Chapter. 8

The Cherry Orchard
さくらの園 3





 
   

「皆さん。お忙しいところをお集まりいただきありがとうございます」
櫻子は教壇にしつらえた席を立ち上がって、集まった実行委員三十名と各部活動の代表者を見渡し優雅な仕草で頭を下げた。

おそらく礼儀作法として躾られたのであろうその仕草は、歳に似合わず実に堂に入っている。
まだ幼さが残る容姿と平均以下の身長ではあったが、就任一週間で肩書きに見合う貫禄らしきものをすでに感じさせていた。


光陵高校には生徒用の会議室がなく、職員室の隣にある教職員用のそれも二十数名分の席しかない。
そのため、委員の人数が多い時などは臨時会議室として二クラスが収容できるLL教室を利用している。

そのLL教室に実行委員に選ばれた各クラス男女一名ずつ三十名の生徒と、各部活動の代表が一名ずつ、そして教壇側には生徒会の役員三名が対面するように座っている。
合わせて実に六十一名もの人数が集まっていた。
全校生徒が五百人に満たない光陵高校において、これだけの生徒が一同に集まる会議は珍しい。

「それでは、再来週の日曜日に開催する体育祭の、第一回目の実行委員会を開催します」
会計の聖真秀が委員会の開始を宣言する。

「あの、生徒会長がいないみたいなんだけど……」
挙手と同時に二年生から質問が投げかけられる。

「……それに、そのぬいぐるみは?」
質問した二年生……羽鳥恵は、会長の席に座っているテディベアを指さした。
生徒会メンバーが座る席は全部で五つ準備されている。
入り口の一番近くは空席だが、九重副会長の隣にある中央の席には、五十センチ程の大きさの茶色いオーソドックスなテディベアがちょこんと座っている。

「会長は体調不良のため保健室で休んでいます。具合次第では遅れて参加するかもしれません。このぬいぐるみは、いわば代理ですね」
櫻子の説明に教室内がざわめく。
その内容は、初回から会長が不参加なことを非難する声と、体調を心配する声が半々くらいだった。

「会長はどうしても出たいと言ってましたが、お体を考えて私が休むようにお願いしました。次回からは大丈夫だと思いますので、どうかご容赦ください」
櫻子が笑顔でそう言うと、教室内は少しだけ静かになる。

演説の時もそうだったが、櫻子の口調は落ち着いていて淀みがない。
まるで台本でも用意されていて、それを読んでいるのかと思ってしまうほどだ。

「では、始めさせていただきますね。まずは、皆さん、お忙しい時間に集まっていただきありがとうございます。今日は、各クラスより体育祭実行委員二名ずつ、そして、クラブの代表の皆さんに集まっていただいてます。初日でもありますし、今日のところは準備内容と段取りを説明して終わりとします。手早く終わらせたいと思いますので、よろしくお願いします」
そうは言っても私語はやまず、とても集中しているとは言い難い。

(あ〜私ってば、求心力が薄いからなぁ〜)
いくら貫禄があり物腰や口調が落ち着いているとはいえ、一年生であることと、高いとはいえない身長、そして幼く見える容姿。
それらは可愛い要素ではあるが集団を取りまとめるのには役に立たなかった。

数瞬ではあったが櫻子がどうしようかと思案していると、ドアがノックされてゆっくりと開かれた。

「会議中、失礼」
教室内を見渡しながら保健医の神野未央が現れた。その未央に促されて後ろから生徒会長も入ってくる。
まだ具合が悪いのか、俯き加減で表情が見えにくい。

「体調が回復した。と言い張るので連れてきた」
「……会長」
さくらはコノエの気遣う視線に小さく頷き返し、楓が退いた椅子にゆっくりと座った。
その動作はゆっくりとしたものであったが緩慢というほどでもなく、見る人によっては優雅にも感じられた。

「おいおい。遅れて来て随分と偉そうじゃないか」
さくらの前に座っていた三年生が険悪な声で非難する。
座っていても分かるほどの大柄な男で、その体躯を活かした結果なのか、ラグビー部のキャプテンをやっている生徒だった。

教室内に緊張が走り、水を打ったような静寂とともに、男と生徒会長とに注目が集まる。
突然の成り行きに固まる者。とりあえず触らぬ神にと傍観を決め込む者。手助けしようと腰を浮かした者。
反応は様々であったが、教室内の全てが生徒会長の次の行動を待っていた。

生徒会長は伏せていた顔を上げて、恫喝に近い睨みを利かせる三年生の視線をまっすぐに受けた。
そのまま十数秒ほども無言で見つめ合う。
一番前に座っている三年生の表情は集まった生徒たちからは見えなかったが、おそらく戸惑っているであろうことがありありと伝わってきた。
それは、生徒会長の表情を見ている自分たちもそう感じていたからだ。

その表情を例えるなら、場違いではあるが『友人を全幅の信頼を持って見守っている』かのようだった。
状況とは裏腹に親しみさえ感じられる視線を向けられた三年生は明らかに思考が止まっている。

「そんなつもりはなかったんですが……お気に障ったのなら謝ります。ごめんなさい」
さくらは拍子抜けするほどあっさりと非を認めて頭を下げた。
顔を上げると、戸惑いを隠せないまま睨みつけてくる三年生に対してにっこりと微笑む。
その少し照れたような控えめな笑顔は、相対している三年生のみならず、それを視界に収めた生徒の多くに衝撃を与えた。

(あぁ〜やっぱり、全然っ回復してないか……でも、まぁ、これはこれで。利用価値がある、かな)
その横顔を覗き見ていた櫻子は内心で頭を抱えたが、すぐに思考を持ち直した。

「い、いや。わかればいいんだ……。こっちこそ、大声出して悪かったな」
まさか微笑まれると思ってなかった男は、まじまじとさくらを見つめ、気まずそうに視線を落とし逆に謝罪してきた。

「いえ。こちらこそ、ありがとうございます。……確かラグビー部のキャプテンをされている平島さんですよね。他にも気づいたことがあれば、遠慮なく注意してください。私もそうしてもらえると助かりますから」
三年生……平島は生徒会長が自分の名前を知っていたことに驚いた。もちろん面と向かって話したのはさっきが初めてだし、噂や選挙でこちらが一方的に知っているだけのはずだった。

(なにか目を付けられていたのだろうか?)
そう勘ぐってはみたが心当たりが無い上に、生徒会長の表情からはマイナスの感情など微塵も感じられない。

「わかった……。おまえ……体調悪いんだってな? 大丈夫なのか?」
「はい。もうかなり回復していますから」
嬉しそうに答えるさくらを見て、その三年生がわずかに赤面する。

集まった生徒たちからは一番前の席に座っている三年生の表情はわからなかったが、生徒会のメンバーと未央には、さくらと話している間に変化する感情が手に取るように理解できた。

にこやかに応対しているさくらを見て、櫻子は後ろに控えていた未央に近づくと小声で話しかけた。

「……いいんですか?」
「本人がどうしても会議に出ると言い張ってな。症状も収まってきてるし、大丈夫だろうと思ったんだが……」
「あっという間に取り込みましたよ?」
怒っていた……少なくとも気分を害していたはずの強面で大柄な三年生が、手のひらを返すように態度を変え、あまつさえ具合を気遣うまでに至っている。毒気を抜かれたのみならず、相手の懐にまで潜り込む手管は櫻子すらも舌を巻くものだ。
しかも、さくらの体調を考えると計算からの行動じゃなく素でやっているのだと考えると、感心すると同時に興味を刺激されてしまう。
でも、そうでなくては、自分が進学先を変えてまで付いてきた意味がない。
櫻子は未央と会話しながらそう考えていた。

「まだ影響力は残っていた……か」
「先生……まだとかってレベルじゃなく、十分に残っているじゃないですか。さっき目を合わせた時、私もドキッとしたくらいですよ」
なぜに自分が女の子にときめくのかも櫻子には理解し難かった。
もちろん、さくらの素性は知ってはいるのだが、そもそも男相手にもときめいた記憶がない櫻子には、珍しく容易に答えが出せない問題だと言えた。

「そ、そうか? 私はずっと一緒だったから、見慣れていたのかもしれないな」
「慣れたというより。神野先生?『あの』ミキちゃんに押し切られたんじゃないですか?」
「……かもしれん」
核心を突かれた未央は自嘲の笑みを浮かべて櫻子から視線を外した。

「まぁ、ミキちゃんが来てくれると私も助かるんですけど……」
「そう言ってくれるとありがたいな。まぁ私も付き添うから心配するな」
「って、先生は生徒会の顧問なんですから出席するのは当然です」
「……そうか、そうだったかな?」
本来であれば保健医が学生活動の顧問に就くのは異例なことなのだが、校長から生徒会長である波綺さくらの体調などを管理するよう要請を受けていたこともあり、特例人事として承認がなされていた。
だから空席だった生徒会側の五席目は、担当顧問の未央のために用意されていたもので、これで全員が揃ったことになる。

「……忘れないでくださいよ〜」
「悪い。つい、な」
未央は悪びれた様子を微塵も感じさせずに謝罪する。
それを見て櫻子は大きく嘆息した。

「コノエ。遅れてごめんなさい。会議の続きに戻りましょう」
次第に小声じゃなくなってきているふたりだったが、さくらの声で我にかえると、それぞれに席についた。
櫻子は時間をおいてから、さくらの言葉遣いに違和感を覚える。
ちらりと隣を見ると、さくらは席を立って話し始めた。

「まずは、遅れてしまい申しわけありません。少し体調が優れなかったもので、保健室で休ませてもらっていましたが、もう大丈夫です」
皆が会長の説明に聞き入っている中、高校でのさくらをよく知る幾人かは明らかに普段と違う様子に驚いていた。

それというのも、生徒会に……というより、さくらに協力しようと個人的に繋がりを持つ生徒が数多く実行委員に立候補していたからだった。
幼なじみである赤坂真吾、羽鳥恵を筆頭に、一年A組からは火野順平と和田今日子。ほか一年の中には高木瀬颯や蔡紋兼人、そして野球部の東の姿があった。二年生は幼なじみに加えて、北倉浩一郎、江藤直美。三年生は小椋志保といったメンバーが中心になっている。
加えて部活動の代表として、斎藤ちひろ、舞浜透子、伊沢早希の姿も見える。

(今日はやけに……可愛く感じるのは……気のせいじゃないみたいね)
羽鳥恵は、いつもと違う雰囲気のさくらを極力冷静に観察していた。

その視線を感じたわけではないだろうが、さくらの視線が恵に向けられた。
話を続けながら幼なじみの存在に気づいたさくらが嬉しそうに微笑む。

(えっ!?)
自分の心が言いようない感情で塗りつぶされたことに恵は戸惑った。
無意識下で必死に否定するものの、惹かれたんだという事実は隠しきれなかった。

(いや、でも……ないない。それはないって。あ、あはは……)
幼なじみで付き合いも長いし、好意は持っていると言ってもいい。
でも、恵にとってさくらは、好意はあるにしろ恋愛感情とは無縁だったはずだ。
転校以前はもちろん、再会した後は性別的にもなおさらだった。

恵が持て余している感情に近いものを集まった生徒たちも少なからず感じていた。特に好意を寄せている一部の生徒は、恵と似たような影響を受けているようだった。
しかし、他の多くの生徒たちは、直接視線を合わせて微笑まれない限りは『会長って、なんだか可愛い人だな』と思う程度で済んでいるようだ。

(ふむ。なるほど……)
未央は、その様子を正確に見定めながら『やはり隔離しないと危険だ』と認識を新たにするのだった。






「この体育祭は、私たち生徒会にとって初めての大きなイベントになります……」
だんだん調子が戻ってきた。
話しながら意識が覚醒するかのようにはっきりしていくのがわかる。

「当日まで二週間しかなく、準備も急ピッチで進める必要があり、なにかと慌ただしくなると思いますが、どうか皆さんの力を貸してください」
言い終わると同時に頭を下げると拍手をもって答えてくれた。
それが嬉しくて自然と笑顔になる。

「会長、ありがとうございます」
コノエが労いの言葉をかけて立ち上がる。ここから先の説明はコノエにバトンタッチだ。笑顔のコノエに微笑み返して着席する。でも、そのコノエがこちらを見たまま動かない。

(あれ? 説明を引き継ぐんじゃなかったのかな?)
なにかのアイコンタクトかもしれないけど、その意図が全然わからない。
かすかに首を傾げて問い返すと、コノエは驚いたように一瞬だけ目を見開いてから俯いた。
そして、照れを隠すように咳払いして話し始める。

「……それでは、私の方から準備の内容と役割分担を発表します」
ほんのり頬を染めるコノエが珍しくて見つめていると、その視線を感じたコノエの顔がますます赤く染まる。

「……会長」
「はい?」
俯くコノエが手元の資料をこちらに差し出した。

「体育祭の要項です。一部変更になってますので、今の内に目を通しておいてください……」
「わかった」
受け取った書類をめくると、コノエが説明の続きに戻る。
その声を聞きながら、おそらく話の内容と同じであろう要項を読み進めた。
うん、基本は変わっていない。
それはそうだろう。昨日まで一緒に作ったんだから、それから実質1日足らずで大幅に変更を加えることは困難だ。
確かにいくつか記憶と違う箇所があるが大筋は同じかな。
違いは小さな部分だけど、そこを頭に入れておく必要はあるか……。


その後の会議は驚くほどスムーズに進んだ。
理由はふたつ。
櫻子の説明に無駄がなくわかりやすかったことがひとつ。
もうひとつは、メンバーが熱心に会議に集中できていたため滞りなく進んだ結果だった。

「以上で実行委員会を終了します。明日の会議もここで行いますので、実行委員は同じ時間に集合してください。各部の代表者の皆さんの出席は今回が最後となります。要請があるときは追って連絡しますので、ご協力をお願いいたします。今日はお忙しい中、ありがとうございました」
コノエの言葉で、張りつめていた緊張の糸が解かれ、教室内が私語とともに活気にあふれ出す。

かく言う俺も頭の中がかなりクリアになっている。
さっきまでの雲の上を歩いているような、フワフワした感じもなくなったし、体の調子も万全とまではいかないが、かなり回復してきていた。

「ちょっと、あんた大丈夫なの?」
そんな言葉に顔を上げると、メグが額に手をあててきた。
ひんやりとして気持ちいい。

「う〜ん、熱はないけど……どこか変なのよねぇ」
「変って言われても……」
自分の体温と比べていたメグは、異常がないことが不服そうな顔で手を離す。
そんなやりとりをしてる間に顔見知りの面々が集まってくる。

真吾に北倉先輩、志保ちゃんにちひろさん、そして透子先輩に伊沢先輩。
颯、蔡文、今日子、火野くん、江藤さんとか、あっという間に取り囲まれてしまった。

「なに? みんな、どうしたの?」
「どうしたの? じゃなくて。あんたの様子がいつもと違って見えたから集まってきたんじゃない?」
みんなの代弁をするようにメグが答える。

「変かなぁ? もう体調もかなり回復したし、自分的には大丈夫なんだけど……」
「ミキちゃん。みんな心配してくれてたみたいだから、お礼を言わないと」
少し離れた場所でコノエが苦笑している。
そっか、心配かけちゃってたのか。

「そうなんだ……みんな、ありがとう」
その気持ちが嬉しくてお礼を言葉にする……けど、みんなはフリーズしたパソコンのように固まって動かない。
不思議に思って見回すと、視線が合うと幾人かが俯いてしまった。
メグに視線で問いかけると、困ったような顔でため息をつく。

「すみません。これから生徒会の会合がありますので、生徒会長も連れて行きますね」
コノエに手を引かれて、みんなの輪から抜け出す。

「え? でも……」
なにがどうなってるの? このまま行っちゃっていいの?

「……皆さん、戸締まりするので教室から出てください」
聖さんの声に、無言で見送っていたみんなの視線からようやく解放される。

「カエちゃんは資料を取りまとめて、忘れ物チェックもお願いね。私たちは先に生徒会室に戻るから」
コノエは『はい』と答える楓ちゃんに微笑みかけて、グイグイと俺の手を引いて教室を後にする。


「神野先生……次回からはお願いしますよ?」
「あぁ。わかっている。すまなかったな」
廊下をしばらく歩いて、人通りが途切れた時にコノエが前を向いたまま話しかける。
後ろから付いてきている未央先生は、俺たちを面白そうに眺めながら……なぜか楽しそうに謝った。

なんのことを話しているのか全然見当が付かない。

「さぁミキちゃん。みんなが戻ったら簡単に打ち合わせして、それから手分けして道具のチェックに回るんだけど、できそう?」
「あ、うん。大丈夫だよ。時間ないもんね」
本来は会長である俺が取り決めなきゃいけないことを、コノエにほとんど任せてしまっている。
その分も、きちんと働かないと。

「私は保健室に戻ってるから、用があれば来てくれ」
「先生にも手伝って欲しいところなんですけど……」
淡々と話す未央先生に対し、少しだけ笑いを含んで答えるコノエ。
言うだけは言っておこうといった感じだ。

「すまんが、そうそう空けておくわけにもいかなくてな」
「それも分かってますから無理は言いません」
「悪いな。その代わりに鍵の件は話を通しておこう」
「お願いします」
鍵……体育倉庫などの鍵を生徒会で借りるってことか。
コノエと未央先生の会話は少しだけ難しい。

「では、な。波綺、まだ本調子じゃないんだから、あまり無理はするなよ」
「はい。今日は一日ありがとうございました」
我ながら今日だけを見ると保健室登校のようだ。
朝から放課後まで保健室で過ごし、放課後になって活動し始めるなんて。

「気にするな。私としては、ひとりでいるより気が紛れて助かる」
「……そうなんですか?」
ほとんど寝てたんだけど、それでも違うものなのかな。

「あ〜。ならですよ? 私も今度お世話になっていいですか?」
コノエの言葉を聞いて未央先生は立ち止まる。

「それは構わんが……仮病じゃなければ。な」
白衣のポケットから手を出して、コノエの頭をグリグリと撫でつける。

「たまになら、いいじゃないですか〜」
「おまえは居着きそうだからダメだ」
「ぶーぶー」
コノエがじゃれ合うようにブーイングする。

「そうそう。子豚はそうやって鳴いてろ」
「失礼ですね〜そんなに太ってないですよ〜」
「それはそうだな。なら、逆にもう少し太れ。その方が可愛いと思うぞ?」
冷静にコノエを観察する未央先生。

「お断りです。ダイエットは女の子の永遠のテーマなんですから、甘い言葉には乗りません」
「なぁ、波綺もそう思うだろう? 九重はもう少しぽっちゃりしてる方が可愛いと思うよな?」
「ミキちゃんは体重計との闘いの重要性を分かってくれるよね?」
突然こちらに話が振られて、ふたりから詰め寄られる。
あ〜もう。ふたりとも、いつのまにか仲良くなったもんだ。

「本人が良ければそれで……」
「でしょ? さすがミキちゃん。ミキちゃんさすが」
「でも、波綺の好みもぽっちゃりタイプだろう? 痩せすぎの娘は抱き心地がよくないからな」
うんうんと頷く未央先生。好きな女性のタイプとか、女同士で話すことなんだろうか……。
そこを別にすれば、それはそれで確かに肯定すべき意見ではある。

「あ〜ミキちゃん。今、心の中で肯定したでしょ?」
「え!? ま、まぁ未央先生の意見にも一理あるかなぁ〜と」
睨んでくるコノエの迫力に視線が泳ぐ。

「そう言うんならミキちゃんが太ってよ。それで、私が抱きしめてみて、抱き心地がいいのかどうか試してみるから」
「いや、そうなると確かに太りたくはない、かな……」
「でしょう?」
「いやいや。波綺くらいの身長があれば、太ってなくてもボリュームがあるからな。九重くらいのコンパクトサイズなら、断然ぽっちゃり系なんだ」
「なるほど……」
「こらーミキちゃん! 納得するなぁ〜〜!!」

なぜか盛り上がった会話は、楓ちゃんと聖さんが来るまで続けられたのだった。
そして、先に戻ったにもかかわらず、準備もしないで喋っていた俺たちは、三人とも聖さんのお説教を受けるのだった……。

 
   




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