜かないようにって賭けてるんだから、それは無理。むしろ、今日のエネルギーフルベットで臨むからね」
と言う志々倉さんは、勢い余って今にも走り出しそうだ。
仕方ないなぁと思いつつ、なんとなく視線を巡らせた先の本部席隣の来賓用テントからこちらを見ている響と目が合った。そして、その隣には響の妹である菫の姿も見える。
俺と視線が合うと菫は小さな手を振りながらなにかを叫ぶ。距離的に周囲の喧騒で聞こえないけど、なんとなく「がんばって」と言ってる気がした。しばらく叫んでいた菫は土埃を吸ったのか咳き込み、響にタオルで顔を覆われたりしている。
「波綺さん、笑ってるけど、何か見えるの?」
志々倉さんは俺の視線を追うが、この距離だとどこを見ていたのかまでは絞り切れないだろう。
「いや。……そうだね、うん。本気でやらなきゃね」
「そうこないと、賭けた意味がないってね」
ニンマリと笑う志々倉さん。一方、他の三人も
「やば。緊張してキター」
「でも、超テンション上がってる」
「もうすぐ私たちの番だよー」
と口々に騒ぎながらも楽しそうだ。
ん。菫が応援してるんなら活躍して見せないとね。もとから本気で臨むつもりではあったけど、ちょっとお姉さんの実力を見せてあげようか。みんなと同じくテンションの高まりを鼓動にも感じながら、目の前の男子最後の走者がスタートするのを見送った。
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