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Chapter. 3
Mini skirt actress
ミニスカートの女優 6
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「あ〜びっくりしたぁ。いったいなんだったんだ?」
制服の胸元をパタパタと扇ぎながら、今出てきたゲームセンターを眺める。
「ほら、さくらが歌ってたから、その声を聴きつけたのか、見る見るあんなになったんだよ」
「マズかったかな?」
「はは。まぁいいんじゃない? 歌も上手だったよ。声も良く通ってたしね。昨日のカラオケの時とは別人みたいだったし」
「えへへ。今日は女だとかなんとか意識してなかったからなぁ。……自然に歌えたんだと思うよ」
さっきのことを思い出して顔が綻ぶ。本当気持ちよかった。
街路樹下のベンチで、そよぐ風を浴びながら軽く休憩する。
と言っても、真吾はつき合ってくれてるだけなんだろうけど。
「喉乾いちゃったな。真吾もなにか飲む?」
近くに自販機を見つけて、小銭を出しながら真吾に聞くと、
「いや、僕は見てただけだしね」
と遠慮した。
コインを入れてスポーツ飲料のボタンを押す。
出てきた缶を手に、待ちきれずにプルトップを空けながら真吾の隣に腰を下ろす。
そして、半分ほど一気に飲み干した。
「はぁ……。やっとひとごこちついたかなぁ」
真吾と視線を合わせると、ただ黙って微笑む。
「いい天気だね」
「そうだね」
まぶしい日差しに目を細めて、ビルに切り取られた空を見上げる。
「はぁ〜」
「………」
会話らしい会話がないまま時間が過ぎていく。
でも、気まずい空気が流れることもなく、街の喧噪のただ中で空を見上げてくつろいでいた。
「あら真吾。どうしたの? 部活はもう終わり?」
背後からの声に振り向く。
そこには、真吾のお母さん……『赤坂琴実』さんが買い物袋を下げて立っていた。
「あれ? 母さんは買い物?」
「ええ、そうよ」
と言って、おばさんは俺の方をチラリと見る。
そして、にんまりと笑うと真吾をつついて『紹介しなさいよ』と無言で催促する。
「えっと、その……」
どう紹介したものかと真吾が逡巡してる間に、自分から立ち上がって挨拶する。
「琴実おばさん、ご無沙汰してます」
姿勢を正してお辞儀する。
琴実おばさんが訝しげな表情を浮かべて、俺の顔をジッと見つめる。
どうして自分の名前を知っているのかが疑問なんだろう。
やがて結論が出たらしく恐る恐る話しかけてくる。
「ひょっとして、一樹ちゃん?」
「はい。今はこんなですけど」
「本当に? あらあらまぁまぁ。そう言えば美咲さんからそんな風なことを聞いてたんだわ。女の子になっちゃったとか」
「はい。恥ずかしい話なんですけど」
「な!? 母さん知ってたの!?」
「そうだ。ねぇ一樹ちゃん、これから時間あるかしら。久しぶりに家に遊びに来ない?」
琴実おばさんは真吾を無視して話しかけてくる。
「か、母さん!」
「あら、いいじゃない。元々『ついに奥手の真吾にも彼女が出来たのか〜』ってことで、家に招待しようかと思ってたんだし」
「そ、そんなことを考えてたのか」
「あら? 母親として、息子が可愛い女の子連れてるのを見かけたら、家に招待するのが普通じゃなくて?」
「いや、一般的にはそこまで一足飛びに飛躍しないと思うけど」
「ま、そんな細かいことはどうでもいいじゃないの。ね? いいでしょう?」
真吾の言葉を一蹴して、重ねて聞いてくる。
「はい。もちろん」
笑顔で答えると、琴実おばさんの顔がパァっと明るくなる。
「あらあら。それにしても一樹ちゃんって美人になったわね〜。まぁ昔から綺麗な顔してたけど、女の子になると一段と美人だわ〜。そうだ。お夕飯も食べていきなさい。おばさん腕によりをかけちゃうから」
右手で軽く力こぶを作ってみせる。
「はい。ごちそうになります」
昔から遠慮は無用な間柄だったので、即答でお世話になることを決定する。
「それじゃ、買い物済ませて帰るから、あなたたちは先に帰ってらっしゃい」
そう言い残すと、琴実おばさんは鼻歌を交えながら再び商店街へ消えていった。
「良かったのか?正体ばらしちゃって」
真吾が心配そうに聞いてくる。
「問題ないよ。真吾の両親には小さい頃からお世話になってるし、そう言う人たちには嘘をつかないって決めたんだ」
「僕や恵には隠し通そうと思ってたって聞いたけど?」
「あはは。それについては悪かったってば。だから、真吾たちに話したあとで、そう言う風に考えるようになったんだって」
「そっか。確かに、さくらから話してくれた方が両親に嘘ついたりしなくていいから助かるけど」
「まぁなぁ、真吾は嘘つくの下手だしなぁ」
「え? そんなことない……と思ってるけど」
「少なくとも俺にはすぐわかるし、それは琴実おばさんも同じじゃないかな?」
「う〜ん」
なにか思い当たる節でもあるのか、真吾は視線を下げて考え込んでしまった。
「さぁて。それじゃ、久々に真吾んところに遊びに行こうか」
飲み終えた空き缶をゴミ箱に捨てると、クルリと振り返って真吾を促す。
「ん? あ、うん。まだ覚えてる?」
「もちろん。何回通ったと思ってんだよ」
「そうだね。でも、新設された駅の方が家から少し近くなったんだ」
「へぇ。良かったじゃないか。どの辺に出来たの?」
「川沿いの、ほら空き地があっただろ?」
「あの有刺鉄線のだだっ広いところ?」
「そうそう。そこに一年ほど前に……」
なんてことを話しながら駅へと向かう。
真吾と話していると、なにか、昔のままの俺たちのような、そんな気がして嬉しかった。
「でも、真吾の家に行くのも久しぶりだなぁ」
真吾と並んで歩きながら大きく伸びをする。
あ〜かなり体が鈍ってるなぁ。
中学卒業してから運動らしい運動やってなかったし。
「そうだね。さくらが引っ越しする少し前に泊まりに来た時以来じゃないかな」
「だね〜。そう言えばさ『ジョン』は元気?」
ふと真吾のとこで飼ってる犬がいたことを思い出した。
「あぁ元気だよ。今ではかなり大きくなってね。きっとさくら、びっくりするよ」
真吾は俺が驚いてる光景でも想像したのか軽く笑う。
「アフガンハウンドだっけ?」
「うん。もう抱えるのも一苦労って感じでね」
「へぇ。それはすごそうだな」
まだ仔犬だった頃のジョンを思い浮かべて、現在の姿を想像しようとしてみる。
抱えるのも一苦労……おぉ。ぬいぐるみみたいでいい感じだな。
想像上のジョンの姿に思わず頬が綻ぶ。
「さくら。あれ瑞穂ちゃんじゃない?」
「ん?」
真吾が指さす先を見ると、私服姿の瑞穂が友人らしき女の子三人とブティックの店先を眺めていた。
「瑞穂ちゃん、こんにちは」
よせばいいのに真吾が声をかける。
「え、あ! 真吾お兄ちゃん!? こ、こんにちはっ」
真吾の姿に驚きながらも、華でも飛びそうな笑顔で挨拶を返す。
……ふむ。
そして、その視線は平行移動して真吾の隣に立っている俺を捉えた。
そして驚いたように見開かれる。
「お、お姉ちゃん!? な、なにしてるの!?」
……なにどもってんだよ。
「なにって、別になにもしてないけど」
「久しぶりにふたりで遊びに来てるんだよ」
フォローするように、真吾が瑞穂に説明する。
でも、昨日の今日という立場の俺は、鋭い瑞穂の視線を浴びて思わず後ずさりする。
……こいつ、怒ると結構恐いんだな。
「こんにちは。瑞穂ちゃんの友達かな?」
そんな俺と瑞穂の内面の闘争に気がつかないまま、真吾が瑞穂の友達に挨拶する。
マメと言うか気配り気質と言うか……。
「は、はい。こんにちは」
三人は照れと緊張がないまぜになった表情で挨拶を返す。
「こんにちは。初めまして、瑞穂の姉です」
とにかく瑞穂の矛先から逃れるべく、真吾に倣って三人に挨拶する。
「こ、こんにちは。あの、いつも瑞穂ちゃんにはお世話になってますっ!」
「あは。ううん、瑞穂の方こそお世話になってます。これからも仲良くしてあげてね」
「はいっ。も、もちろんです」
初々しい返事の三人。ほんのり上気した頬が可愛い。
「もう」
瑞穂は俺たちの会話に顔を赤くしていた。
「あ。そうだ瑞穂」
「なに?」
不機嫌そうな声。やっぱり怒ってるよなぁ。
「琴実おばさんに夕飯呼ばれててさ、母さんに今日の晩ご飯はいらないって言っておいて」
「それはいいけど……って、お姉ちゃん!? 真吾お兄ちゃん家に行くの!?」
「だ、だから琴実おばさんに呼ばれてるんだって」
「……」
瑞穂の瞳が『私も行きたい』と訴えている。
でも今は友達と一緒なんだし、母さんへの言付けもあるので誘わないことにした。
と言うより、今誘うと面倒なことになるからやめておこう。
「あ、あの、おふたりって、その、お似合いですね」
俺と真吾を指したその友人の言葉に、一見変化してないように見える瑞穂の表情が堅くなる。
ヤバ……。
「はは。ありがとう」
なにも気がついていない真吾が火に油を注ぐような返事をする。
でもなんだって『ありがとう』なんだ?
……そっか、詳しく説明する訳にもいかないし、軽く流す方が都合がいいか。
「なら瑞穂。頼んだよ」
そう言い残して、真吾の腕を引っ張って足早に瑞穂たちと別れた。
「真吾……」
視界に瑞穂たちがいないことを確認して話しかける。
「なに?」
気楽そうに、のほほんと返事する真吾。
「次からは瑞穂に……」
待て。話しかけるなとは言えないよな。
それ自体は問題ないんだし。
瑞穂のためを思えば、むしろ話しかけてやって欲しいくらいだ。
要は真吾とふたりで遊びに行ったことを知られると、どうしてか瑞穂に怒られることを避けたいってことだよな。
しかし、どうして怒られるんだ?
真吾は俺の友人であって瑞穂を通して知り合ったわけじゃない。
会ったりするのに瑞穂に断りを入れる必要はないんだけどな。
「瑞穂ちゃんがどうしたの?」
その声で顔を上げると、真吾が黙り込んだ俺を不思議そうに見ていた。
「まぁいいや。済んだことだし」
ふぅっと息をはいて苦笑いする。
よくわからないけど、俺が瑞穂に怒られておけばいいか。
真吾のせいって訳じゃないしな。
「なに? そう言うふうにされると気になるんだけど」
「ごめん。俺もよくわかってないみたい」
「なに? それ」
今度は真吾が苦笑した。
程なく駅に着く。
波綺家と赤坂家は、駅がある商店街を挟んで丁度正反対の方向にある。
赤坂家最寄りの駅までここから二駅。
時間にして十数分電車で移動するんだけど、なんとか歩いて行けなくもない。
でも、電車だとトンネルをくぐって直線で移動出来るけど、徒歩だと途中で山を迂回する分遠回りになるので時間と体力がある時じゃないと厳しい。
以前歩いて行った時は、二時間近くかかったし。
切符を買って改札を通ると、ホームに着いた電車にタイミング良く乗り込むことが出来た。
夕方近いこの時間帯は、混んではいないけど空席は見あたらない。
まぁ立ってる方がスカート気にしなくていいから気が楽なんだけどね。
ゴトンゴトンと緩やかな振動に揺られながら、真吾と他愛のない話に花を咲かせる。
なにせ三年近くも離れていたから、お互いに話したいことや聞きたいことは山のようにある。
時折笑いあったり、怒った振りをしながらの会話がとても楽しい。
女の子同士の会話よりも性に合ってる気がする。
もちろん、真吾という幼なじみ相手だからってことが大きいとも思うけど。
ふと光陵の制服を着た女の子ふたりと目が合った。
ふたりは目が合ったことに気づくと、露骨に視線をそらした。
不自然にそらされたその表情は『見てはいけないものを見てしまった』って感じだった。
ふたりのその様子から真吾へと視線を向ける。
ひょっとして……真吾を見てたのかな?
真吾は『どうかした?』って表情で問いかけてきたけど、『なんでもないよ』と視線で答えた。
しかし……。街を歩いている時にも思ってたんだけど真吾はとても目立つらしい。
今のもそうだけど、ふと気がつくと真吾を見てる周りの人と視線が合うことが多い。
まぁ、真吾が女の子の目を惹くのはわからないでもないかな。
黙ってれば十分格好良いと思うし。
話すとまだまだ子どもっぽい部分が見え隠れするけど、それがいいって人もいるんだろうなぁ。
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