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Chapter. 1
Encounter Season

出逢いの季節 02





 
   

「ただいまー」
「あ〜。お兄ちゃんお帰り〜」
一週間ほど前に久しぶりに戻ってきた実家の玄関をくぐると、妹の瑞穂が愛猫チェリルを抱えて嬉しそうにとてとてと出迎えにきてくれた。

瑞穂とは歳がふたつ離れている。
共働きの両親に代わって小さい頃から面倒を見てきたせいもあってか、お兄ちゃんっ子でよく懐いてくれていると思う。
それでいて小学校高学年くらいからは妙にお姉さん風を吹かせたりして、逆にこっちの世話を焼くようになった。
正直、空回り気味だと感じることも多いけど、本人が好きでやっているみたいなので黙認している。
それは二年半のブランクがあった今も続いているみたいだ。

身内のひいき目があるのかもしれないけど、なかなか可愛いと思う。
俺と瑞穂はあまり似ていなくて、瑞穂は母さんにそっくりだけど、俺は親父の方の母親、つまり婆ちゃんに似てるらしい。

「瑞穂。お兄ちゃんじゃない。……お姉さん。だ」
訂正すると『えへへ』と笑って、わかっているのかいないのか、舌をペロっと出した。

「にゃぁ」
チェリルが瑞穂の腕から抜け出して、靴下に額をこすりつけるようにすり寄ってくる。

「チェリル! 瑞穂よりお兄ちゃんの味方なの!?」
「そうだよな。チェリルは俺の味方だもんな〜」
話しかけながらチェリルを抱きかかえる。
胸の中で揺らしてやると、気持ち良さそうに目を閉じて喉をゴロゴロと鳴らした。

「親父は?」
キッチンの方に歩きながら、ちょっと膨れてる瑞穂の頭をポンポンと軽く叩いて話しかける。

「まだ、帰ってきてないよ」
「そっか。母さーんご飯まだ〜?」
キッチンへ続く入り口の暖簾をくぐりながら母さんに晩ご飯を催促すると、

「はいは〜い。もうちょっと待っててねぇ」
母さんは楽しそうに笑顔で答えて料理を続ける。
なんだか、いつにも増して嬉しそうだ。
リビングルームのソファーに腰を下ろし、テレビのリモコンを操作する。
抱えていたチェリルを離してあげると、にゃぁんと甘えた声で鳴いて膝の上でくつろぎ始めた。
その横では、さっきから後をくっついてきていた瑞穂が、ニコニコと微笑みながらこちらを見ていた。

「ん? なにか顔についてるか?」
テレビのチャンネルを変えながら尋ねると、

「なんでもないよ。ただ、お兄ちゃんが帰ってきたのが嬉しくって」
屈託のない笑顔で答える瑞穂。
その言葉に、料理の皿を持って入ってきた母さんが相槌を打つ。

「そうよねぇ。やっぱり一樹ちゃんがいると料理にも張り合いが出るわぁ」
にっこりと微笑みながら、唐揚げを山盛りにした皿をテーブルに置く。

「もう……。母さんも瑞穂もちゃんと呼んでくれよな。俺は『お姉ちゃん』で『さくら』なんだから。そんなことじゃ、いつかご近所にボロが出るってば」

「そうねぇ。私の娘たちですから、近所でも評判の美人姉妹って噂も立つでしょうし」
嬉しそうに次々と料理を運んでくる母さん。

「言ったろ。俺は従姉なんだってば」
「あらあら、そうだったわねぇ、さくらちゃん。でも、私のことは今まで通りに、母さんって呼んでいいですからね〜ふふ」

…………。
そう。俺が女になってしまって、母さんがショックを受けてたのは、ほんの最初の頃だけだった。
それからすぐにこの事実を当たり前のように受け入れた。
瑞穂も似たようなもんだ。性格も母さんに似てるし。

問題は俺と親父で、手術のあと、引っ越ししてひとり暮らしを始めたのも名前を変えたのも、俺から提案して家族の中でも最初に親父が賛成した。
そんなところは、どうやら男の方の肝が小さいらしい……って、今は女なんだけどね。
母さんと瑞穂は、女になった俺とも今まで通りな雰囲気で接してくれるんだけど、親父とはどうも疎遠になったように感じる。
そりゃぁさ、今まで手塩にかけた(?)息子が、実は女の子でした、なんて言ったら気落ちのひとつもするんだろう。
今では、ちょこちょこっと挨拶するくらいで、以前のようには話さなくなった。
ちょっと寂しいけど仕方ないかなとも思ってる。

「さぁ、さくらちゃん瑞穂ちゃん、たーんと召し上がれ」
「いただきまーす」
手を合わせてから、俺と瑞穂はそれぞれのご飯に箸をつける。

「たくさんあるからね。どう?美味しい?」
「うん。やっぱり母さん、料理上手いよね」
下宿先の食事を思い出しながら答える。

別に、そこの食事がおいしくなかったってことじゃない。
でも、飲み慣れた水や食べ慣れた味が味覚の基準になるものだ。
俺も当番制で夕食を受け持っていたけど、まだまだ母さんには敵わない。

「ふふ。ありがと。お世辞でも嬉しいわね〜」
俺たちの食べる姿を嬉しそうに眺めながめる母さん。
会話しながらも、布巾でテーブルを拭いたりと忙しそうにしている。
ん? ひょっとして照れてたりするのかな。

「もう、お部屋の片づけは終わったの?」
今度は急須にお湯を注ぎながら話しかけてくる。

「大体は済んだかな?元々そんなに荷物なかったから。どっちかと言うと以前の持ち物を処分する方に時間がかかったくらいだし」
「なにか欲しいものはない?」
「欲しいもの?」
「ドレッサーとか花柄のカーテンとか」
「……いらない」
「化粧品とかアクセサリーとか」
「……いらない」
「ワンピースとかハンドバッグとかはどうかしら?」
「いらないってば!」
「そう? 欲しくなったらお母さんに言ってね。さくらちゃんもお年頃ですからねぇ」

「……お年頃……」
さっきは女として扱えみたいなことを自分から言った手前、反論も出来ずに黙っていると、瑞穂が代わりに母さんに話しかける。

「お母さん。瑞穂〜春物のワンピが欲しいな〜」
天真爛漫と言うか無邪気と言うか、瑞穂が満面に笑顔を浮かべて甘えた声を出す。

「あらあら。それなら今度、お母さんと一緒に見に行きましょうか」
「うん。やったね」
喜ぶべきか悲しむべきか。
女同士の家族の会話としては遜色ない団欒のひとときに、心の中で溜め息をつきつつ黙々と食事を続けた。

 
   






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