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Chapter. 6

Misfortune
不幸 13





 
   

泣き崩れたさくらは、突然の訪問者“薙”と共に部屋へと戻った。
リビングには、美咲と瑞穂のふたりだけが残されて夕食の席を囲んでいた。

「お姉ちゃん……どうしたんだろ……」
「………………」
美咲は瑞穂のつぶやきには答えず、ふたりが居るであろう二階の部屋を見上げる。

もちろん、その先には天井しか見えていないはずなのだが、美咲はふたりの姿が見えているかのように見つめている。
そして、ゆっくりと目を閉じると、にっこりといつもの笑顔に戻った。

「今はあの娘に任せましょう」
「あの娘……って誰なの?」
視線を落としたまま瑞穂が尋ねる。
その声は、普段の瑞穂からは想像も出来ないほどに固かった。

「さくらちゃんのお友達よ。私も向こうの下宿先で二回くらいしか顔を合わせたことはないんだけれど」
美咲は、そんな瑞穂を優しく見つめながら答えると、少し冷めてしまったご飯を口に運ぶ。

「でも酷いよ。お姉ちゃん怪我してるのに……叩くなんて」
「そうねぇ、あれにはびっくりしちゃったかな」
「びっくりって……お母さん!」
瑞穂が箸を置いて美咲に詰め寄る。

「なぁに? 瑞穂ちゃん」
美咲は、近づいた瑞穂のおでこに自分のおでこをコツンと合わせてニッコリと微笑む。

「も、もう! いいの? あんな乱暴な娘とふたりきりにして」
ハッとした瑞穂は元の位置に座り直したが、なおも不満をぶつけてくる。

「ふふふ。心配いらないわよ。さくらちゃん、あの娘のこと親友だって言ってたし」
「親友? うそ……」
「とにかく。心配しなくても大丈夫よ」
「…………」
美咲にそう言われても、瑞穂はどこか納得してない表情で俯いた。

「あの〜すんませ〜ん……」
その時、重い空気を破るようにリビングに顔を出したのは、今まさに話題になっていた月城薙だった。
先ほどの会話が聞こえていたのか、視線をあからさまにそらして、気まずそうに頬をぽりぽりと掻く。

「なぁに? どうしたの?」
いつもの笑顔で答える美咲。
瑞穂は視線を合わせようともせず、無関心に食事を続ける。

「取り皿と……フォーク、それに、コップを借りたいんだけど」
「いいわよ。ちょっと待ってね」
美咲が席を立とうとするのを薙が手の平でとめる。

「いや、勝手にやるんでお構いなく」
「でも……」
場所がわからないでしょう? そう言いかけた美咲は、薙の背後の影に気がついて言葉をとめる。

「じゃ、じゃぁ、そゆことで」
薙にしては珍しく照れ笑いを浮かべながらキッチンへと入っていく。

その後ろには、迷子の子どものような雰囲気のさくらが、薙の制服……斎凰院の制服の裾を掴んで付いてきていた。
服装はパジャマのままだったが、その顔には、どこから引っ張り出したのか夜祭りで並んでいるような“お面”で隠されていた。
しょんぼりと俯くその姿に、ヒーローのお面も悲しそうに見える。
美咲と瑞穂が困惑しながら見守る中、キッチンからは薙の声だけが聞こえてくる。

「これ? こっちがいいの? あとは適当な皿が……って、ソコはあたしじゃ手が届かないってば。あぁ〜わかった。わかったってば。あたしがやるから、ちゃんと椅子支えててよ?」
会話が成立しているかのような応答だが、さくらの声は聞こえてこない。
小さくて聞こえない、というよりは、元より喋っていないようだった。
しかし、それを感じさせないくらいに、薙の言葉は文句を言いかけながらも、スムーズに会話しているように感じられる。

「じゃ、借りてきま〜す」
お盆に二組分の食器を載せた薙がリビングに顔を出す。

さくらは、その背中に隠れるように立っていた。
お面姿であるにもかかわらず、その存在感は驚くほど薄く、注意しないと見過ごしそうなほど儚い。
相変わらず、薙の制服の裾を掴んで、その後をついて歩く。
美咲と瑞穂に視線を合わせることもなくリビングを通り抜ける。
尤も、お面のために視線が合いようもないのだが。

「な、なに?」
廊下に出たところで立ち止まる薙。

「あ〜〜〜」
顔だけ振り向いて、お面と向かい合う。
さくらの顔が微妙に動くが、その声は聞こえてこない。
小さな声……と言うより、やはり喋っていないようだった。

「トイレ? はいはい。どっち? こっち? あ〜〜わかってる。ちゃんと待ってるから心配すんなって。なんなら一緒に入って手伝ってやろうか? って! あはは待て待てっ! 脇腹握んなっ。ジョーク、ジョークだってば! ちょ、ちょっと、食器持ってんだからやめれっ!」
先ほどの重い空気が嘘のように、和やかな(?)やり取りで廊下の奥へと姿を消した。

「……さ。食べましょうか」
気を取り直すように、美咲が再び手を合わせる。

「……うん」
「早く食べないと美味しくなくなるわよ」
どこか悲しそうな瑞穂を、美咲は優しく見守っていた。





「どう? おいし?」
さくらの部屋。ベッドに並んで座っていた薙が、さくらを覗きこむように尋ねる。
ふたりが手に持った取り皿の上には、苺がちょこんと乗ったショートケーキ。

「……よくわかんない」
泣いたあとの嗄れた声でさくらが答える。
腫れぼったい充血した瞳が頼りなげに揺れる。
その表情には、普段のさくらからは感じられない『依存』の雰囲気があった。
今は年相応な女の子に見えるさくらに、薙はどこか嬉しそうだ。

「ん〜。ならさ、今食べるのはもったいないかな? けっこーんまいよ」
薙が持参したおみやげなのだが、四つあったケーキのふたつ目にすでに取りかかっている。

「……ずるい」
さくらが批難に満ちた目つきで薙を睨む。
普段であれば冷ややかで突き刺すような視線のそれは、駄々をこねる子どものようだった。

「へへ〜ん。ま。明日にでも食べてくれたまえ」
そんな、さくらの表情を楽しそうに眺めながらケーキを口に運ぶ。

さくらはケーキ皿を机に置いて、床にぺたんと座り込んだ。
そして、コップに注がれていたジュースを手に取る。
両手で包むように握ったコップに口をつけ、上目遣いで睨んでくるさくらの姿に、薙は相好を崩して微笑む。

「へへ」
「もう……痛かったんだからね」
「悪かったって。ほら、あたし、加減出来ないし」
「むー」
「ごめんごめん。悪かったって。はい。あ〜〜ん」
生クリームを掬ったフォークを、さくらへ差し出す薙。

ふくれっ面で睨んでくるさくらの鼻先で、ちょいちょいとフォークを動かす。
渋々とフォークを口に含むその姿に薙が満足そうに微笑んだ。
先ほどの騒動から一転、さくらの部屋でふたりきりになってからの薙は、絶えず頬が緩みっぱなしで楽しそうだ。
一方さくらの方は、ムスッとしてはいるものの、その行動は文句を言いながらも甘えている子どものようだった。

「でも……来てくれて……ありがと」
ふくれっ面だったさくらの表情が不意に優しくなる。

「ま、まぁね。やっぱりさくらは、あたしがついていないとダメなんだから」
少し顔を赤くした薙が胸をはって手をあてる。
自慢げな薙の姿に笑顔を見せるさくら。
しかし、その表情は次第に暗く沈んでいく。

「どうして、私は……こうなんだろ」
膝に置いた手をぎゅっと握る。

薙は無言で立ち上がると、さくらの背後から壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。

「上手く言えないけどさ。なんてゆ〜か……あたしは、さくらのこと好きだよ? 今回のことも、さくらが悪いんじゃないだろ? 誰がどう見ても相手の方が悪いんだから、さくらが思い悩むことは無いと思うけどな」
「……でも」
「いいの! あたしがそれで良いって言ってるんだから。それともなに? あたしの言うことは信用出来ない?」
「……ううん」
「だろ? あたしに任せておけば大丈夫だって」
自慢げに笑う薙。

お互いの鼓動を感じながら、しばし無言の時が流れる。
背中から抱きしめる薙の手に、さくらはそっと自分の手を重ねた。
薙はくすぐったそうに笑うと、さくらの背中に頬ずりしながらすり寄る。

「あ〜。あたしも光陵にしとけばよかったなぁ」
薙が溜め息と共に脱力する。

「……どうして?」
「だって、女子校って思ってたよかツマンナイんだもん。あ〜ぁ……せめてさくらが一緒だったらなー」
「……ごめん」
「いいさ。さくらにはさくらの事情があって光陵にしたんだから」
「……高等部はつまらない?」
「なんかさ、生徒のお嬢様度が上がっててヤになるよ。『おまえら地はそんなんじゃねぇだろ絶対』ってツッコミ入れまくり。猫のかぶり方を学ぶための学校なんじゃねぇの? って感じ」
「ふふ。そうなの?」
「さくらは来なくて正解だったかも。……いや、でも意外に溶け込めそうな気がする」
「そう?」
「ま。今となってはどうでもいいか」
きゅっと、薙が抱きついた腕に力を込める。
「痛くない?」
「うん……」
「そか。そう言えば、その腕さ」
「……」
「まぁ、いいや。でもさ、身体大事にしないとな」
「……うん」



「さくらちゃん? もうひとりお客様なんだけど……」
控えめなノックの音と共に、ドア越しに美咲の声。

薙はさくらと視線を合わせて小さく頷く。
さくらは、頭の上にあったお面を下ろして表情を隠した。

「は〜い」
その部屋の主であるかのような返事でドアを開ける薙。

「あ。薙ちゃん。さくらちゃん居る?」
胸の前で手の平を合わせた美咲が薙に微笑みかける。

(……なぎ……ちゃん?)
美咲の呼び方に眉をしかめながらも、薙は視線を巡らせて階段の降り口に佇む女の子に目をとめる。

どうも。と口だけ動かす彼女と、それを見て露骨に嫌な表情をする薙。
しかし薙は、表情とは裏腹に彼女のために通り道を空けた。

「改めて、失礼します」
彼女は美咲に対して再度頭を下げながらさくらの部屋に入っていく。
閉じられた扉を前に、ひとり廊下に残される美咲。
そっと右手を頬に添えて首を傾げる。

「…………修羅場?」
女の子三人に対して、不当な予想図を描く美咲だった。

 
   




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