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Chapter. 9

Shiny Day
陵高体育祭 5





 
   

位置について!」
遠目に一年男子最後の走者が順位の旗を持つ列に誘導されている姿が見えた。
ついついA組の順位はどうだったのかを確かめようと目で追うことを慌てて中断する。今は自分のことだ。浅く深呼吸して心の準備を整え、左のつま先と両手の指をスタートラインに揃える。

いざ競技が始まってしまうと順番が回ってくるのはあっと言う間だった。
他組の走者も慎重に位置を合わせているのを横目に捉えてゆっくりと深呼吸。ぶるっと身体を震わせて緊張をエネルギーに変換する。

「よぉーい!」
腰を上げて静止すると体重が指先にかかる。
視線を前に向けてゴールを見据え、前傾姿勢で頭に血が上る息苦しさを感じながらスタートの瞬間を待つ。

タァンッ!

反射的に右足で地面を蹴り出す。
澄み切った青空にピストルの音が吸い込まれ、その余韻が意識の外を通り過ぎていく。
前へと押し出される身体。前傾姿勢のまま倒れ込みそうになるのを左足を踏みしめて持ち上げる。
すでに不確かな景色が溶けるように混ざり合って流れていき、視界がゴール地点を中心に収束する。
自分の息づかいと鼓動、そして地面を蹴る音がやけにゆっくりと感じられた。しかし、それらはトップスピードに近づくにつれて連動していく。

スタートダッシュのタイミングは悪くなかった……と思う。
でも先頭を走る志々倉さん、そしてE組の笹原さんの背中を追うように加速していく。ってことは三番手、いや、隣の気配から残るふたりともほとんど横並び。志々倉さんと笹原さんがその列から飛び出している。

(ちょ、速!?)
ともすれば離れていく志々倉さんの背中に懸命に追いすがる。
舐めてたわけじゃない。手を抜いてるわけでもない。でも、心の奥では女子には負けっこないと、男女論に由来する根拠のない思いこみから軽く見ていたことを思い知る。男だったから体育系競技でそうそう女に負けるわけない。そんなプライドは響や薙に砕かれたと思ってたけど……っ!

水のように重く立ちふさがる空気の壁を抉るように前へ前へと足を回転させる。
速く。もっと速く。

靴底がグラウンドの土を噛み、掴み、蹴りつける。ピッチを上げ、スライドを広げ、水平に跳ねるように駆け続ける。次第に酸素の供給が追いつかずに悲鳴をあげはじめる筋肉を叱咤して、手足のリズムをさらに加速させていく。

不意に周囲の雑音が消えた。鼓動と呼吸と土を蹴る音だけが聞こえる。横並びに走るみんなの意志がピリピリッと頭の中でスパークする。それは錯覚なのかもしれないけど、負けるものかと意識を奮い立たせて抵抗する。

ほぼ真横に並んでいるB組とD組の人影の向こうには来賓席。
きっと響がそこで見てるはずっ。

「…………!」
なにか叫んでいる菫の姿を視界の端に一瞬だけ捉えた。
ほんの一瞬だった。でも、前を向いていてなお視界端に映ったその姿は、やけに鮮明に知覚できた。
菫が見ている。そう思った瞬間
、怒涛のごとく流れていたBGMと歓声を聴覚が知覚した。

「……がんばれー!」
その中で聞き取れるはずのない菫の声援が耳に届き、頭の中で爆発するように弾けた。
脳の左右から細胞が震える感触。
それは一気に全体へと拡散して心地良い痺れに包まれる。
そして波が引くように頭頂部へと収束していく。

なにかのスイッチが入ったのか。それとも逆になにかがはずれたのか。
体や筋肉があげている悲鳴が一切感じられなくなった。
急に手足の動きに脳の命令が追いつかなくなる。
考えて動かすのでは遅すぎる。そう感じて、いっそゴールすることだけを思って手足は動くままに任せた。





『速い速い速い速ーい! 一年女子トップ走者による百メートル走。男子顔負けのスピードで駆け抜けます! 一番手はC組! しかし、ほとんど横並び! いや、やはりC組が飛び出してきたか! おぉっと続いてA組! A組も抜けてきた! 生徒会長ラストスパァートだぁー! ぐんぐんC組との差を詰める詰める詰める! 追いつけるか!? 追い抜けるか!? これはもつれそうだっ! 横並びのまま今ゴーーーーール!! ほぼ同着に見えましたが、勝敗の行方はどうなったのか。かなり気になりますが、続いて二番手がスタート!』

勢いを殺しつつゴールから十メートルほどオーバーランして振り返ると、俺より数メートルほど手前で立ち止まり肩で息をする志々倉さんと目が合った。

「……どっち、が……」
勝ったのか? はぁはぁと苦しそうに呼吸をする志々倉さんが判定を求めるように視線を彷徨わせる。
すぐに三年生の実行委員に誘導され、少し離れたところに集められた。
俺も含め、みんながみんな呼吸を整えるまで、しばらく喋ることもできないまま次の走者がゴールするのを眺めていた。

あれ? っと思ったのは、次にゴールした走者は順位ごとに実行委員に連れられて旗の前に並んでいたことだった。クリップボードを手にした委員がクラスをチェックしているのを横目に、とにかく息を整える。

「ちょっと待っててね。今、ビデオ判定中なの。一位と二位がほぼ同着、しかも三、四、五位も僅差すぎて先生を交えて協議してるのよ」
三年生の実行委員は、そう告げると『みんな速かったねー』と微笑んだ。

「……ホント。タイム計ってたら自己新、出てたんじゃない? 誰か計ってないかな?」
「みんな超速ーいっ。陸上部は私だけだから密かにイケそうだと思ってたのにー」
「ねー。なんか引っ張られて、自分で走ってるんだか違うんだかって、変な感じだった」
「って言うか、波綺さんスパート凄すぎ。半分くらいまではあたしらと並んでたのに」
テンション高めな口調で笑い合うみんな。俺と志々倉さんは笑顔のみで応対して結果を待つ。

しかし、予想以上にみんな速かった。各クラス最速な人選だろうから当然と言えば当然なんだけど。
それでも、男だったことと、みんなより一歳上なことを考えると俄には認めがたいものがある。
普段の体育ではみんな手を抜いてる中、俺ひとりが全力を出していたのではと思うほどに認識と現実が剥離していた。自分の体力が落ちているのか……という慢心が鎌首をもたげるのを頭を振って否定。いやいや、ここは素直に現実を受け入れるべきだ。

「そうでもないとか言った割に、やっぱ足速いじゃない。正直、百メートルなら逃げきれると思ってたのになー」
腰に手を当てた志々倉さんが例の獲物を見定める表情で目を細める。

「今のは出来過ぎたって言うか、みんなが言うとおり、なにか実力以上の結果が出たみたいで変な感じがしてる。それにしても、志々倉さんこそ賭けを持ちかけるわけだよ。あんなに速いなんて」
なるほど、あの足なら勝算があったはずだ。我ながらよく追いついたと思う。

「でしょー? 私の百メートルベストタイムってば十二秒フラットだもん。まぁ非公式のタイムだから実際は十二秒台って感じだろうけど」
ふふんと自慢気に胸を張る。

十二秒台ってマジか。多少差し引いたとしても、男子でも上位に食い込めるタイムじゃないか。

「うわ。なにそれ。もしかして全国大会とか出れんじゃない?」
「高校女子の日本一ってタイムどうだっけ?」
「確か〜、十一秒五とか四とか?」
「そんだけ速いんなら、陸上やればいいのに。狙えるんじゃない? 全国」
キャァキャァとはしゃぐみんな。志々倉さんは満更でもなさそうに、でも頭を振って否定する。

「んー。自分でも結構イイトコロまではイケると思うんだけどねー。ちょっと面倒そうなのはパスしたいなーって。でも、私に追いつける生徒会長が一緒にやるんなら、一年間だけなら本気で目指してもいいんだけどなー」
にこっと笑う志々倉さんが矛先をこちらに向ける。

「私も陸上部にってこと? んーそうだね。それも楽しそうだけど、生徒会と料理部に加えて、さらに部活を掛け持つのはちょっと無理かな。特に記録を目指しての体育系は専念しないと悔いが残りそうだしね」
料理研……いや、めでたく部に昇格した料理研究部は生徒会優先で両立できてる。でも、運動部は無理かな。試合の時だけってわけにもいかないし。

「ん。だろうと思ってた。そんな感じでやっぱパスかなぁ。向いてないんだよね、ひとりストイックに記録に挑戦とかさ。かと言って仲良しチームワークってのも柄じゃないのよねぇ」
じゃぁ何に向いてるのか、と問いたくなる発言をしながらあくびをする志々倉さん。でも、確かにあんなに走れるのに勿体ないとは思う。

「あーそれで。体育の時とか志々倉さんいつも半分くらい寝てるしね」
「でも、超足速いよね」
「ま、眠れるシシクラのふたつ名は伊達じゃないってことさね」
「あー。なによそのふたつ名。初めて耳にするんだけどー」
志々倉さんのC組と合同で体育があるDとE組のふたりの会話を聞いて当人が口をはさんだ。

楽しげに問いただす様子を微笑ましく見つめながら、やはり女の子に対する自分の意識に壁があるなぁと感じる。こうして一緒に喋っていても、どこか自分だけが蚊帳の外にいる感覚。自分だけが仲間はずれで、みんなとは違うんだと思う感覚……

「ほら、スポーツテストの時、本気出したのとそうじゃない種目の差がすごかったじゃない? 半分以上は寝ながらやってたから記録も平均以下だったとかで。んで誰かが言ってたの。眠れる獅子ならぬ、眠れる志々倉だって」
「んー。あの時は超眠くて。実際半分寝てたんだよね。だとすると間違ってないな。うん」
「ほらー、やっぱり」
と、楽しそうに笑いあうみんなを見ていると、係の人がやってきた。ようやく審査結果がでたのかな。

「えと、ビデオを確認しての協議の結果、A組とC組の差がありませんでした。ですので同着一位とし、得点は足して二で割った二十二コンマ五とします。続いて三位から順にE組、D組、B組となります」
「えぇ〜」
「やたっ三位キープ」
「むー。ま、妥当か」
悲喜こもごもな反応を返すみんな。その中で志々倉さんだけが不敵な笑顔でこちらの表情を伺っている。
胸元に付けるようにと実行委員からシール状の赤いリボンが渡された。続いて志々倉さんにも手渡される。

「ってことは、掛けはドロー?」
速かった方が勝ちの勝負で同着だったってことは、そうなるんじゃないかな。
でも、
志々倉さんは少しだけ考えて頭を振った。

「それじゃ面白くないからさ、同着でも一位なんだから、お互いひとつずつ頼み事が出来るってのはどう? ただし、三位以下に対しては二人ともお願いするのはフェアじゃないから無効ってことで。どうかな?」
「負けた私たちには異論はないよ」
「うん。あとは生徒会長次第だね」
ふむ。別に構わないかな。もとより俺には賭けてまでお願いすることもない……いや、あるか。
でも、どうだろ。もう少し人となりを見てから決めても遅くない。

「私もいいよ。それで。で、志々倉さんの頼み事って決まってるの?」
「まぁね。そして、詩桜でいいよ呼び方」
と手を差し出す。こちらも右手を出して握手すると思いの外、強く握ってきたことに驚いた。

「なんとなくは決まってる。でも、まぁまた後日ね。人を待たせてるみたいだし」
志々倉さん……詩桜の視線を追うと、響に連れられた菫が今にも駆け出しそうに待っていた。

「わかった。じゃ、またあとで詩桜。……菫、お待たせ」
「さくらっ」
名前を呼んで一歩踏み出す間もなく、菫が駆けてきてドスンと抱きついてくる。
勢いついてなお軽い衝撃を受け止める。

「よく来たね。応援聞こえてたよ。ありがとう」
小さい体をいつものように抱き上げると、視線の高さが同じになった菫が俺の首に腕を回してにっこりと微笑んだ。

「ねぇ、さくら。さっきの駆けっこどうなったの?」
ほのかに上気している頬。砂埃対策のマスクがちょっと苦しそうだ。

「うん。菫の応援のおかげで一等賞だったよ。同着の一位だけどね」
「どーちゃくの一位?」
「そう。他の人と同時にゴールに着いたから”同時に着く”で同着。ふたりが一等賞だったんだ」
「やっぱり一等賞だったね! さくらすごい。かっこいい!」
首に回した腕に力を入れて、頬を擦り合わせてきゅうっと抱きしめてくる。
そんな親愛の表現が嬉しくて、一番を取って『やっぱり』と評される過大な信頼をだけど裏切れないなと思う。

「なになにー? ちっさいさくらがいる! うわぁ、妹さん?」
胸に赤いリボンを付けた茜が駆け寄ってきた。

「違うよ……っと、ここは邪魔になっちゃうから来賓テントに行こうか」
菫、そして響に目配せしてトラック内から退場する。
百メートル走はもうすぐ二年生の番になる。
電光掲示の得点ボードに目を移すとA組は297点で三位だった。
トップはC組の352点。二位に50点近くも差をつけていて、二位以下は比較的僅差だ。

「そっちの人は斎凰院? ってことはさくらの友達?」
「そうだよ。斎凰院高等部生徒会を代表して来てくれた、九條響さん。そして、私のクラスメイトの荏原茜さん」
「初めまして。さくらがお世話になってます」
「いえいえ、ボクの方こそです」
ふたりが握手を交わす。

「で、この娘が九條菫。響の妹なんだ」
「荏原茜でっす。よろしくねー」
「……うん」
菫は差し出された茜の手を、おずおずと、でもしっかりと握り返して握手する。

「でも、マジでさくらの妹じゃないの? ん〜。まぁ背格好とか雰囲気とか九條さんとさくらって似てる気がするからってのもあるけど」
「よく言われるけど、そんなに似てる?」
なんせ自分の記憶にある幼少時の姿は男のもので、今の菫とはどうしても繋げにくい。

「うう〜ん。そう問われると、目元とか眉とか、パーツ毎に比べると一緒ってほどの共通点は感じないんだけどね」
「そう? でも、まぁ似てるって言われるのは嬉しいけどね」
菫の顔を覗きこむとパァッと綻ぶように笑顔を見せて、再度きゅっと抱きついてくる。

「あはは。すっごい懐いてるじゃん。だから姉妹に見えるのかもね」
「ふふふ。いっそ三姉妹ってことにしましょうか」
そう言って響が俺に寄り添うと、茜が『うん。見える見える』と破顔する。

「ミキちゃん、響ちゃん、菫ちゃん、やっほ〜」
少し息を切らしたコノエがひらひらと手を振りながら追いかけてきた。
胸には緑のリボン。とすると三位だったのかな。

「櫻子ちゃん、おはよー」
「おはよ〜菫ちゃん。体調いいみたいだね。なんだか血色いいよ」
「うん。今日は調子いいの」
「そいつは重畳。今日はがんばって応援しないとだもんね」
「うん!」
和気あいあいなふたり。
コノエと菫が一緒のところは見たことなかったけど随分仲がいいようだ。
俺より響の家に足を運ぶ機会も多いだろうし、コノエと菫が面識があってもそれはおかしくはないか。

「九重副会長も菫ちゃんと知り合いなの?」
「あ、荏原さんもやっほ〜。うん、私と響ちゃん……九條さんは親戚筋にあたるからね」
「なるほど。謎は全て解けた!」
したり顔で腕を組む茜。

「謎ってほどじゃないでしょ」
そう苦笑を漏らしつつ突っ込むと、

「にゃはは。細かいことは気にしない気にしない」
「そうそう。ミキちゃんはドーンと構えてなくちゃね」
なぜか俺が批判されてしまう。


「ホントは桔梗さんとか、他に適役がいれば任せたいところなんだけどね」
「やめろ! 桔梗の名前を出したら湧いてくるぞ?」
「誰が湧いてくるですって?」
茜の背後に現れる桔梗さん。俺からは近づいてくるのが見えてたんだけど、茜は背中向けてたので突然現れたように感じただろう。

「ぎゃー出たー!!」
「こら! 待ちなさいっ」
ダッシュで逃げる茜。そして、条件反射なのか桔梗さんが追いかけていく。

「元気いっぱいだねぇっと、そうそうミキちゃん。響ちゃんの他に招待した他校の生徒会の方が見えてるから挨拶を済ませちゃって」
「あ、うん。ちょうど向かってるし、今から会おうか」

来賓用のテントに戻って菫を下ろすと名残惜しそうに腰にしがみついてくる。
不安そうに見上げる瞳を覗きこむと、形容しがたい感情が渦を巻いて荒れ狂うのがわかる。
やばい。母性本能とか庇護欲とか関係なしに可愛い。

(これが昔、猫のゲームで出てた胸キュンという感情なのかも)
タガが外れてなにかが暴走しそうな心を引き締める。いけない。すぐに挨拶しなきゃだし、我慢我慢……

「会長。こちらが高浜高校の小田原則明生徒会長。そして、白峯女子の敦賀立花生徒会長です」
コノエが紹介でふたりが席を立って頭を下げる。

「小田原です。本日はお招きありがとうございます」
差し出された手を握り返す。

「光陵高校、生徒会長の波綺さくらです。今日はお越しいただきありがとうございます」
男子生徒、高浜高校の小田原さんは、ひと言でいうとインテリメガネくんって感じだ。

「白峯女子の敦賀立花です。テレビ、拝見しました。お会いできて光栄です」
「波綺さくらです。……あれ見たんですか」
「えぇ。だからお会いできる今日を楽しみにしてたんですよ」
敦賀さんとも握手する。こちらも眼鏡をかけた才女って雰囲気の人だ。

「僕も拝見しましたよ。いろいろ興味深かったので同じく楽しみでした」
「そうでしたか。すみません実物はこんなんで」
フル広告仕様のジャージ姿で会いたくはなかった。と今更ながら後悔する。

「いえいえ。テレビよりなんというか、実物の方が良いと思いますよ僕は」
「同じく。もちろんテレビでも素敵でしたけどね」
居た堪れなさを愛想笑いで取り繕う。こう初対面の人に褒められるのは苦手だ。

「ありがとうございます。でも、苦手なんですよテレビとか……」
「えぇ〜? 堂々としてたじゃないですか」
「さっきも一年生なのに貫禄あるって、敦賀さんと話してたんです」
「うんうん」
「あ、実は……中学時に病気が理由で留年してるから、年齢的に本来は二年生なんですよ」
「本当に? なら同い年ってこと? やった」
なにが『やった』なのかはわからないけど、敦賀さんが小さく飛び跳ねた。

「留年に対して『やった』は、ちょっと失礼じゃないかな」
小田原さんの言葉に慌てて手を振って否定する敦賀さん。

「違う違う。違うの。留年の方じゃなくて、同い年なことが嬉しくて。失礼なこと言ってごめんね。波綺さん」
「ふふ。いいですよ。気にしてないですから」
「あ、ありがと。あのね。私は二年生なんだけど、波綺さんが一年生でこんなにしっかりしてるんなら、正直参るなぁって思ってたのよ。どうしても比べられるじゃない? 生徒会長同士ってことで」
「あぁ、なるほど。でも、それを言うなら同じ歳でも比べられるんじゃないかな?」
と、小田原さんの言葉に敦賀さんは『しまった』という表情を見せる。

「あのぅ。私なんか大したことないので気にしなくても大丈夫かと思うんですが……」
そもそも会長の仕事ほとんどコノエに任せきりだし。とコノエに視線を向けると頷いて一歩前へと進み出た。

「お話の途中ですが次の競技がありますのでそろそろ……。またあとでゆっくりと時間を設けますので。それと、お昼前にテレビ取材があります。都合がよければ一緒に出ていただけると助かります。会長も事後報告になりましたがお昼の取材は一緒にお願いしますね」
え? と思ってみんなの顔を見ると三者三様の表情で頷いている。ってことは事前に了解は取ってあるのか。表面上は動揺を見せずになんとかコノエに頷き返す。

「では、また後ほど」
こちらの立礼に、響を含めた三人は笑顔を返す。

「なにかあれば、隣の救護テントに実行委員が控えているので遠慮なくお申し出ください」
最後にコノエが締めくくる。

「さくら行っちゃうの?」
菫が上着の裾を掴んで引き止める。

「ごめんね。また次の競技に出るから応援よろしくね」
しゃがんで視線の高さを合わせてから頭を撫でると、くすぐったそうに身をすくめる。

「うん。応援する。がんばって!」
「ふふ。任せなさい」
「絶対、勝ってね」
「了解。がんばるよ」
安請け合いだと理解しつつも、無垢な笑顔の期待を裏切れなかった。

「私たちも応援しますね!」
「がんばってください

敦賀さんと小田原さんの言葉にありがとうございますと頷き返す。

なんだかものすごい追い込まれた感が両肩にのしかかる。
ま、まぁ自業自得だし、がんばるしかないよね。うん。

 
   




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