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Chapter. 2
High school debut
ハイスクールデビュー 2
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「ふぅ」
青く澄んだ空を見上げて深呼吸をする。
時間は七時四十分。
今日は初の登校ってことで早めに家を出た。
家から光陵高校までは徒歩で二十五分ほど。
メグに聞いたところ、八時三十五分までに教室に入れば遅刻にはならないらしい。
だから、本来なら八時に家を出ても楽に間に合う計算なんだけど、なにせ自分のクラスさえわからない。
早めに登校して職員室なりで聞かなくちゃ。
いよいよ今日から俺の高校生活が始まる。
セーラー服で毎日通学しなきゃならないかと思うと正直かなり行きたくない。
でも、そんな理由で登校拒否するのも恥ずかしいし、腹決めるしかないか。
と、そんな情けなくもしょうもない決意を固めつつ八時過ぎには学校に着いた。
いくらなんでも早すぎたかな〜と思いながら辺りを見回してみる。
ちらほらと生徒の姿を確認して安心した。
どうも初登校で緊張しているみたいだ。
再度、深呼吸して気合いを入れてみたけど、やっぱり落ちつかないや。
僅かに緊張したまま、朝の静けさが漂う校内に足を踏み入れる。
校庭の桜は、すでに満開を過ぎ、地面に薄いピンクの絨毯を作っていた。
それを避けるようにして生徒用の玄関に向かう。
持ってきた上履きに履き替え、外履きは入れ替わりにシューズケースに入れる。
あとで自分の下駄箱の位置を確認しておかないと。
「まずはクラスの確認だな」
そう呟いて職員室を探す。
何度か迷いながら、やっと発見した職員室のドアには『生徒立ち入り禁止』と大きく書かれてあった。
ドアの前でしばし思案していると、先生らしき中年の男に声をかけられた。
事情を説明してクラスを確認してもらい、教室の場所を教えてもらう。
どうやら一年A組が俺のクラスになるらしい。
先生にお礼を言って、早速教室へ向かった。
あったあった。一年A組。ここだな。
教室に入ると、すでに数名が登校していた。
それぞれにグループを作って話していた声が、俺に気がつくと一様に静まって視線だけが向けられる。
「おはようございます」
挨拶してはみたものの、返ってきたのは無言の視線だけだった。
所在なげに教室の後ろの棚へと荷物を下ろす。
「ねぇねぇ。あのさ、ひょっとして波綺さん?」
未だ沈黙に満たされた教室の静寂を破るように、ひとりの女の子が俺に話しかけてきた。
身長は俺より少し低いけど、それでも高一の女の子としては十分高い方だ。
彼女の動きに合わせて活発そうな印象のポニーテールが左右に揺れる。
「はい」
「やっぱり? あ、ボクは荏原茜。よろしく〜」
「波綺さくらです。こちらこそよろしく」
「うん。そうそう波綺さんの席はここ。出席番号順なんだ。落ちついたら席替えするって言ってたよ」
「ありがとう」
案内された席にカバンをかけてコートを脱ぐ。
「入院してたんだって? 大変だったね」
「ちょっと出遅れちゃったかな」
「あはは。でもたった二日だし、大丈夫だよ」
「そうかな」
「うんうん。でも波綺さん背高いね。なにかスポーツやってたの?」
「う〜ん、中学の時には合気柔術部に在籍してたけど」
でも公式試合には出てないし、在籍してただけなんだけど。
……させられてた、が正しいかも。
「合気柔術部? そう言えば、ウチの学校にもそんな部があるとかって聞いたような」
「そうらしいね。で、荏原さんもなにかスポーツやってるでしょ?」
「えへへ。実はバスケ部に入るつもりなんだ。小学校の時からやってるし。そうだ。波綺さんも一緒に入らない?」
「バスケ部?」
「うん。その身長。素質あるよ」
「でもね。今はコレだから」
左手のギプスをかかげてみせる。
「そうかー。まぁ考えといてよ」
「うん」
荏原さんは見た目通りに快活な娘だった。
彼女のおかげで不安もかなりなくなりつつある。
「いたいた。さくらちゃーん!」
廊下から名前を呼ばれる。この声は志保ちゃんかな?
「ちょっとごめんね」
荏原さんに挨拶して廊下へ出る。
そこには、志保ちゃんに加えて、ちひろさんが笑顔で待っていた。
「おはよ。さくらちゃん」
「おはようございます。さくらさん」
にっこりと志保ちゃんが微笑み、その隣でちひろさんが優雅に挨拶する。
「おはようございます」
わざわざ会いに来てくれたふたりに深々と頭を下げる。
「さくらちゃん、スカート姿も格好良いね〜」
制服姿を目にした志保ちゃんが、触れて欲しくない部分にキッチリとチェックを入れてくる。
「うん。さくらさんの制服姿って初めて見ますけど、良く似合ってますよ」
ちひろさんも、わざわざ数歩下がって全身を眺める。
「うぅ……。あんまりジロジロ見ないでください」
「どうして?」
不思議そうな顔で志保ちゃんが首を傾げる。
「いえ、実はスカートって苦手なので……」
頬を掻きながら横に視線をそらす。苦手と言うよりは『嫌』過ぎるんだけど。
「そうなの?」
「どうも落ちつかなくて」
「それじゃぁ中学の時はどうしてたの?」
「私の中学は私服だったんでジーンズを」
「ふぅん。でもでも。さくらちゃん、足のライン綺麗だしもったいないよ〜」
もったいなくないです。
「そうね。黒のストッキングも魅力的で……あら? ガーター?」
ちひろさんがスカートの裾を指さす。
「いえ、確かガーターレスとか言ってましたけど」
スカートを摘んで、ちょっとだけ持ち上げて覗き込む。
ストッキングは太股の途中までで、そこから上は素足が見えている。
「さ、さくらさん! 見せなくてもいいですから」
ちひろさんが慌てて俺の手をとめる。
「……? はい」
「ガーターは校則で認められていないはずだったんで、ちょっと気になって。でも、ガーターレスはどうだったかしら?」
「う〜ん……問題なかったと思うけど」
思案顔の志保ちゃん。
「うん。スカートで隠れてるし、さくらさんのは大丈夫かな」
納得したように頷くちひろさん。
「それにしても短くないですか? ここの制服のスカートって」
太股のなかば程までしかないスカートの裾を引っ張りながら、ふたりに問いかける。
「今はこれくらい標準だよ。でも、確かに短いかな?」
志保ちゃんは顎に手をあてて、俺のスカートを眺めながら答える。
「そうですね。階段とか気をつけないと見えちゃいますからね」
「だね〜。ある程度は見えちゃうことは覚悟しといた方がいいかもね」
やっぱり、そう言うものなのか……。
「ほらほら、さくらちゃん。そんな顔しないで」
「ふふ。気になるようなら、立ち居振る舞いについて今度教えてあげましょうか」
無意識に嫌そうな表情でも浮かべていたのか、ふたりから気遣う言葉をかけられた。
「あ。はい、お願いします」
ペコリと頭を下げる。『はい、では今度』と、ちひろさんはにっこりと微笑んでくれた。
ついに俺もスカート対策をすることになるのか……。
「それにメガネもしてるんだね」
なぜかグッと顔を近づけてくる志保ちゃん。
至近で見つめてくる志保ちゃんに少しドキドキする。
「え? あ、う、うん」
「視力落ちてるんですか?」
意外そうなちひろさん。
「いえ、これは伊達なんです。メガネしてると頭良さそうに見えるでしょ?」
メガネをはずして、レンズに度が入っていないことを説明する。
「う〜ん。でも、さくらちゃんメガネない方が美人だよ」
「うん。私もそう思うなぁ」
そう言えば、メグもかけない方がいいとか言ってたな。
う〜ん、俺的には悪くないと思うんだけどなぁ。
「これはこれでいいんです。目立たない方がいいし」
ふたりの視線から隠れるようにうつむいて、メガネをかけ直した。
「う〜ん。目立たないって言うのは無理じゃないかしら?」
ちひろさんが困ったように苦笑する。
「え?」
「うん。さくらちゃんって目を惹くものね」
志保ちゃんはそう言うと、同意を求めるようにちひろさんと視線を合わせる。
「そうね。存在感あるし、スタイルも良いし」
「美人だし」
「もう。誉めてもなにも出ませんよ?」
やたら持ち上げてくるふたりに苦笑して答える。
しかし、美人だとかスタイルが良いとか言われても、全然誉められた気がしないな。
改めて自分の価値観が男のままなのを実感する。
「え〜。お世辞じゃないよぉ」
明るく笑う志保ちゃんに釣られて、ちひろさんや俺も思わず笑ってしまう。
「ふふ。そうそう、さくらさん。今日の試験がんばってくださいね」
思い出したようなちひろさんの言葉に、聞き慣れてるけど不穏な単語が含まれていた。
「え……試験?」
なんの?
「ええ。今日は実力考査があるんですよ。って、ひょっとして知りませんでした?」
「ちっとも……」
「あ〜そっか。ちーちゃん。さくらちゃんは今日が初登校なんだから知らないのも無理ないよ」
「……それもそうね。ごめんなさい。それなら、お見舞いに行った時にでも話しておけば良かったですね」
試験?どうして入学式が終わって早々にそんなものがあるんだろう。
そう言や、ここは一応進学校なんだっけ。
なら、そんなものなのかな〜と無理に納得した。
「まぁ良いですよ。実力考査なら入試と同じようなものでしょ?文字通り実力で挑んでみます」
多少の強がりを見せてそう答える。
見栄張りだと思うけど、女の子の前で情けないな姿は見せられない。
「そうね。それも良いかもしれませんね」
優雅に微笑むちひろさんと、可愛く笑う志保ちゃん。
そんなふたりの様子を見ていると、本当の姉妹のように感じる。
仲良いんだなぁ。
俺もその笑顔に釣られるように笑った。苦笑いに限りなく近かったけど……。
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