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 Chapter. 2
 High school debut
 ハイスクールデビュー 7
 
 
 
 
 
 
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								|  |  | 「それじゃ、さくらさん。私たちはここで」商店街を抜けたところで、ちひろさんが切り出した。
 
 「あ。ちひろさんに志保ちゃんも今日はありがとうございました」
 ふたりにお辞儀する。
 
 「私も楽しかったです。では皆さんごきげんよう」
 ちひろさんも優雅に会釈を返してくれた。
 
 「それじゃ、みんなも気をつけて帰ってね。さくらちゃんバイバイ」
 志保ちゃんが大きく手を振る。
 
 「はい。さようなら。また学校で」
 「さて。私たちも、ここらで解散しよっか」
 最後までメグが仕切って、ここで解散することにした。
 
 「それじゃね〜。まった、らっいっしゅ〜〜。サラバ」
 茜が大きく手を振りながらぴょんぴょんと飛び跳ねてハイテンションで挨拶する。
 
 「もう、茜。馬鹿やってないで帰るわよ。それでは失礼します」
 行きとは逆に、今度は茜が桔梗さんに引きずられるように帰って行く。
 
 「今日は楽しかったです。バイバイさくらちゃん」
 続いて楓ちゃんが、ほんわかした笑顔で手を振ってくれる。
 それに釣られて笑顔で手を振り返した。
 いい娘だよなぁ楓ちゃんって。
 
 「じゃ、俺たち電車組だから。さくらちゃん、また遊びに行こ〜ね」
 北倉先輩が真吾と肩を組み、二本だけ立てた指を額にあてて敬礼する。
 なんでいちいち気取ったポーズ取るのかな。
 
 「ふたりとも気をつけてね」
 真吾らしく、みんなのタイミングを待ってからの挨拶。
 北倉先輩と肩を組んでても、嫌がる素振りは見せずにニコニコといつもの感じだった。
 う〜ん。そういや、このふたりの関係ってよくわかんないな。
 
 「うん。さよなら。あっと真吾」
 頼みごとを思い出して真吾を呼び止める。
 
 「なに?」
 「途中まで楓ちゃん送って行ってよ」
 かなり遅くなっちゃったし、さっき聞いた楓ちゃん家は割と真吾の家に近かった。
 よくよく話してみたら、楓ちゃんと真吾は同じ中学出身だったから必然に近い偶然だ。
 
 「あ。そんな、いいよさくらちゃん」
 楓ちゃんが慌てたように遠慮する。
 
 「な〜に。遠慮しなくてもいいって。女の子を送るのはナイトたる僕の勤めだし」
 北倉先輩が髪を掻き上げながらキラキラした目で宣言する。
 
 いや、あんただとかえって心配だよ。
 まぁ良い人って言えば良い人なんだろうけど、まだよく知らないしなぁ。
 とか考えていると、いつのまにかメグが楓ちゃんに寄り添い、北倉先輩を横目で冷ややかに見つめてた。
 
 「高木瀬さん。コイツには気を許しちゃダメだかんね。なんかされそうになったら大声出して助けを呼ぶんだよ?」
 そして、いつものように聞こえよがしに忠告する。
 
 「え、えぇ!? あ、はいっ」
 多分よく理解してないまま、楓ちゃんが勢いで頷く。
 
 「羽鳥!! おめー言っていいことと悪いことが……」
 「これは言って悪いことじゃなくて、言わなきゃなんないことなのよっ!」
 噛み付かんばかりの勢いでまくし立てるメグ。
 
 「なんだとこのアマー!!」
 「きゃぁ〜こわ〜い。ほらね高木瀬さん。本性を現したわよ。注意しなさいね」
 「くっそぉぉ〜」
 北倉先輩の境遇が他人事に思えなくて思わず苦笑いのまま顔が引きつる。
 そんな心情を察したのか、真吾が『お見通し』って感じで笑っていた。
 
 「ん、んっ。頼むね」
 取り繕うように咳払いをして、最初とは別の意味を兼ねて真吾に声をかけた。
 
 「あぁ。大丈夫だよ。それじゃ。そっちも気をつけて」
 笑顔で頷いた真吾は、ふたりを促して駅へと歩き出す。
 
 「ほら、北倉行くぞ」
 「赤坂……あぁわかった。こら羽鳥てめぇ覚えてろよ!」
 「五分間だけならね〜」
 北倉先輩、メグを敵に回すモンじゃないんだよって忠告するにはもう手遅れかな。
 ご愁傷様。
 
 「さって。私たちも帰ろうか」
 しばらく三人を見送っていたメグが振り返る。
 
 「そうだね」
 俺とメグは、ふたり並んで歩き出した。
 
 
 
 
 「ね。さくら」
 住宅街に入り、人も車もまばらになった頃。ふたりきりになった途端に黙り込んでいたメグが口を開いた。
 
 「なんだ?」
 「……」
 「なんだよ」
 「えへへ。やっぱり、その話し方の方がいいな」
 さっき北倉先輩と言い合っていた勢いとは裏腹に、妙にしんみりとしたメグが笑う。
 
 「まぁ、俺もこっちが楽なんだけどな」
 メグだけが相手なら無意識に使い分けてるのか、言葉遣いが以前のものになる。
 
 教室などでは普通に『さくら』として喋れるんだけど、そこに真吾やメグが混ざっていると以前の言葉遣いが出そうになる。
 そうならないように注意していると、神経を使ってしまって気疲れしてしまう。
 まぁアレだな。
 上京して訛りが消えた言葉遣いが出来るようになっても、故郷に帰ると方言で喋ってしまうってのと同じなのかな。
 
 「人前じゃそうもいかないか。でもそれって大変じゃない?」
 「う〜ん。もう、ある程度は慣れちゃったしな。茜とかクラスメイトに『地』のままで話すのも、今ではちょっとだけ抵抗あるし」
 「そんなもの?」
 「どうだろ? 前の中学の時は、言葉遣いなんて、ほとんど意識してなかったんだけど。時間が経てば慣れちゃうと思うんだけどね」
 「ふぅん」
 また沈黙がおとずれる。
 
 車のライトが、ふたりを照らして走り去っていく。
 その後に静けさが広がると、またメグがぽつりと口を開いた。
 
 「ね。さくら」
 「なに?」
 「あのね」
 「うん」
 「……」
 「なんだよ」
 なんか変だよなメグの奴。
 
 「あの。し……」
 「シ?」
 「こ、浩一郎って、どう思う?」
 「北倉先輩? まだ良く知らないけど良い人だとは思ってるよ。今んトコ」
 「今のところ、ね。ま。それは賢明ね。確かに良い人ではあるんだけど」
 「ちょっと慣れ慣れしすぎて鼻につくけどな」
 「あは。そ、そうなのよねぇ。っ……」
 「?」
 「……はぁ」
 メグは、なにかをため込むように息を飲んで大きなため息をつく。
 
 「メグ。なんか、らしくないぞ」
 「う、うん。さくらは……さ、男の人とつき合ったことある?」
 「つき合うって、彼氏とか彼女の関係ってこと?」
 コクリとメグが頷く。
 
 こんな話題がメグから振られるなんて初めてのことだ。
 でも、ある意味それは当然かな。
 以前は男だったんだし、まだまだガキだったしな。
 
 「正式……にはないかな」
 ぼかして答える。
 
 「正式ってなによ」
 「一緒に遊びに行ったら、勘違いされてたってことが二回くらいあったけど」
 「さくらは、そのつもりはなかったってこと?」
 「あたりまえだろ。感覚的には男同士で遊びに行ったつもりだったし、遊びに行ったくらいで勝手に彼女扱いするなってーの」
 「まぁ、それはそうよね。……はぁ」
 「なんだよ? 突然こんなこと聞くなんて」
 「ううん。なんでもないんだ。じゃね、さくら」
 「う、うん。またな」
 いつの間にか家の前に着いていた。
 メグは軽く手をあげて、逃げるようにドアの向こうへ消えてしまった。
 
 「彼氏彼女か」
 そう考えて、ふたりの男と、ふたりの女の子の顔を思い浮かべた。
 
 ん〜。
 あんまり意識したことはないんだけど、どうしてこう何人も思い浮かぶかな俺は。
 しかも、男も女も。
 しかし、俺も案外、思考が女の子してきてるんじゃないかな。
 真っ先に浮かんだのが男だったことに安堵半分不安半分な気持ちになった。
 
 
 
 
 「ただいまー」
 「お姉ちゃん、お帰り〜。ズイブン遅かったね〜」
 いつぞやのようにチェリルを抱えて、瑞穂がとてとてと出迎えに来てくれる。
 
 「ああ、ちょっとメグたちとカラオケに行ってたから」
 靴を脱ぎながら答えると、
 
 「……それって、真吾お兄ちゃんも一緒だったの?」
 瑞穂の声がいつになく真剣なものに変わる。
 
 「ああ、そうだけ……」
 「え〜っお姉ちゃんずるい〜!そう言う時は瑞穂も誘ってよねっ。もうヒドイ、ヒドイよっ」
 返事を言い終わる前に、瑞穂が猛烈な抗議の声を上げる。
 
 なんなんだこの剣幕は。
 こんなに言われるほど悪いことしてないぞ。
 
 「今日は学校でそんな話になったからな。とても瑞穂を誘える余裕はなかったんだよ」
 たじろぎながらも瑞穂をなだめる。
 
 「………ふぅん。じゃ、今度は絶対誘ってよね?」
 その怒りは完全ではないが、ある程度は解けたようだ。
 しかし、頬を膨らませながら、しっかりと要求を伝えてくる。
 あは。本人には悪いんだけど、今の瑞穂は、ちょっと可愛いかも。
 
 「はいはい。わかったよ。母さん、ただいま」
 キッチンでは母さんが晩ご飯の準備をしていた。
 
 「あら、さくらちゃんお帰り。ご飯もう少しかかるから先に着替えてらっしゃい」
 「はーい」
 踵を返して階段を上る。
 その足下ではチェリルが、かまって欲しそうにぐいぐいとまとわりついてくる。
 
 「よしよし。いい子にしてたか〜?」
 チェリルを抱えて顔の前に掲げると甘えた声でひと鳴きした。
 そして、俺の鼻をざらざらした舌で舐めてくる。
 くすぐったさと少しの痛痒に頬を緩めながら部屋に戻ると、ベッドの上にチェリルを離して一番にスカートからジーンズへと履き替えた。
 
 やっぱりスカートって、どうも落ちつかない。
 でも、一日着てて気がついたんだけど、自分が『女』であることを常に意識するためには、スカートの方がいいのかもしれないとも思う。
 中学の時と比べて、学校で猫をかぶるのが自然に出来たような気がしたし。
 ま、それはそれ。家ではズボンで決まり。
 Tシャツとジーンズに着替えて、再びチェリルを抱っこしてリビングへと戻った。
 
 
 
 
 そのリビングでは、瑞穂がテーブルいっぱいにアルバムを広げて見入っていた。
 
 「あ、お姉ちゃん。これ、今朝話してたお婆ちゃんの写真だよ〜」
 さっきの剣幕はどこへやら、瑞穂がアルバムを指さして嬉しそうに笑う。
 
 「見る見る。どれどれ」
 瑞穂の隣に座ってアルバムを覗き込む。
 モノクロームの写真に時代を感じながら、瑞穂が指差す写真に目を向ける。
 そこには、今朝の俺にそっくりな女性が微笑んでいた。
 
 「ね。お姉ちゃんに似てるでしょ?」
 「あ、ああ……」
 「髪型とか制服とか違うんだけど、絶対お姉ちゃんに見えるもん」
 自分で見て『似てる』って思うほどだから、瑞穂から見ればさらに似て見えるんだろう。
 
 しかし、微笑んでるくらいならまだそっくりに見えるんだけど、笑顔になると別人のように感じる。
 俺自身、写真があまり好きではない(容姿はコンプレックスの原因だったから)からか、笑顔で写ってるものは限りなく少ない。
 だから、見慣れてないだけかもしれないんだけどね。
 自分の自然な笑顔なんて、見覚えがないのが普通だと思うし。
 そんな感じで、笑顔の写真は無いわけじゃないんだけど、自分では持ってはいないので今ここで比べることはできないんだよなぁ。
 
 「でも、こんなには可愛くないと思うけど」
 「ん〜」
 瑞穂が俺の顔をじっと見て、それから再び写真に目を落とす。
 
 「そんなことないよ。笑顔とか双子みたいにそっくりだもん」
 「ね〜。似てるわよねぇ」
 一息ついたのか、母さんもキッチンからやってきて話に加わる。
 
 ……笑顔も似てるのか。
 とゆーか俺って笑うと、こんなに可愛くなるのか? 嘘だろ?
 
 「でも、ふたりが双子なら、さくらちゃんの方がお姉さんって感じよね」
 母さんもソファに並んで座る。
 
 「お姉ちゃんの方が凛々しいって感じだもんね」
 「それは自分でも確かにそう思うな」
 その意見には賛成だ。だって、こんなに女の子っぽくないもんな。
 
 「お母様は儚げな感じで妹みたいな感じよねぇ」
 「うん。でもお婆ちゃんって、ホント美人だねー」
 シミジミと溜め息をつく瑞穂。
 
 「うふふ。だからお父さんもハンサムなのよ」
 嬉しそうな母さん。
 
 「う〜ん。それは認めてもいいけど、ちょっと押しが弱いからなぁ。お父さん」
 「あら。そこが可愛いんじゃないのぉ。瑞穂ちゃんにはわからないかなぁ」
 「瑞穂は、真吾お兄ちゃんの方がいいなぁ」
 「あら。真吾くん?瑞穂ちゃんも面食いなのね」
 「えへへ。だって真吾お兄ちゃん優しいもん」
 「でも瑞穂、真吾も押しは強くないぞ」
 メグの半分もないと思う。
 
 「そりゃ〜お姉ちゃんに比べればね〜」
 「なんだよそれ」
 だから、そこは普通メグと比べるとこだろ。
 
 「だって昔から、いっつも無茶してるお姉ちゃんを、いっつも真吾お兄ちゃんがフォローしてたじゃない。押しの点ではお姉ちゃんのが上だもん」
 「……俺もメグには敵わないんだけど」
 情けない反論を試みる。
 
 「そおねぇ。恵さんって、考えがしっかりしてるから。一度自分で決めたことは守り通すって感じだものね」
 「言い始めたら絶対譲らないガンコなとこがあるしな」
 と、メグを肴に三人で笑いあった。
 
 しかし、俺とお婆ちゃんって、確かに双子のようにそっくりだった。
 これって隔世遺伝とか言うやつなのかな?
 瑞穂は母さん似だし、俺はお婆ちゃん似。
 待てよ? 女の子は父親に似るとか言うけど、家の場合は当てはまらないな。
 
 「あ、そう言えば、さくらちゃん」
 ちょっとだけ物思いに沈んでいたところを現実に引き戻される。
 
 「学校から連絡があったわよ」
 今思い出したように、ぽんっと手のひらを合わせる母さん。
 
 「え? 別になにもやってない……けど」
 「あらあら違うわよ。赤井先生って言ったかしら。帰りに伝えるつもりだったけど忘れたって言ってらしたわ。明日、学校に来てくださいって」
 「えぇ!? 明日って休みなんだけど」
 「だから連絡が来たんじゃないの?各教科の資料や体操服の採寸、連絡事項なんかがあるんですって」
 「あ〜そっか。休んでたから」
 「九時頃に職員室の赤井先生のところまで来てくださいって。一時間ほどで終わるそうよ」
 「う〜仕方ないか。うん。わかった。明日九時に職員室ね」
 渋々納得しながら、あることが頭に引っかかる。
 
 「やっぱり制服で行かないとダメかな?」
 「なに言ってんのお姉ちゃん。学校に行くなら制服に決まってるじゃない」
 瑞穂が呆れたような声で返答する。
 
 「うぅ。またスカート穿かなきゃいけないのか……」
 「ふふ。さくらちゃんは照れ屋さんなんだから」
 母さんと瑞穂の笑い声に、ただただ憮然とするのみだった。
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