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Chapter. 4
I miss you

アイ・ミス・ユー 7





 
   

戻ってみるとスコアは三対二と勝ち越していた。
ベンチに戻った俺たちは、真吾と視線があった時に軽く手を振って戻ったことを知らせる。
それから真吾の動きは俄然良くなり、チームメイトの好アシストも手伝って終了のホイッスルまでに二点追加。
一点取り返されはしたものの、終わってみれば五対三で勝利した。
う〜ん、なかなかに強いんじゃないか? ウチのサッカー部ってば。

「やった、やったぁ。真吾お兄ちゃん勝ったよ!」
嬉しそうに瑞穂がはしゃぐ。

「あ。あぁ。良かったな」
いや、真吾が勝ったんじゃなくて、真吾のチームが勝ったんだけどな。
ま〜瑞穂にはそんなことはどうでもいいのかもしれない。

しかし……。と、喜ぶ瑞穂の様子を観察する。

(もう大丈夫みたいだな)
さっきのことは、あまり引きずってないみたいだ。
瑞穂は俺が言うのもアレだけど、かなり脳天気なところがあるからな。
とりあえずは良しってところか。

双方のチームが整列してお互いに礼をしたあと、真吾は相手チームの数人となにやら話してからベンチへと戻ってくる。

「……さっきのこと、真吾には内緒な」
ミーティングに集まる途中の真吾に親指を立てて健闘をたたえながら、隣に座るメグと瑞穂にだけ聞こえる声で言う。

「さっきのことって、コクられたことぉ?」
例の笑みでメグが混ぜっ返す。

「……ばか。まぁ、その辺りも含めて全部。余計な心配はさせなくていいだろ。瑞穂もそれでいいな?」
「う、うん。いいよ」
「ま。私たちのは自慢出来ることでもないしね。でも、さくらが衝撃の告白されちゃったセンセーショナルな出来事は〜別に話しても良いんじゃない?」
やけにこだわってるなメグの奴。

「……好きにしろ」
ここで変に隠そうとすると後々ヤバイことになるのは目に見えてるので、極力興味なさそうに言い捨てる。
それを見たメグは、ちょっとだけ真面目な、でも忍び笑いっぽい表情でメガネをかけ直した。

「ん〜。今回は助けてもらった立場だし、内緒ってことにしとくわよ。でも……同じだと思うけどねぇ私は」
「トールさん、また来るって言ってたしね」
「ね〜」
メグと瑞穂は、ふたりで頷きあって笑っている。

ふん。だから好きにしろって。
これで瑞穂の気が紛れるのなら、適当に肴にでもしてくれ。



「よっ! 試合、そっちが勝ったみたいだな」
私服に着替えたトールが現れたのは、真吾のミーティングが終わり弁当を広げて食べ始めたところだった。

にこやかに現れたトールを見て内心ホッと安堵の息をつく。
それと言うのも、木陰の芝生の上にシートを広げて昼食席を作ってはみたものの、衆人環視な状況なので周囲の視線が突き刺さるように痛かったからだ。

メグや瑞穂は私服だし、まったくプレッシャーを感じてないみたいだけど、こっちは制服姿だからか、光陵の女生徒から殺意を含んだ視線で見られていた。
敵意を持った視線ってのは、別に超能力とかなくても確かにそうと感じられるから始末に負えない。

こうなってしまってる原因には、心当たりがあると言えばある。
昨日、校門前でサッカー部員たちにからかわれたこともあって、試合終了後にも昨日と同じように真吾との仲を冷やかされた。
それはマネージャーを始め周りの女生徒たちの多くに目撃され、この有様になってしまっているんだろう。
そんな中、タイミング良く現れたトールには心から感謝したいくらいだ。

この視線は真吾と一緒に弁当広げてるのが問題なんだから、他の男が居ればかなり和らぐだろう。
……男だったら、こんな気を遣わなくてもいいのに、まったく面倒なことだ。

「あ〜トール? 良かったら一緒に食べない?」
トールを引きとどめるべく手招きする。

「それ。波綺が作ったのか?」
興味深そうに弁当を覗きながらトールが尋ねる。

「ん? ああ、手伝っただけだけどね」
「じゃ、ごちになるか」
トールはニッコリと笑みを浮かべて、俺の隣にドッカリと座り込む。

「うぁ! コラ! 寄りかかんなっ。重いだろ〜が!」
座った勢いのまま、もたれかかってくるトールを力一杯押しのける。
でも、くそ重いなこの男は。

「あははは。悪い悪い」
ぽんぽんと俺の頭を軽く叩きながら身を起こすトール。

「甘えてくるな。少しは成長しろ」
「悪いって。ちょっとな腹減ってるもんだからさ。チカラ入んないっつ〜か」
「……ほら。俺の分を食べて良いから」
おにぎりを小皿に取って差し出してやる。

「あ。良かったら瑞穂の分も食べていいですよ」
瑞穂もトールに勧める。
その発言は親切心からだろうけど、このお弁当はおまえが作ったんじゃないんだが。

「ん。サンキューな。でも人数分にしちゃ量多いんじゃないか?」
「あ、あぁ。真吾が食べるからね」
「真吾? あぁ。あんたが真吾さんか」
今、初めて気がついたように真吾に視線をとめて人懐っこい笑顔を見せる。

「俺は咲矢崎浹。一応初めましてってやつだな。でも、波綺から話は聞いてたんで初めてって気はあんまりしねぇんだけど」
不意に言葉を切って俺に一瞬だけ視線を向け、再び真吾と目を合わせて話を続ける。

「ここの学校の二年で、波綺とは一年ほど前に同棲してたモンだ。よろしくな」
「あ。どうも。こちらこ……え?」
「ど、同棲ぃぃ〜!!」
メグと瑞穂が揃って大声を上げる。
真吾も声が出ないままパクパクと口を開閉するのみだ。

しっかし……こいつは〜!

「ひてて。ほら! なみひ、ほっへたひっはるな!!」
余計な口を封じるために、頬を力いっぱいつねる。

「トール。おまえ、著しく誤解を招かんばかりな事実誤認をむしろ誘発するその表現をなんとかしろ」
「まぁいいじゃんか」
悪びれずに笑うトール。まったくもう。

「同棲してたんじゃなくて、俺がよく遊びに行ってたの。トールはひとり暮らししてて気兼ねする必要もなかったし」
「何度か泊まって行っただろ」
「それはミルフィーユの世話をしなくちゃならなかったからだし、それを含めても同棲とは言わないだろ」
「まぁ、そうとも言うな」
「そうとしか言わないって」
俺たちの掛け合いに事情を察した三人が、それぞれに軽く笑う。

「咲矢崎さんって、さくらとは中学一緒だったんですか?」
初対面の男には割とよそよそしいメグが、うってかわって気さくに話しかける。
助けてくれたせいかな。

「ん? ああ。違うぜ。そういや、波綺ってどこの中学だったんだ?」
「中学? 斎凰院だけど」
「げぇ。あんなお嬢様学校だったんか?」
「別にお嬢様学校ってことはないだろ」
「いやいや。俺らのガッコから見れば、私立の名門『斎凰院学園』は立派なお嬢様学校だって」
「そんなもんかなぁ。ま。確かにお嬢様もいるけどな。でも中等部は共学だし、大多数は普通の人ばっかりだって」
「さくらを含めてね〜」
メグの混ぜっ返しにみんなが笑う。

「確かに波綺の制服姿見たの今日が初めてだもんな」
ジロジロと無遠慮に制服姿を眺めるトール。

……やっぱり着替えてくるんだった。

「斎凰院って私服通学だものね」
メグがサンドイッチを口に運びながら、俺の顔を見つめてくる。

「あれ? 恵ちゃん。斎凰院って制服なかったっけ? ほら、なんとかって有名デザイナーが作ったとかゆ〜」
「それは高等部だよ瑞穂ちゃん。確か一昨年までは中高揃って私服だったんだけど、去年から高等部だけは生徒の要望により制服が作られたって話だよ」
瑞穂の疑問には真吾が答えた。

「そうそう。よく知ってるな真吾」
確か、そんなことになってたんだった。

「あぁ。クラスに、やたら詳しい奴がいてね。そいつから聞いたんだ。なんでも布地からすごく高級だとか」
「特注でシルクとか色々選べるみたいだったよ。俺は公立に進学だったから関係なかったけど、オーダーメイドからレディーメイドまであったと思う……ん?」
ふと気がつくと、トールがじっと見つめていた。

「なに?」
「波綺、本当に綺麗になったな〜」
「なにを突然。そ、そう?  変わってないと思うけど」
「いやいや。でも、こんな美人になるんだったら、あん時に唾つけときゃ良かった……」
「つけんじゃねぇっ」
「ほらほら。そんな言葉遣いじゃ、せっかくのべっぴんさんが台無しだぜ」
「ほっとけっ!」
「それはそうと。さっきの返事、どうだ?」
トールの言葉の内容に、メグと瑞穂は興味の視線を俺たちに向け、真吾はなんのことなのかわからずにキョトンとしていた。

「さっきのって?」
トールの目を見て小首を傾げてみる。

その話はあとで。
と、力一杯視線で訴えてみたけど、

「ほら、彼女になってくれって言う……」
……全然、通じなかった。

そもそも、トールにそんな気の遣い方が出来るんだったらコクるシチュエーションも選んでくれていただろう。
ちょっとでも期待した俺がバカでした。

チラリと周りに目を向けると今にも身を乗り出さんばかりのメグと瑞穂。
そして対照的に真吾は、びっくりしたみたいに目を見開いていた。

(……こうなったら仕方ない)
大きく深呼吸して気合いを入れる。よしっ!

「ん? またまたぁ。冗談なんだろ?」
可愛く笑ってごまかしにかかる。

下宿先の、なんでも笑ってごまかしちゃえる剛の人から教わったスキル『女の子は可愛く笑ってれば大抵ごまかせるもんだ』を今こそ実践するときだ。

「ちょっと待てよ、冗談じゃねぇ……ってばよ。いや……その……」
次第に小声になるトール。

そりゃそうだろう。なかば殺意を込めた視線で黙るように訴えてるんだからな。
結局、力業になってるが。

「(こ、この子わ!無理矢理冗談に……)」
メグが呆れたようなジト目を送ってきてるけど構うもんか。

「もし、仮に、冗談じゃないとしても、俺は、誰とも、つき合わないよ」
「ど、どうして?」
ちょっとだけ慌ててるトールの声。

どうしてって? そりゃぁ決まってる。
男とエッチするなんて……拒絶反応起こしまくりだからな。
その……心の準備が……と言うか、覚悟が全然出来てない。
やったらやったで、次こそ人格が壊れそうな気がする。
……まだ、きっと……あのトラウマは消えていないよなぁ。

トールが相手だと、無理矢理迫られたら腕力的に抵抗しきれないだろう。
いや、殺す気で抵抗すればなんとかなるかも。
両目を潰して急所を……って、殺しちゃまずいだろ俺。
じゃぁ、なんとか我慢してヤってみるか。
スカートと一緒で、何回かヤればそのうち慣れるんじゃないだろうか。

………。

うあぁぁぁあ〜〜〜〜〜!!!!!っ。

だ、だめっ。し、死にそう……っつ〜か死ねる。絶対。
落ちつけ、落ちつくんだ。断れば問題ないんだし。

トールに目を向けると、叱られるのを待ってる子どもみたいな心細そうな表情で俺の言葉を待っている。
うぅ。そ〜ゆ〜視線には弱いんだけど、ここは鬼になるしか。
こっちも退くに退けない事情があるんだ。

「……興味ないし」
「え? あ? お、俺……に?」
ハト豆な表情のトール。

あ……。
今、本当に理解出来た。
あの告白は本気だったんだ。
冗談とか、あの時の仕返しかもしれないなんて、ちょっとだけ思ってただけにかなり申しわけない。
考えてみればトールがそんな姑息なことやるはずもないか。

へぇ。トールが、ねぇ。ふぅん……。

「違う違う。つき合うってことにだよ。トールがどうこうってことはないよ。トールのことは嫌いじゃないし」
「ほ、ホントか!? なら!」
「ダメダメ」
諭すように微笑むとトールがシュンと落ち込む。

あは。図体は大きくても、まだまだ子どもなんだよな。
そんなところとか好きなんだけど。
なんかさ、可愛いよな。

「そんなに気を落とすなよ。大体、こんなののドコが良いんだ? 自分で言うのもなんだけど」
「全部」
即答で断言された。

……ぉをぃ。

「これは前から思ってたんだけど、なんて言うかさ、波綺とは一緒にいて疲れねぇんだよな。男のダチといるみたいな感じで。ナヨナヨっとしたウザってぇところもねぇし」
……まぁね。そりゃそうだろ。

「つき合うにしてもさ、俺としては、お互い対等でいられる間柄がいいと思うんだ。でも、そんな女なんて、そうそういねぇんだよな。その点波綺ならタイマンはっても俺に劣らねぇし」
「劣る劣る。もうトールに勝てる気しないもん」
「よく言うぜ。前に勝ったくせに」
「あれはトールが手加減したからだろ?」
「……」
あれ? 黙っちゃった。
負けた時のこと思い出させちゃったかな?

「ま、まぁな。そんなわけで性格面は問題なし。それにしても……変わったよな」
「なにが?」
「スカート穿いて、そうしてれば十分……いや十二分に可愛いぜ」
……なんか。トールにそんなことを言われると、あんまり嬉しくない。
つ〜か、ムカっときたぞ。
……どうしてだろ?

「なぁ。考え直してくれねぇか?とりあえずってことでもいいし」
パンっと手を合わせて拝まれる。
いや、拝まれてもな……。

「悪いね。答えは変わらないよ」
「……」
がっくりとうなだれるトール。
あぁ〜ぁ。こんなに落ち込んじゃって……。

「そ、そんなに落ち込むなって。あ、ほら、そ〜言えばミカちゃんって娘、トールのことが好きだって言ってたじゃん? 確か、つき合いだしたとか聞いてたけど」
「とっくに終わってる。やれケンカするなだとか、毎日電話しろだとか、あーしろこーしろと、とにかくうるさかったんで……ちょっと手を上げたら二度と近づかなくなった」

………。

ま、まぁ、トールに殴られたらタダじゃ済まないからな。
こいつは、こんなところでも男女平等に接するからなぁ。

「おまえなぁ。なるべく女の子に手を上げるんじゃないって。男だろ? 女の子相手に勝って嬉しいのかよ?」
「……」
白い目を向けられた。
あ、あはは。今のは俺が言う台詞じゃないか。

「色々事情があったとは思うけどね」
「……」
ムスッとした顔で視線をそらすトール。
そんなトールを見ていて自然に微笑みを浮かべてしまう。
こんな弟がいたらいいなぁと唐突に感じられたからだ。
正直に言ったらきっと怒るんだろうなぁ。

 
   






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