Chapter. 3
Mini skirt actress

ミニスカートの女優 5





 
   

お店の中は煌々とした照明と、うるさいくらいの音楽、そして人の活気が充満していた。
通りに面した場所には、ぬいぐるみなどのキャッチャーが並び、主に女の子たちが指をさしながらはしゃいでいた。それを横目に真吾を引っ張って奥へと進む。

「さくらはよく遊びに来るの?」
「ん? いや〜たまに来る程度かな」
そう答えつつ視線を左右に配って、なにか楽しそうなものはないかと探していく。

ビデオゲームコーナーを素通りして大型体感ゲームのフロアへ。
子どもの頃から体を動かすことが好きだったので、反射神経や瞬発力に頼るジャンルには少し自信がある。

「でもさ、さくら。その腕じゃ、ちょっと無理があるんじゃない?」
真吾が左腕のギプスを指さす。

「……あぁぁぁ。忘れてた」
左腕の状態を思い出して、がっくりと肩を落とす。

そうだよな、片手がギプスじゃ、ゲームなんてほとんど出来ないよなぁ。

「ま、まぁそんなに気を落とさなくても」
めちゃ落ち込む俺の肩に手を置いて、真吾が慰めてくれる。

「うぅ……」
「ほ、ほら、さくら。あれなら出来るんじゃないかな?」
真吾が指さす方を見る。
そこには、大きな機械……筐体って言うのかな? が設置されていて、なにやら人が踊るようにステップを踏んでいた。
割と人気があるのか、ギャラリーもそこそこ集まっている。
なんとなく興味をそそられて、真吾の腕を引いて近づいてみる。

「え〜っと『ビート・オン・ビート・サードMIX』?」
真吾がゲーム名を読み上げる。
どんなゲームなんだろ。ふむふむ。
どうやら曲にあわせて画面に表示される印に対応したボタンを足で踏めばいいのか。
それがステップになって踊ってるように見えるのか。

「あ。この曲知ってる」
流れてきた曲に聞き覚えがあった。
二年ほど前に流行したダンスミュージック。
引っ越してから、しばらくの間よく聞いてた曲だ。

「なんでも音楽会社と協賛してて、実際のダンスミュージックも使ってるらしいよ」
真吾が解説を読んだのか、タイミング良く説明してくれる。
だから聞き覚えがある曲が多いのか。

程なく曲が終わり、画面に『ネクストステージ』と表示される。
くるくると変わるメニュー画面のあと、さらにテンポが速い曲が流れてくる。

「ふぇぇ。こんなに速くステップ踏むのか」
思わず感嘆の声を上げる。
プレイヤーは慣れているのか、恐ろしく大量に流れてくる矢印にあわせて余裕でステップを刻んでいる。
周りでは練習のためか同じようにステップを踏んでるギャラリーも多い。
横から画面を見ながら頭の中でシミュレートしてみる。
う〜ん……なんとかいけそうかな。

「やってみる?」
「うん。やりたい」
「あ。でもスカートじゃなぁ。今日はやめておいて、この次に」
「えぇ〜そんなぁ。大丈夫だよ。多分」
「絶対ダメ。さっきも言っただろ? スカートの時はもっと大人しくしないと」
真剣な表情で反対する真吾。

う〜なんなんだよ……。
いったい真吾になんの権利があって……って親友の忠告だしな。
素直に聞かないと。さっき、そう決めたばかりだし。でも……。

「じゃぁさ。遊んでる時さ、真吾がスカート押さえててよ」
「押さえるってどうやって?」
「こう」
真吾の両手を取ってスカートの両裾を押さえる。

「ば、馬鹿。そんなこと出来るわけないだろ! 第一あのスピードじゃ押さえてることなんて出来ないに決まってる」
真吾は顔を赤くして、慌ててスカートから手を離した。

「だめかぁ。じゃぁさ。ジャージの上着貸してよ。今日部活だったから持ってるだろ?」
「あ、うん、あるにはあるけど、どうするの?」
「いいからいいから。とにかく貸してよ」
ジャージを受け取って、後ろから腰を巻くようにして袖を軽く結ぶ。

「どう?これで後ろからは見えないだろ?」
「後ろは大丈夫そうだけど……前はどうするの?」
「前は壁だからギャラリーもいないし大丈夫だって」
そう言っても、真吾は納得していないようだった。

「ね。一回。一回でいいから。ね?」
「……」
よぉし。そっちがその気なら。

「ねぇ、真吾ぉ……お・ね・が・い」
演技力を総動員してシナを作り、両手で真吾の腕を引く。
真吾の弱みにつけこむようだけど、こうでもしないと許可しないだろうから手段を選んではいられない。

「わ、わかった。わかったから」
案の定、真吾は真っ赤になってオーケーを出す。
ふふふ。作戦勝ちだ。
でも、俺も母さんの影響を多大に受けてる気がする。

真吾を説き伏せ、コインを用意して順番待ちに入る。
もちろん前の人のプレイを見て研究することも忘れない。
その人はかなり上手くて、高難度のコースを軽々とクリアしていた。

やっとひとり終わったなぁと思っていると、前に並んでいた人たちが、こっちを向いて道を空けてくれる。
「え? え? いいの?」

おずおずと聞くと笑って頷いてくれた。
軽く会釈してステップ台に上がる。
ドキドキ。ちょっと緊張するなぁ……。
コインを投入して、モード選択画面でハードを選ぶ。

「初めてなんだから、もっと易しいコースの方がいいんじゃないか?」
真吾が横から口を挟むけど、すでに決定したものは変えられない。

「でも、みんなハードモードで遊んでるし。やるだけやってみるよ」
そして曲を選ぶ。

「その画面の足跡の数が多いほど難しい曲なんだ」
後ろから、さっき譲ってくれた小学生くらいの男の子が教えてくれる。

「そっか。うん、ありがとう」
笑顔でお礼を言って、足跡が少ないものを選ぶ。

「でも、初めてならノーマルの方が良かったかもね」
と男の子。
それに答えようかとも思ったけど、曲が始まったので画面に集中する。

曲に乗って流れてくる矢印に、タイミングを合わせて足下のプレートを踏む。
機械的なスイッチの反動を確認しながら画面の矢印を必死で目で追う。
最初のうちは画面を見て踏んでいるだけでリズムもなにもない状態だった。
でも、次第に曲に乗れてきて、間奏の部分も空ステップを踏めるようになる。

ステージワンクリア。
画面に『B』という評価が出てる。

「ねぇ。これってどうなのかな?」
さっきの男の子に聞いてみる。

「お姉ちゃんホントに初めて?」
「そうだけど」
「最初でこれならスゴいって。上手いよ」
「そう? えへへ」
素直な誉め言葉に照れ笑いして、気分良く次の曲を選ぶ。
お、あったあった。この曲、好きだったんだよなぁ〜。
足跡は六つ。決定〜。

やがて、聞き慣れたテンポのいい曲が流れてきて、自然に体を揺らしながらスタートに備える。

(上上下右、下下上左……)
さっきの曲より明らかに大量の矢印が流れてくる。

でも、この曲のステップパターンはさっき見てたから大体把握している。
ある程度のパターン化したステップと、それをつなぐステップ。
細部の違いはあれどもデタラメじゃないから理解しやすい。

右足で踏むステップと左足で踏むステップを振り分けて繰り返すうちに、よりスムーズに、より自然になるように修正していく。




(……はぁ。周りが見えなくなってきたなぁ)
真吾は次第に集中していくさくらを見て苦笑する。

さくらは間断ない矢印を踏みながら、最初は手が曲に乗って左右に動き出し、さらには小さく歌い始めていた。
しかも、その声は意識してるのかしていないのか、だんだんと大きくなってきている。

「オープン・ユァ・ハーツ♪」
さくらは自分の歌に合わせて、タタンタタタンと軽やかにステップを踏む。
次第に身振りも派手になってきて、両手が曲に乗って流れるように動く。
正直さっきのプレイヤーほどスコアは高くないが、これが初めてとは思えないほどの堂々さで、まさに曲に乗って踊ってるようだった。

「おい。BB見て見ろよ」
「なんだありゃ? やけに人だかりが多いな。なんかあったん?」
「セーラー服の女がやってんだよ」
「なに!? 美人?」
「よくわかんね。とにかく見に行こうぜ」

「わぁ〜すごい人だかりね。コレってなに?みんなあれ見てるの?」
「そうみたい。でもさ、ホントなにか目が離せないって思わない?」
「うん。そうだね。なんかさぁ、すごく楽しそうだよね。見てる方も嬉しくなるみたいなさ」

「お。ギャラリースゴイじゃん。プロがやってんの?」
「バ〜カ。なんのプロなんだよ」
「お。お姉ちゃんじゃん? いいねぇ〜。どう? 上手いの」
「上手いってわけじゃないんだけどな。鑑賞に値するってやつだな」
「あの見えそうで見えない制服のスカートとか?」
「そうそう。ストッキングの黒と素足の白のコントラストが……ってなに言わせんだよ!」
「いや、わかるわかる。いやぁ〜あの娘ってばオトコゴコロわかってんじゃん」

(さくら……一樹は昔からそうだった。変に細かいことを気にするかと思えば、熱中すると周りが見えなくなるからなぁ)
真吾のそんな心配をよそに、さくらはとにかく楽しそうだった。
ソプラノの声は良く通り、今やフロア全体に旋律となって響き渡っていた。
スピーカーから流れる録音された声と違って、生の肉声ならではの艶っぽさを含んだその声に、なにごとかとさらにギャラリーが増えてくる。
ましてや歌っている娘がセーラー服で踊っているものだから、声に誘われてきた人たちも、その姿に目を惹かれて立ち止まる。
さくらの容姿も目を惹く要因になっていたが、なりよりも楽しそうに踊るその姿が目を惹く一番の要因だった。



「バタフライキス♪」
曲自体を知ってるので、画面に溢れる矢印も割と楽にトレース出来る。
多少のミスにも慌てることなく対応出来るようになった。

「オンリープレィス♪」
ダン!っとフィニッシュのステップで足をとめる。
動きながら歌っていたので、かなり息が上がっている。
ぜぇはぁと荒い息を整えながら、全身から汗が吹き出してくるのを感じた。
あとでベタベタするんだろうなぁと思ったけど、今はそれが気持ちいい。
ふぅっと大きく深呼吸して真吾の方を振り向く。
そこで初めて大量のギャラリーに気がついた。

「な、なに? これ……」
真吾に向けた笑顔が凍り付く。

次の瞬間、そのギャラリーから一斉に拍手が沸き起こった。
フロア全体が拍手の渦に飲み込まれる。
その光景に圧倒され、真吾に視線で助けを求める。

「手でも振ってあげれば?」
真吾は苦笑いしつつ答えた。
少々ぎこちない笑顔で、ギャラリーの拍手に小さく手を振って応える。
すると、さらに拍手が一段と大きくなった。

(なんだかアイドルにでもなった気分だな……)
赤面しつつ最後のステージの曲を選ぶ。
さっきの曲でかなり体力を消耗したので、最後は割とスローテンポだと思う曲を選んだ。

……でも、あっけないほど簡単に三曲目の途中でゲームオーバーになった。

後ろにいるギャラリーが気になって集中出来なかったことと、思惑がはずれてテンポが速い曲だったこと、体力が尽きて体の反応が鈍くなってたことが原因かな。
でも、我ながら最初にしては上出来だった。

次の人に譲るべく台から降りる。
肩で息をしながら、真吾が差し出すタオルを受け取って汗を拭く。
顔を上げると、またもやギャラリーからの拍手が湧き起こった。
愛想笑いを浮かべて手を振って応える。
女のプレイヤーがそんなに珍しかったのかな。

「疲れたよ〜」
タオルに顔を埋めたまま壁に寄りかかる。

「大丈夫?」
「ん〜なんとか……。あれ? このタオル、真吾の匂いがする」
「あ、ご、ごめん。それ今日使ったやつで、それしかなかったから」
「いいって。気にしないから」
兄弟も同然に育ってきたせいか、真吾の匂いも懐かしい記憶が蘇るようで心地良い。

壁に寄りかかったまま、気怠げにタオルから顔を覗かせると、ギャラリーの数は減っていたものの、依然注目を浴びていることに気がついた。

「そ、それじゃぁ、もう行こっか?」
「あ、あぁ」
好奇の視線から逃げ出そうと、壁に預けていた重心を足に戻す。

「痛っ」
左足首に激痛が走り、真吾の肩に掴まってなんとか体を支える。

「さ、さくら?」
真吾が俺の腰を支えて、心配そうに覗き込んでくる。

「いや、なんか、左足首の捻挫が再発したみたい」
そう言うと、真吾が『だからやめておいた方がいいって言ったのに』という顔をする。
プレイ中はまったく気にならなかったんだけどな。

「ともかく肩貸して。ひとまずここから退散しないと」
ギャラリーの好奇の視線の中、真吾に支えられながら建物をあとにした。

 
   






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