Chapter. 1
Encounter Season

出逢いの季節 12





 
   

「ごめんね〜さくらちゃん……」
「別に構わないよ。お見舞い来てくれてありがとう」
「ううん。それより、あの、さくらちゃん……怪我の方は、もういいの?」
「私のほうは大したことないよ。志保ちゃんは怪我とかしなかった?」
「あたしは、さくらちゃんのおかげでなんとも……。でも、さくらちゃんは大したことなくないよぉ。ごめんね。ごめんね……」
志保ちゃんは涙声でそう言って泣きはじめた。

うぅ。なんか、こんなシチュエーションばっかだな俺たちって。
泣き出した志保ちゃんを膝におろおろしていると、病室の入り口に立っていた、志保ちゃんと同じ光陵高校の制服姿の女生徒と目が合った。
漆黒のショートカットでキリっとした顔立ち。
一目で、女の子に人気ありそうな感じだなと思った。
身長は俺と同じくらいあるかも。スラリとしていて、なにかスポーツをやっているように見える。
多分俺よりも年上だな。志保ちゃんと同じ三年生かな?

「えぇっと。さくら……さん?」
彼女はニッコリと微笑むと、俺に語りかけてきた。

「はい」
「こんにちは。斎藤ちひろです」
互いに軽く会釈する。

「あ! あの……ごめん! ちーちゃん」
そんなやり取りを頭上に聞いて、志保ちゃんが顔を上げてあたふたする。

「あの……さくらちゃん紹介するね。斎藤ちひろちゃんっ。あたしの幼なじみなの」
「波綺さくらです。こちらこそ。初めまして」
「ふふ。実は初めてって訳でもないんですよ」
ちひろさんは優雅に微笑む。

「え?」
「そうなの〜。あの事故のあと、さくらちゃんが気を失っちゃって、ちひろちゃんに色々手伝ってもらって病院まで運んだの」
「あ。そうだったんですか。ありがとうございました」
ベッドから降りて頭を下げる。

「いいえ。こちらこそ、しーちゃん……志保ちゃんを助けていただいてお礼を申しあげます」
「本当、ありがとうね、さくらちゃん」
「そんな。ふたりとも気にしないで。小さい頃は、こんな怪我は日常茶飯事だったから大したことじゃないんですよ」
ふたりとも『日常茶飯事!?』って顔をしていたが、なにも聞いてはこなかった。

「あの、あたし、お花生けてくるね」
赤い目をこすりながら、志保ちゃんがお見舞いに持ってきた花を手に病室を出て行った。

「さくらさん、本当にありがとうございました」
斎藤先輩は、改めて深々と頭を下げた。

「いえ。いいですよ。怪我したのは自分の力量不足ですから」
「そんな。あなたがいてくれたから、しーちゃんは無事だったんです」
「仲いいんですね。志保ちゃんと」
「ええ。物心ついた時には一緒に遊んでたから、ほとんど姉妹みたいなものですね」
「幼なじみっていいですよね」
「さくらさんにもいますか? 幼なじみ」
「ええ。いますよ。口やかましいのと、さっきの……」
「さっきって、赤坂くんのこと?」
「知ってるんですか?」
「ええ。学校で赤坂くんのことを知らない人は、いないんじゃないかな? 知ってました? ファンクラブまであるみたいなんですよ」
「それは聞いたことありましたけど、そうか〜。やっぱりそんなに人気なんだ」
「でも浮いた噂は聞かないんですよね。彼女もいないみたいだし」
斎藤さんは意味ありげに俺の方を見る。

「はい?」
「そっか、こんな可愛い幼なじみがいるからかぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。斎藤先輩」
「あ。私のことはちひろで良いですよ」
「それじゃちひろ先輩。違いますよ」
「違うって……なにが?」
「だって……」
俺たちが幼なじみとして遊んでた頃、俺は男だったんだから。と言う言葉を辛うじて飲み込んだ。

「今日、そうして会ったのは三年ぶりだったんですから」
「そうなの?」
「はい。事情があって、私が引っ越してたんです」
「なんだ。残念。スクープかと思ったのに」
ちひろ先輩がペロっと舌を出す。
綺麗なちひろ先輩がそうして子どもっぽい仕草をすると、そのアンバランスさから妙に可愛く感じられる。

「でも、三年前からずっと、さくらさんのことが好きだったりして……」
「もう。違いますから変なこと言いふらさないでくださいよ」
「ふふ。冗談よ冗談。でも、美男美女でお似合いだと思うけど?」
「美女ならちひろ先輩の方がハマりますよ。どうです? さりげなく売り込んでおきましょうか?」
「ごめんなさい。もうこの話題はやめておきましょう」
その話の打ち切り方に、ちょっとした違和感を感じた。
この反応の具合は、ひょっとして……。

「先輩、好きな人いるんだ?」
「え? え!? どうして?」
「なんとなく。そうかなって思っただけですけど」
「……内緒」
「ふむふむ。そう言うことにしておきましょう」
「ふふん? そう言うさくらさんは彼氏いるの?」
「いませんよ。作る予定もありません」
「あら。……ひょっとして、ユリの方?」
「……違います。ちひろ先輩って顔に似合わず、結構こんな話好きみたいですね」
「それは、私も女の子ですから。それに万一ユリだと、しーちゃんの身が危ないですからね〜」
「あー。疑ってたんですか? 酷いなぁ。そんなんじゃないですって」
「でも、さくらさん女の子にもモテるでしょ?」
「ちひろ先輩も、下級生の子とか慕われてるんじゃないですか?」
俺たちは一歩も譲らずに視線を絡ませていた。
やがてどちらからともなく笑い出した。

「ふふふ。ここは引き分けってところね」
人差し指を立てたちひろさんがウインクして微笑む。

「善戦したと誉めてもらいたいところですよ」
「ふふ。そうそう。『先輩』もつけなくてでいいですよ。ちひろって呼んでください」
「ちひろ……さん?」
「うん。それじゃ改めてよろしくね。さくらさん」
「はい。ちひろさん」

それから志保ちゃんが戻ってくるまでの間、ちひろ先輩から俺が病院に運び込まれるまでのいきさつや、例のふたり組が傷害罪で警察病院へ収容されていることなどを聞いた。
程なく、花を生けた花瓶を手に志保ちゃんが戻ってきた。

「志保ちゃん、お花ありがとう」
「ううん。これくらい気にしないで」
「あ。そう言えばさくらさん?」
「なんですか」
「いつまで入院するんですか?」
「検査の結果待ちなので、明日には退院出来ます」
「そう。それじゃ、明後日からの登校になるんですね」
「はい」
「ごめんねさくらちゃん。入学早々に、こんなことになっちゃって」

「いいんだよ志保ちゃん。私は気にしてないから。それに、休みが長くなってラッキーかなぁとか思ってるし」
志保ちゃんは、少し笑ってありがとうと呟いた。

ホント、そんなに気にしなくていいのにな。
セーラー服を人前で披露しなきゃならない日が先送りされてるだけで感謝ものだと思ってるし。
三人でひとしきりお喋りをしたあと、志保ちゃんとちひろさんは名残惜しそうに帰って行った。




夕方過ぎに瑞穂が着替えなどを持ってやってきた。
見舞いの時間いっぱいまでつき合ってくれ、あげくには看護婦さんに追い出されて、ようやく家へ帰った。
ひとりになってから、桜の木の下でのことについて、いろいろと思い出しながら考える。

「恭平、今頃どうしてるかな」
無事進学できただろうか。
そんな取り留めもないことを考えながら、いつしか眠りに落ちていった。

 
   






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