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Chapter. 2
High school debut

ハイスクールデビュー 3





 
   

そんなことを話しているうちに登校してくる一年の生徒も多くなってきた。
三年生のふたりは特に目立つらしく、通り過ぎる生徒たちが遠慮しつつも視線を送ってきている。

しかし。すごく注目を集めてない?

視線を巡らすと、A組の教室の窓はもちろん隣のB組や、遠くは廊下の向こうC組の奥にある階段のところにいる生徒たちまでこちらを見てるような気がする。
パッと見ただけで十数人と目が合った。

……いや、あんなに遠いんだ。
きっとみんながなんに注目してるのか気にしてるってところかな。

周囲を見回してると、ちひろさんも今の状態に気がついたのか、視線を合わせて『すごいことになってますね』って感じの苦笑いを浮かべた。

「あ、それじゃ私たちはこれで失礼しますね。しーちゃん行こ?」
「うん。バイバイさくらちゃん」
「はい。先輩たちも試験がんばってください」
手を振ってふたりを見送る。

さて、俺も教室へ戻ろうかな〜と踵を返すと、入り口に立っている男子生徒たち(多分クラスメイトなんだろう)と鉢合わせになった。
半身ずらして道を開けて待っていると、その男子生徒たちとしばらく見つめ合う羽目になった。
男子生徒がチラチラと様子をうかがってくる。
なにかついてるのかと胸元を見下ろしてみたけど、特におかしいところはなかった。と思う。

「すみません。通してもらえますか?」
「……!! あ。は、はい!」
慌てた声とともに、周囲にいた男子生徒たちがモーゼの十戒の海が割れるように道を開いた。

なんなんだいったい?
訝しく思いながらも軽く会釈して、教室の自分の席へと戻った。

「ねぇねぇ波綺さん。今の人、斎藤先輩だよね!?」
席に戻るのすら待ちきれないように、荏原さんに話しかけられる。

「え? ええ。知ってるの?」
口調に気をつけながら問い返す。

「うん。入学式の時に在校生代表で挨拶してるのを見ただけなんだけど、格好良くって……ボク、ファンになっちゃったんだー。大人っぽくってさ、ふたつしか違わないなんて信じられないよね。ボクもあんな風になりたいなぁ〜ってね」
「へぇ。在校生代表だったんだ」
ふぅん。見てみたかったな〜とか思ってると、すぐ後ろの席から、

「ま。茜らしいけど」
と、相槌を打つ声が聞こえてきた。

気になって振り向くと、後ろの席に少しウェーブかかった髪を頭の上でまとめた女の子が、つまらなさそうな表情で参考書に目を落としていた。

「なによそれー。でもカッコイーじゃん。斎藤先輩って」
「そうね。目標とするには申し分ないかも」
「だよね〜って。そだ、波綺さん。こっちは『西森桔梗』って言って、ボクと同じ中学出身なの。クラス委員でもあるんだよ」
ふたりを眺めていると、荏原さんが気がついて後ろの席の娘を紹介してくれる。

「西森さん。初めまして波綺さくらです。よろしく」
「……桔梗」
参考書に目を落としたまま、西森桔梗さんは短くそう答える。

「え?」
「苗字嫌いなの。だから名前で呼んで欲しい」
その、ぶっきらぼうな物言いに面食らう。
それに、ほとんど視線合わせないし。

「あ、うん。じゃぁ私もさくらでいいよ」
「あ〜ずる〜い。それならさ、ボクも茜って呼んで〜」
「はいはい」
子どもみたいにダダをこねる茜さんに思わず苦笑してしまう。

「……よろしく」
桔梗さんはポツリと挨拶すると、再び参考書に目を落とした。
随分と素っ気ない娘だな。
まぁ、人それぞれってことで構わないけどね。

「そう言えば茜さん」
「ダメダメ。『さん』とか『ちゃん』とか余計なモン付けちゃぁ。茜って呼んで」
「……茜」
「うん。ボクもさくらって呼ぶけどいい?」
「いいよ」
軽く笑いながら答える。

「うんうん。で、なんだっけ?」
「今日って実力考査があるの?」
「そうなのだぁ〜」
茜はそう言って俺の机に突っ伏した。

「教科はやっぱり五教科全部?」
「そう。国・英・数・社・理。全部あるのよぉぉぉ。う〜今日一日地獄だにゃぁ。さくらも今日まで休めば良かったのにねぇ」
「今日休んでも、結局追試がある」
未だ参考書に視線を落としたまま、桔梗さんがぼそっと呟く。

「そりゃぁ、桔梗はアタマ良いからい〜けどさ〜」
「茜は普段の予習復習がなってないだけ」
「えー。そ〜ゆ〜けど、それがなかなかできないんだにゃぁ」
にゃぁって。ね、猫語……?

そうしてるうちに予鈴が鳴って担任が教室に入ってきた。
立っていた生徒がバタバタと自分の席に戻る。

「起立っ」
日直らしき生徒が号令をかけて挨拶する。

一年A組の担任は、どうやらこの冴えない感じの男性教諭らしい。
服装は一応スーツなんだけど少しヨレ気味で、だらしなく着くずしている。
それでいて、妙に隙がないように感じてしまうのは気のせいかな。

挨拶が済むと、先生は生徒の名前を呼び、出席を取り始めた。

「えー、波綺さくらー」
「はい」
「お。来てるな。よぉし。それじゃぁ前に出て自己紹介してくれないか?」
「……はい」
前に出て教卓の隣で振り向くと『おぉ〜!』とクラスの男子にどよめきが起こる。

(な……なんだ?)
その反応に少し驚いた。

どよめく理由がなんなのかはわからないけど、とりあえず無視して自己紹介だ。自己紹介。

「波綺さくらです。ちょっと怪我をして入院してたので登校するのが遅れました。遅れた分を取り返すためにもがんばりますので、みなさん、これからよろしくお願いします」
短くそう言って頭を下げる。

主に男子生徒の一団から、冷やかしの拍手と口笛で歓迎される。
……歓迎、なんだよね? これ。

「よぉし、じゃ戻っていいぞ。これでクラス全員揃ったことになる。みんなこれから一年間改めてよろしくな。では、ホームルームを始める……」

いくつかの連絡と注意事項を伝えてホームルームは滞りなく終わり、担任と入れ違いに試験監督の先生が教室に入ってきた。
緊張感をはらんだ空気の中、一限目の問題用紙が配られる。

そして、本鈴を待って試験が始まった。
覚悟を決めて問題を解いていく。
でも、試験前に感じていた不安はすぐに解消した。
ひととおり目を通してみたところ、全然わからない問題はなさそうだ。

(そんなに難しくはないみたいだ)
心配してた割にはスラスラと問題が解けていく。
最後の設問だけは時間がかかったけど、入試の時に取り組んだ問題に似てたりして、なんとか解答を埋めることが出来た。




そして、長かった午前中の試験も終わって昼休み。
クラスのみんなは、それぞれに机を囲ってお弁当を広げたり、おそらく食堂に向かうために教室を出て行ったりしている。
さて、俺も昼食にしよっかな。

「さくら〜。今日はお弁当?」
茜が笑顔で話しかけてくる。
俺が机から弁当箱を出すのを確認すると、自分の弁当箱を目の前で左右に揺らしながら寄ってきた。

「うん。そうだけど」
「一緒に食べよ。ほら、机を後ろに向けてっと」
茜は手慣れたように机を後ろに向け、桔梗さんの机にくっつける。
その桔梗さんは茜の行動には意も介さず、自分のお弁当をつつきながら参考書に目を落としていた。

「えへへ。さくらが休んでた間、机使わせてもらってたんだー」
茜が空いてる椅子を引っ張ってきて腰をかける。
と、その正面……つまり俺の左側でも、椅子を運んできた女子生徒が腰掛けて軽く微笑んだ。

(……うわぁ)
その娘の笑顔に、思わず目を奪われる。

おかっぱに切りそろえた髪はキューティクルで輝き、肌の白さは唇の艶やかな赤みを引き立たせている。
大きな瞳は吸い込まれそうなくらい深くて優しい輝きに満ちている。
ともすれば人形のように見える整った顔に、その瞳が生命を感じさせている。
小柄なせいで子どもっぽさが抜けきってないけど、あと三年もすればすごい美人に成長するだろう。

あまりにもマジマジと見つめていたので、彼女は照れたように笑って首を傾げた。
その動きにあわせて、細いおかっぱの髪が揺れる。

「あ。紹介まだだったね。彼女は『高木瀬楓』ちゃん。お昼はいつも一緒してるんだ〜」
茜が自分のお弁当の蓋を開けながら紹介する。

「初めまして。高木瀬楓です。楓って呼んでね」
容姿に合わせたかのような、鈴のような透明感がある可愛い声。

「な、波綺さくら、です」
不覚にも彼女に見とれたまま、やっとのことで自己紹介した。

「ねぇねぇ。みんなに提案なんだけどさ。とりあえずこの四人の間では、名前で呼び合うってことにしない?」
「ええ。いいですよ」
「異議なし」
「うん」
三者三様の答えで同意する。

「うむ。よろしい〜。では、食べましょ〜」

元気で屈託のない『荏原茜』。
参考書から目を離さない『西森桔梗』さん。
そして、見とれるほどの美少女『高木瀬楓』ちゃん。
そして俺を加えた四人で机を囲むと、それぞれに手を合わせて昼食を食べ始めた。




「あ〜。さくらのお弁当箱ってさ。意外にケッコー大きいね〜」
手に持った弁当箱を見て、茜がなぜか嬉しそうに感想を口にする。

「そうかな?」
「ま。ボクのよか小さいけど〜。あはは」
見比べてみると、確かに桔梗さんや楓ちゃんの弁当箱は小さい。

中学の時はパン食だったし、転校後は親しい友達が少なかったので他の娘と比べたことなんてなかったんだけど、茜が言うように俺の弁当箱って大きいのかな?
でも、自分では少し小さいかなって思ってたんだけど……現に茜の方が大きいし。
教室を見回して男子生徒の弁当箱を見ると、やっぱり俺のより大きいみたいだし。
って、ちょっと見回しただけなのに、かなりの数の視線と目が合った。
今朝もそうだけど、なんか注目されるような原因があるのかな?
まさか俺の事情が知られてるってことはないと思うんだけど……。

「楓のは〜一段と小さいよねぇ〜」
そんな周囲の様子にはお構いなしに、茜が楓ちゃんの弁当箱をじっと見つめる。

「……そうかな?」
恥ずかしそうにうつむいて、楓ちゃんは小さく呟いた。

その様子が記憶のなにかに引っかかる。
楓ちゃんって、なんか見覚えがあるようなないような……。

「あれあれあれ〜? さくらったらまた楓を見つめちゃって……なんか怪しいにゃぁ」
「え? あ、あの。その……いやほら。可愛いなーって思って……」
「うんうん。さすがのボクも楓にはちょっと負けるかなって感じだし」
「ちょっと……ねぇ?」
異議をたっぷり含んだ口調で桔梗さんが混ぜっ返す。

「う……なによ、桔梗〜」
箸をくわえたままジト目で桔梗さんを睨む茜。

「別にー」
桔梗さんは、その視線を涼しい顔で流して明後日の方を向いた。

ふたりのやり取りを微笑みながら見ている楓ちゃん。
同意を求めるように俺の顔を見て、もう一度ふわっと微笑む。
その笑顔に笑顔を返しながらも、鼓動が次第に高まっていくのを感じる。

(だから俺は女なんだってば)
なんで女の子にドキドキするかな。そう考えて内心の動揺を必死で抑える。

「あのね。さくらちゃん」
「え? な、なに?楓ちゃん」
わわっ。話しかけられただけで、どうしてこうも動揺するかな俺。

「試験、どうだった?」
「ん〜まぁまぁかな。心配してたよりは出来たと思うし」
「えぇ〜!? ボクは玉砕だったよ〜。さくらズルイ!」
会話に割って入った茜が不満を漏らす。

「だ・か・ら。自業自得なのよ」
「き〜きょ〜おぉ〜!!」
冷たいツッコミに茜が桔梗さんを再び睨みつける。

なるほど。ふたりの関係は、基本的にボケ(茜)と突っ込み(桔梗さん)で成り立ってるのか。

「楓ちゃんはどうだった?」
ヒートアップしてるふたり(実際はヒートしてるのは茜だけだけど)は置いといて、楓ちゃんに訊き返す。

「うーん。とりあえず解答欄は埋めてはみたんだけど。ちょっと自信ないかな」
「そう。あと一教科だし、お互いがんばろうね」
「うん」
楓ちゃんと微笑み合ったせいか、最後の試験は緊張もほぐれて、ほんわかした気持ちでむかえることができた。

 
   






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