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Chapter. 3
Mini skirt actress

ミニスカートの女優 2





 
   

「女の子らしく女の子らしく」
呪文のように唱えながら、他に生徒が見あたらない通学路をソワソワとした気分で歩く。

背筋をぴんと伸ばして。心持ち胸を張って。
立ち振る舞いの作法で叩き込まれた《美しい歩き方》を思い出しながら、歩幅、手の振り、視線の方向などひとつひとつチェックする。
でも、これって女の子のと言うより女性の歩き方だよな。
応用で和服での歩き方とか習ったくらいだし。
まぁいいか。女の子も女性の歩き方も同じようなもんだろ。

歩き方に腐心しているうちに学校に着いた。
その足でさっそく職員室の赤井先生を訪ねると、説明とともに参考書といくつかの書類を渡された。

それにしても、休日の割に生徒や先生の姿が多く目につく。
どうやら生徒は部活のため、先生は先日の試験の採点のためのようだ。

その後、先生にひととおり学校の中を案内してもらった。
その途中、先生と一緒なのが珍しかったのか、すれ違う生徒たちが振り返ってまでこちらに好奇の視線を向けてくるのがとても恥ずかしかった。

「ふむ。これで、ひととおり案内したことになるかな」
そう言って赤井先生が立ち止まる。

「わざわざありがとうございます」
振り返った赤井先生と視線を合わせ、軽く微笑みつつ腰から上半身を曲げて会釈する。
確か会釈の作法はこれで良かったはずだ。
顔を上げると、赤井先生が顎を撫でつけながら、なにかウンウンと頷いていた。

「なにか?」
「あぁスマン。いや別にな。波綺は美人だと思ってな」
「そ、そうですか?」
先生の口から美人なんて言葉が出てきたことに驚く。

「昨日と比べると、特に今日は一段とそう見えてな。メガネがないせいかな」
「あ、あはは……」
まさか化粧してますとも言えず照れ笑いでごまかす。

「ふむ。今日はこれからデートか?」
「え? いえいえ。違いますよ」
手を振って否定する。

「そうか? ま、いいか。あとは保健室で採寸だな。それが終わったら帰っていいぞ」
「はい」
「今日はスマンな。休みなのに出てきてもらって」
「いいえ。こちらこそ休んでいる間、色々ご迷惑かけてしまって。今日は私のために時間を取っていただいてありがとうございます」
「ああ。それじゃな。帰り、気をつけてな」
「はい、失礼します」
そして、赤井先生は『採点が残ってるから』と、職員室へと戻っていった。




そして、保健室にて本日最後の要件である採寸。
ついでに身長と体重も計ってもらう。
波綺さくら十六歳。
身長百七十一センチ、体重五十四キロ。
スリーサイズは、上から八十七・五十九・八十三。
体重はギプスの分、約一キロを差し引いた参考記録。と、言うことらしい。

しかし、また胸が成長してた。一年前は気持ち膨らんでるだけだったのに、この一年で育ち過ぎだ……。
保健医の神野未央先生は、スリーサイズを計り終えると、しきりに羨ましがっていた。
でも、先生の方がスタイル良さそうに見えるんだけどな。

自分自身のスタイルとしては、肩幅がもうちょい欲しいかなって思う。
でも、下宿のみんなに話したら総出で反対されたっけ。
『今のままでバランス取れてるから必要ない。逆三角形でも作る気か!?』と本気でとめられた。
憧れなんだけどなー逆三角形。

「あぁ波綺。ちょっといいかな?」
悪戦苦闘しつつ制服を着ているところに未央先生の声。
なんとかシャツに腕を通しながら振り返ると、真剣な表情でこちらを見ていた。

未央先生は二十代後半くらい(正確なとこは怖いから聞けないけど多分それくらいだと思う)の、ブローしたロングヘアが大人の女性を意識させる人だ。
どこか『頼れるお姉さん』な雰囲気があって、赤井先生の話では臨時で生徒のカウンセリングもやってるらしい。

「なんですか?」
「……うん。完璧だ」
白衣のポケットに両手を入れた未央先生が、こちらを眺めてうんうんと頷く。

「?。なにが完璧なんですか?」
わけがわからなくて重ねて聞く。
「ルックス。ソプラノの声。話し方。スタイル。立ち振る舞い。うん。全てにおいて『女』に見える。そうだな、強いて難点を挙げるとすれば、完璧すぎて逆に違和感を感じてしまうことくらいか」
未央先生の言葉に自然と体が身構える。
とりあえず真意を測ろうと、沈黙したまま表情ををうかがう。
その視線を余裕の表情で受け止めて、未央先生が微笑んだ。

「ふふ。そんな恐い顔するな。一応な、こんな仕事をしてる関係上、嫌でも知ってしまう。波綺が過去にどんな病気を患ったのか……とかな」
視線を真っすぐ受け止めたまま話す未央先生。

「そっか。そうですよね」
とめていた息を吐き、緊張を解いて軽く笑う。

「しかし、見事なものだな。知っている私だって、君が女になって三年経っていないなんて信じられないよ」
「はは……」
なんと答えていいかわからずに愛想笑いする。

「そのメイクも自分でやったのか?」
「やっぱり化粧してるってわかりますか?」
「まぁ、私も女だしな。ナチュラルっぽいし、男連中にはわからないかもしれないが」
「いえ、これは母がどうしてもって」
「そうか。しかし、自分でもメイクしたりするんだろう?」
「まさか。しませんよ。今日も思いましたけど、あんな面倒くさいことやってられませんって」
俺は強く否定する。

「ふふ。今のが地なのかな?」
未央先生は笑って指摘する。
そこでようやく、自分が作っていない、いつもの声で話したことに気がついた。

「あ……。そうですね。今のが地です」
自分の迂闊さに苦笑して答える。
それは、ここまでの短いやり取りで『この人には敵わない』って感じてしまっている自分に対する自嘲の笑いでもあった。

「ふむ。年長者からの忠告として聞いて欲しいんだが、なるべく地のままでいる方がいいと思うぞ」
未央先生は事務椅子に座り、すらりとした足を組む。
「どうしてですか?」
「気を悪くしたのなら謝るが……。そうだな、最初にも言ったと思うが、あまりに女の子として完璧すぎるんだ。不自然なまでにな。それが普段から意識しないで使えるのならば、それはそれでいいだろう。しかし、そうでなかったら、クラスの連中もいずれちょっとした口調の違いから違和感を感じてくることもあるだろうってことだ」
「なるほど」
「だからな。私と話してる時は丁寧語だろうからわからないが、地の方は割と男口調なんだろう?」
「……そうですね」
「なら、そうだな、なるべく普段もそれで話した方がいいぞ。ちょっとクサいかもしれんが、ありのままの自分をさらけ出さないと、本当の友達なんて出来やしないしな」
「……はい」
「ふふ。まぁ、安心しろ。かくいう私の口調もこんなだからな。波綺が少々男言葉っぽくっても、男だったなんて変な勘ぐりは入らないはずだ。なにせ、他のどの部分から見ても立派な女の子だからな」
「……うん、そうですね。そうします」
感謝の意を込めて未央先生に頭を下げる。

今日、女の子として通そうと思った矢先の出来事だったが、確かに未央先生の言うことも一理ある。
と言うか中学の時も結局は素の喋りで落ちついたし。
自然に使えるようになるまでは、言葉使いの方は無理しないってことにしよう。

「ああ。それとな、なにかあったら私に相談しろ。三年経つとは言っても、まだまだわからないことや不都合なこともあるだろう。私の出来うる範囲でなら便宜を図ってやる。例えば、仮病でもベットを貸してやるし、必要なら嘘の診断書もでっちあげてやろう」
「いや、別に嘘の診断書を書いてもらう必要はないと思いますけど」
「そうか? まぁ遠慮するな。他にも微力ながら色々と力を貸そう」
「あ、ありがとうございます。……それはすごく嬉しいんですが、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
疑問の言葉に未央先生がニヤリと笑う。

「決まってる。私が波綺を気に入ったからだ」
妙に自信たっぷりに宣言する。その意味を理解するまで五秒ほどかかった。

「そ……そうですか」
てっきり『先生だから』と返ってくることを予想していたんだけど。

「なんだ? 私が『先生だから生徒の面倒を見るのは当然だ』とか言うと思ったのか? とんでもない。これ以上仕事を増やす気はさらさらないよ」
未央先生は、さも心外そうに自分の職務怠慢さをアピールする。

「そ、そうですか」
「そうそう。良かったらでいいんだが。今度、波綺が男だった時の写真を持ってきてくれないか?」
「いいですけど……なにするんです?」
「単なる好奇心だ」
キッパリと真顔で断言する。

こ、この先生ってば……。
脱力して立ちつくしていると、保健室のドアが勢い良く開いた。

「神野先生いますか? ちょっと怪我してしまって」
サッカー部らしきユニフォームの生徒がふたり入ってくる。
肩を貸す様子からすると、ひとりが膝を擦りむいて、もうひとりは付き添いらしい。

「大丈夫だ。大したことはない」
未央先生は怪我を一瞥すると消毒液を用意する。

さて、そろそろお暇するかな。

「先生。私はこれで失礼します」
頭を下げて、もう一度身だしなみを確認する。

「ああ。ご苦労さん。暇があったら遊びに来い」
「遊びにって……いいんですか?」
「写真も持って来るんだぞ」
「あ、あはは」
もうなにも言えず、愛想笑いで保健室をあとにした。




「センセ。今の誰なんスか?」
付き添いのサッカー部員が、さくらが出て行ったドアを見つめながら未央に尋ねる。

「ん? どうしてそんなことを?」
ぞんざいに傷口を消毒しながら未央が答える。

「だって、めちゃ可愛いじゃないスか。あんな娘がウチの学校にいたとは知らなかった」
「入学して間もないからな」
「でも、その入学式でチェックしたんだけどなー」
「……おまえたち。変なちょっかいは出すんじゃないぞ。あの娘は私が面倒見るんだからな。余計な手間増やすんじゃ、ないっ。よし。これでいいだろ。今日のところは無理に動かすなよ」
「ってことは、先生の親戚かなにかなの?」
治療が終わったサッカー部員も会話に加わる。

「いや。今日初めて会ったばかりだが」
「へぇ、するとヤケに買ってますね神野先生」
「そりゃ当たり前だろう。あれだけの……逸材は滅多にいないぞ」
面白いという形容詞を辛うじて飲み込む未央。

「でも、ならどうしてちょっかい出しちゃいけないんですか?」
「無駄な努力はしないに限るってな」
「ひ、ひでぇ」

(今の波綺は男女交際なんて考えられないだろうしな)
心の中で呟く未央。

「冗談だ。しかし、おまえたちがあの娘を落とすのは至難の業だと思うぞ」
「と、俺たちを牽制しておいて、先生があの娘を毒牙にかけるんスね」
「きみたち……」
未央の周りにひんやりとした空気が流れる。

「なにもないが、ゆっくりしていきなさい」
そう言って、引き出しの中から取り出した注射器をうっとりとした表情で見つめる。

「い、いえ! 俺たち、なにも言ってませんから!」
「それじゃ失礼しまッス」
ふたりは慌てて保健室を出て行った。

未央はなんとも言えない表情でそれを見送ると、ひとりきりになった保健室を見回す。
赴任して一年と七ヶ月。
すでに自分のテリトリーとなっている見慣れた室内。
日常がルーチン化し、退屈で、でもそれが心地良くもある生活。
その生活に不満があるわけでもなかったのだが。

「ふふん? これは本当に面白くなりそうだな」
未央は、開けはなった窓から流れてくる部活の喧噪を聞きながら、そうひとりごちた。

 
   






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