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Chapter. 5
Shadow of malice

シャドウ・オブ・マリス 1





 
   

月曜日の朝。
なんだか疲れまくった二日間を乗り切った割には気持ちのいい目覚めだった。
土曜日は真吾と久しぶりに遊びに行って、そのままお泊まりコース。
日曜日はサッカーの練習試合の応援に行ってトールと再会。
その後は、迂闊にも制服姿のまま下宿先に顔を出してしまって散々だった。
なにせスカート姿なんて、ほとんど見せたこともなかった上に、セーラー服だったりしたものだから……。
いや、なにも思い返さなくてもいいだろ。
嫌な記憶はなるべく考えない方がいいってカウンセラーの先生も言ってたし。

とにかく精神的にもすごく疲れてた。
だから、昨晩は湯船で小一時間ほどぼぉ〜っとしてた。
その時使った「バスキューブ」なる温浴剤が幸いしたのか、今朝はすこぶる快調だ。
あのバスキューブはバイト先で貰ったものなんだけど、こんなに効果があるならもう一個くらい貰っておけばよかったな。
でも、泡がすごくて入浴後に洗い流さないといけないのが手間だけど。
お風呂の順番が最後の時にしか使えないかな。

んっと大きく伸びをして、まだ眠そうなチェリルに見守られながら制服に着替える。
身支度を整えて時計を見ると登校までにはまだ時間がある。
朝食の準備でも手伝おうかな。
「下に行くけど、チェリルはどうする?」
と声をかけたけど、チェリルは眠そうに大きくあくびして、もぞもぞと丸くなって目を閉じてしまった。
昨日夜更かしでもしたのかな。

「よし、出来あがりっと」
ベーコンエッグをこんがりきつね色のトーストで挟んで三角に切る。
具を変えたホットサンドが人数分テーブルに並ぶ。
コーヒーとサラダは母さんが用意をしている。

「ありがとう、さくらちゃん。助かるわぁ」
母さんはニコニコと嬉しそうだ。

「そんな大したことじゃないって」
ひととおり終わってエプロンの紐を解く。
さて、学校の準備をしてこようかな。

「おはよう瑞穂。朝ご飯もうできてるぞ」
階段で眠そうな瑞穂とすれ違う。

「ふぁ〜い」
瑞穂は大口開けて、挨拶なんだかあくびなんだか、きっとその両方であろう不思議な返事をする。

「やけに眠そうだな。瑞穂も夜更かししたのか?」
「う〜ん。でもない……んだけど……。ん?瑞穂もってことはお姉ちゃん昨日遅かったの?」
「いや、違う。チェリルがね、眠そうだったから」
「もう〜チェリルと一緒にしないでよ。ふぁぁ……あ、あれ?」
瑞穂が目を袖でこすりながら、不思議そうな顔をして俺の胸元に顔を寄せてくる。

「な、なに?」
そのまま目を閉じて、くんくんと匂いを嗅ぐ。

「……ね、お姉ちゃん。なにかいい匂いがする」
「なんだ? そんなにお腹空いたのか?」
「もう〜違うよぉ。それよりお姉ちゃん……香水か、なにかつけてる?」
「……。あ、あれかな? バスキューブの匂い。バラの香りがどうとか書いてたと思うし」
「へぇ。これってバラの香りなのかぁ。ふふ、いい匂い。ね、バスキューブどうしたの?」
「試供品を貰っててね。アロマテラピーの効果もあるってことだったから昨日使ってみたんだけど……そんなに匂う?」
自分じゃ全然気がつかなかった。
確かにお湯に溶かしてる時はちょっと強いかな〜って思ってたんだけど……。

「ちょうどいい感じだと思うよ。あ。だからお風呂最後に入ったのかぁ。ね、次は瑞穂も使っていい?」
「次って、もう無いぞ」
「えぇ〜お姉ちゃんだけズルい〜」
「そんなこと言われても。試供品だったんだから仕方がないだろ?」
「ねぇ。どこで貰ったの?」
「どこって」
エステのバイトの時に貰った物……なんて言ったら質問の嵐になるに違いない。

「前に福引で貰ったんだよ」
視線が泳ぐ俺に、なおも瑞穂が質問する。

「どこの?」
「下宿先近くの商店街」
「そっかぁ」
瑞穂が『はぁ』と溜め息をつく。残念そうな顔を見ていると、嘘をついてる罪悪感が湧いてくる。
それでも、それは表情には微塵も出さずに笑顔を作って答える。

……いつものように。

「確か友達も同じの貰ったはずだから、譲ってもらえるよう頼んでみるよ」
「え? いいよいいよ。そこまでしなくても」
「気にするなって。でも、無理だったらごめんな」
「うん。ありがとうお姉ちゃん。さ、ご飯食べよ〜」
笑顔に戻った瑞穂がキッチンへ入っていく。
それを見送ってから自分の部屋に戻った。

準備を機械的に進めながら考えに沈んでいく。

…………。

秘密。
嘘。
偽り。
虚像。
演技。
作りもの。

……隠しごとは、さらなる隠しごとを生む。
雪だるま式に大きくなる偽りの重さの下で、じっと耐える。
表面上の安寧の代償に、大切な人たちを欺き、大事なものに見えない傷を刻んでいく。
何度も、何度も、繰り返し刻み続けていく。
この積み重ねていく嘘の数々。
その行為は正しいことなのか? 間違っていないのか? 他にもっといい方法が無かったのか?
何度考えても、その答えは未だ見つからない。
嘘を重ねる自分が、時折どうしようもなく許せなくなって心が苦しくなる。

「……でね。さくらちゃんが手伝ってくれたのよ。お母さん助かっちゃった」
「そうか。おまえがなぁ」
「うぅ。瑞穂ちゃんピ〜ンチ」
「……」
いつもと変わらぬ朝食の団らんの中にいて。
変わらない日常の中にいて。
心の奥で、なにかが軋む音が聞こえてる気がした。



出かける前の沈んだ心を映したかのような、どんよりとした雲行きの空。
その曇り空を見上げて大きく深呼吸する。
結論が出せない答えを心の奥にしまって、気を取り直すと学校への歩みを心持ち元気よくする。

「おっはよーさくらっ」
「あ、おはよ。茜」
元気のいい茜の声。
その元気を分けてもらえるような笑顔に少しだけ救われる。

「朝早いんだねー。まだ八時くらいだよ」
隣に並んだ茜が歩調を合わせながら腕時計を見る。

「ちょっとね。朝ゆっくりしてると、なにかと都合が悪いんだ」
ゆっくりしてたら母さんがまた『お化粧させて! ね?』とか言い出しそうだからな。
……今日はそれだけでもないんだけど。

「休み、なにしてた?」
「ん? うん。サッカー部の練習試合見に行ってたよ」
「へぇ。さくら、サッカー好きなんだ」
「嫌いじゃないよ。でも特別好きでもないかな。ただ、真吾が出てたからね。妹たちと応援に行ったんだ」
「ふぅん。そー言えば幼なじみとか言ってたもんねー」
茜は納得したように、うんうんと頷く。

「今、妹って言ったよね。他にも兄弟とかいるの?」
「いや、妹だけだよ。兄妹ふたり。茜は?」
「やださくら。それなら姉妹ふたり〜の方がいいんじゃない?」
バンと肩を叩いて茜が笑う。

「そ、そだね」
あ、あぶないあぶない。

「ボクんとこはね、兄貴と弟がひとりずついるよ」
「うん。なんとなくそんな感じする」
「そう? さくらもさ、なんか『お姉さん』って感じするよね」
「そっかな?」
「そーそー。なんかしっかりしてそーだもん」
「そんなことないよ」
「そんなことあるって。制服着てなきゃハタチくらいに見えるよ」
「なに? それは老けてるってこと?」
ジト目で茜を見る。

「あはは。大人っぽいってことだよ。誉めてんの」
「まぁ、よく言われるんだけどね」
私服だと、よく大学生に間違われるもんな。

「ね? 妹さんってさ、さくらと似てる?」
「んー。いや、あんまり似てないかな」
「ボクも兄弟とはあんまり似てないんだー。まぁボクだけ美少女だから良いんだけどねー」
あはははっと冗談交じりに笑う茜。
うん。確かに茜はキュートで可愛いと思う。

「そうそう。似てるって言えば、楓ちゃんは双子なんだってね。知ってた?」
「ほぇ。さくらったら、いつの間にそんな情報仕入れたの?」
「金曜日に楓ちゃんと、ちょうどこんな会話になった時にね」
「ふぅん。双子ってことはウリ双子なの?」
「う〜ん、結構似てるかなぁ。でも、並んでるところは見てないから、どれくらい似てるのかはわかんないけどね」
「おろ? さくらってばその双子ちゃんに会ったの?」
「同じ学年みたいだよ。楓ちゃんの弟になるんだって。会ったのは入試の時。入学してからはまだ会ってないかな」
「へぇ。今度紹介してもらおっと」

そんなことを話してる間に学校に着く。
正門をくぐると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
視線を向けると、玄関横の掲示板に人だかりが出来ている。

「あぅぅ〜。あれってきっと、この前のテストの掲示だよねぇ〜」
茜がげんなりした調子で、掲示板を指さす。

「ちょっと見ていこうか」
「うぅ〜気乗りしないけど〜」
渋々といった感じで、ずりずりと足を引きずるように掲示板に向かう茜。
よっぽど嫌なんだな。

生徒の群れの、さらに後方から成績順位表を眺める。
えぇっと……。

三一年A組/西森桔梗四百二十一点

六十四一年A組/高木瀬楓三百六十五点

九十五一年A組/波綺さくら三百三十二点

百五十六一年A組/荏原茜二百十二点

と、言うことらしい。
生徒数は一学年百七十人ちょっとだから……俺の成績は真ん中よりちょっと悪いくらいか。
平均三百五十くらいかな。さすがは進学校。

「桔梗さん、すごいねー」
学年で上から三番目。
もうちょいで学年主席じゃん。
あの、参考書をいつも離さない姿は伊達じゃないってところかな。

「桔梗はね。昔はそうでもなかったんだけど、今はすっごい成績いいのよ。見ての通りガリ勉だから」
「あはは」
「そーゆーさくらも、いい点取ってるねー」
羨ましそうに茜が指をくわえて俺を横目で見る。
でも、手応え的に四百はいけたかなって思ってたんだけどな。

転校してから、同じ下宿先の大学生『緒澤奈月』さんに、毎日のように家庭教師をしてもらっていた。
奈月さんは教え方が上手で、その成果が出たのか以前に比べて学力面で大きく伸びた。
その頃の俺は学校での対人関係が上手く行ってなかったし、別にやりたいことがなかったのもあって花嫁修業(料理とかね)と勉強ばかりやってた時期があった。
その時からかな。なんとなく勉強が楽しくなったのは。
ちょっとずつ成績が上がっていくと、自分自身の実感として満足するし、なにより下宿先のみんなが自分のことのように喜んでくれるのがものすごく嬉しかった。
中学卒業まで家庭教師は続けてもらっていたから、試験勉強してなくてもちょっとだけ自信があったんだけどなぁ。
ま、そんなに悪くはないんで良しとしておこうかな。

 
   






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