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Chapter. 8

The Cherry Orchard
さくらの園 7





 
   

「……疲れたなぁ」
耳をそばだてても聞こえないほどの大きさでポツリと呟く。
疲れのせいで、
意識と外界が薄い膜で分け隔てられてるみたいに、ぼんやりとしていてピントがあっていない感じがする。

大道具類の準備が終わってすぐに、楓ちゃんと合流して応援合戦の練習に参加した。他ならぬ応援団長に任命された俺がいないと練習が進められないのに、生徒会の仕事がありすぎて、練習に参加するのは今日からという突貫スケジュールだった。
練習は一年A組の教室で行われ、応援合戦のメンバーとサポート役に割り振られた女子で今もごった返している。

さっきまでの練習で通し稽古が終わり、なんとか形になってきた。
あとは明日のおさらいを残すのみという段階まで進められたのは、透子先輩たちが事前に詰めておいてくれたからだ。
おかげで、なんとか間に合いそうでホッとしている。

教室の廊下側隅に置かれた椅子に座り込むと、一気に身体が重くなった。
手足にコーキング剤でも詰めたかのように、全身が気怠さで満たされている。あぁ……一度座ったら、もう立ち上がりたくないや。

体育祭を前に、お祭り前夜のように盛り上がっている教室内の喧噪に包まれて、しばし放心する。

練習中は割と平気だったんだけどなぁ。
終わった途端に、疲労が一気に押し寄せてきた。
今日はそんなに動いてないんだけど、朝からずっと張りつめていたせいか、連日の疲れが蓄積したのか、それとも精神的に疲れてるのかな。
ちょっとでも気を抜くと、このまま寝てしまいそうだ。
でも、このあとは、生徒会、室に……行かない……と……

「お疲れ〜波綺くん。まだ仕事残ってるの?」
隣の椅子に座った透子先輩の声で、落ちそうだった意識がかろうじて覚醒する。

「……はい。生徒会室に戻って少し……。それより、透子先輩の方こそ、今まで任せっきりですみませんでした」
そう答えると、透子先輩は『まったく、仕方ないなぁ』と言わんばかりの微妙な笑顔を見せた。

「それは最上級生なんだから当たり前。波綺くんの仕事量に比べれば楽勝だったしね」
肩を掴まれ後ろ向きにさせられる。
なんだろう? と思っていると、透子先輩が肩を揉みはじめた。

「ゴメンね。無理させちゃって。お詫びにマッサージしてあげよう」
「ありがとーございます……」
力加減がちょうどよくて気持ちいい。
血行がほぐれるのを感じながら目を閉じる。

……A組の応援合戦の内容は、一学年五名ずつの女子有志による正統派応援団スタイルに決まった。
黒い学生服と白手袋で太鼓にあわせて声をだすアレだ。
欠席裁判で俺が団長に選ばれた際、学生服を着せることが決まった流れでそうなったらしい。それに加えて空手の突きや蹴りを混ぜた『男らしい』応援を女子で行うミスマッチ効果を狙うのだとか。

居ない間に決められたので選択権がなかったんだけど、ここだけの話、別案であがっていたらしいチアガールに比べたらかなりマシだと思う。
空手を取り入れる透子さんのアイデアも正直助かった。
以前、少しだけ習っていた経験をいかして、みんなにコツを教えることも出来たし、少しは役に立てたことで気が楽になった。

そういや着替えはどうしようか。
ちょっと汗かいちゃったし、早く着替えたくはあるんだけど……今日はジャージのまま帰ろうかな。制服まで汗臭くなったら嫌だし、もう放課後だから制服に着替える必要性もない。
うん。家に帰るまで、しばらく我慢すればいいか。

「さくらちゃん、お疲れさま〜。もう練習は終わったの?」
教室に顔を出した志保ちゃんが、俺と透子先輩を見つけてにっこり笑顔で近づいてくる。確か志保ちゃんは応援旗制作チームだったので、こちらの様子を見に来たんだろう。
一緒に来た香澄会長も軽く手を挙げて挨拶してくれる。

「うん終わったよ。そっちの準備はどう?」
タオルに顔を埋めながら応援旗の進み具合を尋ねる。
クラスの準備は、とことんほったらかしだったから進行具合が全然わからない。

「もうかなり出来上がってるみたい。すごいんだよ。春日部さんを筆頭に美術部が集まって作ってる渾身の力作なんだから」
「そうね。あれは私としても自信作だから、波綺クンにも見て欲しい」
少し興奮気味の志保ちゃんの隣で香澄会長も太鼓判を押す。
そして、携帯で撮影した応援旗を見せてくれた。
小さな画像で細部までは見えないけど、不死鳥……火の鳥をモチーフにしているみたいだ。

「なんで香澄が描いたかのように話してんだよ……なにもしてないクセに」
「それはともかく、落ち着いたら一緒に見に行こっか?」
透子先輩のつぶやきを華麗にスルーして微笑む香澄会長。

「そうですね。ぜひ。……どこで描いてるんですか?」
「今日は美術室で描いてる。エアブラシを使ってるから、見学は離れて見るか、汚れてもいい服装にしてくれと言ってたな」
「なら、このまま行けば大丈夫かな」
今着てるジャージは帰ってすぐ洗濯するし、多少汚れてもいいか。

でも、エアブラシかぁ……。
スプレー缶じゃないのは、色のこだわりとコストのためかな。
予算としてみんなから五百円ずつ集めたけど、応援旗の布地やハチマキなどの購入費だけで足が出るかギリギリの線だった。
今年は五チーム対抗だから紅白だけでは色が足りず、いろいろと新調しないといけなかったからだ。そのしわ寄せが応援旗の予算に響いてるんだけど、春日部先輩はそれが逆に良いんだと燃えていた。さすが美術部の部長の肩書きは伊達じゃない。

「今、仕上げに金色を吹き付けてたから、行くころには仕上がってるかもね。明日は乾燥にあてるから、今日中に仕上げるつもりだし」
「順調ですね」
「ふふ。任せておきなさいって」
「だから、なんでなにもしてない香澄が自慢げなんだ……」
香澄会長と透子先輩の視線がぶつかり、バチバチと火花を散らす。

「さくら〜。チョコ食べない? はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
茜が差し出すひとくちチョコを口に入れる。
今は、ちょっと疲れてて、恥ずかしいとかよりも食い気の方が勝ってる。

疲れたときには甘いもの、と言うけれど、チョコを食べたことでより空腹感が強くなった。
うぅ。余計に疲労が強くなった気がする。
生徒会室になにか残ってたかな……お腹空いたなぁ。

「クラスの練習はどう? うまく進んでる?」
まだまだ元気いっぱいの茜に尋ねると、もうひとつチョコを食べさせてくれる。

「もちろん。それはボクたちに任せといてよ。さくらは生徒会長なんだから、イベント全体を見ないといけないんでしょ? そっちに専念してくれていいからさ」
「そうそう。心配しなくても、さくらちゃんの分は俺たちでバッチリフォローしとくからさ」
廊下から教室の窓越しに顔を出した火野くんが親指を立てて力強く答える。

そう言えば、応援合戦は女子の主導で行うため、男子は教室の外に追いやられていたっけ。

「ありがとう。頼むね」
茜と火野くんに微笑み返す。

「さくらさん。生徒会長だからって、すべてに責任を負うことはないんですよ。荏原さんの言うように、さくらさんしか出来ないことに集中してくださいね」
「はい。ありがとうございます。ちひろさん」
透子さんの隣に座っていたちひろさんは、汗ひとつかいていない涼しい顔だった。
……同じ練習したはずなのに、どうしてこうも違うんだろ……。

まぁ、コノエからも『生徒会の仕事は、やることが多くて手に余るのだから、他の人に任せることにも慣れていってね』と言われてた。

しかし、どうも自分でやった方が楽だと思うことを誰かに任せるのは心苦しい。でも、すべてのことを自分だけでやれなければ、誰かに任せないといけない。その役割を分担していくのが生徒会の仕事のひとつだと言っていた。
『もちろん、任せきりでもダメなんだけどね』とも言ってたけど。

「生徒会の仕事と言えばさ、メールを活用してるみたいだね。あれはいいと思うよ」
サポーターとして練習に参加していたモリリン先輩が顎を撫でる。
なぜか、すごくイキイキしてるなぁ。

「ふぇ? メールってなんのこと?」
キョトンとした志保ちゃんの疑問に、透子先輩が『あぁ、それは』と説明する。

「体育祭実行委員と各部の代表には、生徒会からメールで伝達事項が送信されてくるのさ。集合時間の連絡とかね。他にも、こっちからは、例えば『会長は今どこ?』ってメールで聞けば、居場所を教えてくれたりね」
話を聞いてたみんなが、へぇ〜と頷いている。

「さっき、ウチもリストに入れてくれ〜って頼みに行ったら、生徒会のアドにクラスと名前を書いて送れば登録してくれるって。今はまだ実験段階で、ゆくゆくは先生を含めた全校規模に広げるらしいね」
モリリン先輩は、そう言うと確認するように視線を合わせてきた。
まだ知らない人も多いのか、近くにいたみんなが興味深そうに俺の答えを待っている。

「うん。今、生徒会でメールを活用した全校規模のネットワークを考えてるんだ。最終的には学校側からの連絡や、校内新聞の配布も計画してて、今は実行委員とのやりとりでテストしてる段階かな」
「ふふ〜ん。いいね〜。いいよ〜。面白そ〜だ」
にんまりと笑うモリリン先輩。
コノエと同じく、情報とかネットワークとか好きそうだよな。

体育祭までの短期間の準備の中で一番驚いたのが、生徒会による『校内ネットワーク構築』の実施だった。

まずは実行委員との連絡網を携帯メールを使って行うよう整備した。
生徒会からは集合時間や準備するもの、今日やることなどがメールで伝えられ、実行委員は質問や用事で遅れたり急用で参加できないなどの連絡をメールで送る。
それをコノエが取りまとめ、俺を含む執行部員にメールで連絡するという仕組みになっている。

もちろん携帯を持っていない人も中にはいるけど、その人には、同じクラスのもうひとりの実行委員が伝えることになっている。

透子先輩を含め各部活動の部長たちは、実行委員とは別に連絡網を作っている。
今は実行委員と同じ内容のメールが送られているが、いずれは個別に連絡することを視野に入れているからだ。
この試みがうまくいけば全校生徒に対象を広げて、クラス別、学年別、男女別、所属部活別などにグループ化して管理し、情報を発信していくのだ。

ほかにもポイントがどうとか掲示板がなんとかと言ってたけど、ゆくゆくは部員募集など生徒間のやりとりもサポートしていくのだそうだ。
俺も主催側なので他人事じゃないんだけど、先日まで携帯を持ってなかった身には今ひとつピンと来ないところもある。でも、伝達にメールを使うことで確かに手間と時間が省けていると思う。

「携帯を持ってない人はどうするの?」
志保ちゃんの疑問は、そのまま俺がコノエにしたものと一緒だった。
なんといっても、俺自身が最近まで携帯持ってなかったからね。

「そこがネックなんだよね。携帯を持ってる友達が教えてあげることと、重要な連絡は今までのようにホームルームで伝達することで対応していく予定かな」
「さくらちゃん。それって、俺も入れるの?」
みんなが頷いてる中、火野くんが質問する。

「もちろん。よければ、私が登録しておこうか?」
「ごめん。僕も頼めるかな」
「ボクも!」
「俺もいい?」
「私も……」
氷村くんを筆頭に、次々と周囲のみんなが詰め寄ってきた。
うわ。どうしよ。

透子先輩が俺とみんなの間を遮るように立ち上がった。
「こらこら。ただでさえ多忙なんだから困らせないよーに。ねぇ波綺くん、登録はモリリンが言ってた方法でいいのよね?」
「そ、そうです」
振り返って尋ねる透子先輩を見上げて答える。

「ならアドレス教えるから、個人個人でクラスと名前……フルネームを書いて送信すること。ただ、すぐに登録されるとは限らないよ。生徒会は明後日まで忙しいんだからね」
「えぇ〜? マジで〜?」
「あったり前っしょ。今、生徒会から一般生徒に連絡することなんてないんだから。そのうち全校生徒まで広げるって言ってるんだから、その時でも遅くないってこと」
「でも、先輩。さくらちゃんの居場所とか聞けるんでしょ?」
火野くんの質問にガックリと肩を落とす透子先輩。

「あのね。あなたたちはクラスメートなんだから、そんなもん直接本人にメールすれば済むでしょ」
「……そっか」
納得する火野くんに、周囲が笑いに包まれる。

テキパキと受け答える透子先輩を見て、さっきの平島先輩の姿を思い出す。
クラブの部長ともなれば、みんなこんなに取り仕切れるんだろうか。
ちひろさんもそうだし、身近にいる当面の目標とすべき人たちの姿をしっかりと見習っていこう。
課題は山積みだけど、少しずつ進んでいくしかないしね。

「さくらー、ちょっといい?」
今度はメグがやってきた。
表情から込み入ってそうな用事かなと判断して、みんなの輪から抜けだす。

「なに?」
「これ、二年の短距離、長距離のタイム順にソートかけてきたんだけど」
男女それぞれ一枚ずつにまとめた用紙を受け取る。
うん、これで揃ったから順序を決めてもらおう。

「透子先輩! リストが来ました」
「よぉし、今から最強の布陣を組もうかね。凛、トップに招集かけて! それと、メンバー決めるから情報ちょうだい」
「オッケー」
バタバタと慌ただしくなる。

「燃えてるわね」
透子先輩を中心にして出来上がる人の輪を眺めてメグが呟く。

「配点大きいからね」
「それよ。学年別百メートル走で配点に差を付けるなんてね」
メグは、なかばあきれ気味にため息をつく。

基本、全員参加の百メートル走は、一位から五位までの配点が上から五、三、二、一、〇となっている。

だけど、各学年男女の最初の五レースは配点が倍の十、六、四、二、〇と変化する。
つまり、いかに一位を多く取るかが重要なポイントだ。

もちろん学年と男女は区切られるが、順序は自由にできるため、各クラスの記録保持者五人を選抜することになる。
短距離の陸上部員は、まず間違いなくエントリーされるだろう。

相手のエースを避け、勝てる組み合わせをいかに多く作り出して一位をもぎ取るのか。
その戦略として各組とも牽制と情報収集に余念がない。
気になる順番は公正を期すため、当日の朝に各組が一斉提出することになっている。

「目的のひとつは学年間の交流だからね。先輩後輩がお互いに話し合うきっかけ作りになるかなってね」
「ふぅん。いろいろ考えてるわけね。その目論見は、まぁ成功してるんじゃない?」
運動部を中心として、ワイワイと順序を決めている様子をふたりで眺める。

「そう言えば、明日のこと、聞いた?」
探るような視線のメグの顔を見て、なんとなく『本題はこっちなのかも』と思った。

「明日のことって?」
明日は明日で残った準備と最終確認、応援合戦の仕上げなどが残っている。
やること満載で、どれについて言ってるのか判断がつかない。

「明日、あんたん家に私たちの家族が集まって、みんなで宴会するって話」
「……はい?」
宴会? なんだそれ?

「やっぱ知らなかったか。私もさっきメールで知ったのよ。帰りに準備のための買いものしてこいって。そんなこと言われても、持ち合わせがないって。ねぇ?」
……まぁ、その、買いものはともかくとして。

「私たちって、ウチとメグの家族が?」
「うん、それと真ちゃん家。そうそう壬琴さんも来るんだって。なんでも、あんたにぜひ会いたいからって、わざわざ来てくれるそうよ。真琴ちゃんも一緒に」
真琴ちゃんかぁ。
壬琴さんが男の子を産んだのは知ってるけど、まだ会ったことないんだよな。

……いや、それもともかく。

「明日宴会? マジか……いや、壬琴さんと会えるのは嬉しいけど」
そもそも真吾が引っ越す前は、よく集まって宴会していた。
だからこそ俺たちは幼なじみの間柄なんだけど。

でも、体育祭の準備で忙しいって言うのに、なんでこのタイミングなんだ?

「あんたの昨日のテレビ出演が発端で、この話が持ち上がったそうよ」

ぐはっ……俺のせいか……。

「そのまま泊まって、翌日みんな揃って見に来るそうよ」
「体育祭を?」
「決まってるじゃない」
まぁ、そうなんだろうけど、どこかで認めたくない気持ちが働くからか、実は違うんじゃないかという一縷の望みを期待してしまう。

「仕方ない、腹をくくるか……にしても、去年もそんな感じだったの?」
「まさか。ウチの母親は来たけど、真ちゃんとこは確かお仕事とかで来てなかったかな。もう高校生なんだし、わざわざ見に来たりしないわよ」
「だよな……よりによって、どうして今年は……」
「その理由も、もうわかってると思うけど?」
瞳を覗き込んでくるメグは笑いをかみ殺していた。

「ま、まぁ、そうなんだけど……さ」

認めたくはないが俺のせいなんだろう。
みんなの交流のきっかけとしていいことなんだけど、著しく遠慮したい気持ちは変えられない。

「悪い。こんなことになるとは思ってなかった……」
「やだ。別に責めてないってば。あんたの責任じゃないことくらい理解してるわよ。それに壬琴さんにも会えるし、私はちょっと楽しみにしてるくらいなんだから」
「そっか。そう言ってくれるとありがたい」
目立たず平穏な学生生活っていうは難しいのかなぁ。

「悪いことじゃないんだし、あんたは気にしすぎなのよ。もっと気楽に構えてていいんじゃない?」
「そうしたいんだけど、性分でもあるからなぁ」
「ふふ。自覚があるんなら少しずつ改善すればいいのよ。自分のことなんだから時間かけていいんだし」
「……うん。ありがとう」

そう、だよな。
嫌な噂や陰口を言われていた時に比べれば、このくらい問題ないといってもいいくらいなんだ。
なにごともなく過ごせないのなら、絶対に今の方がいい。

「さて。クラスの集まりがそろそろ解散するみたいだから戻るわ」
「うん。また、なにかあったら頼むよ」
「安心して任せといてよ。その分、きっちりお礼はいただくつもりだから」
にまにまと笑うメグ。

「お手柔らかにお願いします」
「あはは、じゃぁね。あんまり抱え込んで無理するんじゃないわよ」
「……肝に命じとく」
あぁ言ってはくれるけど、極力頼らなくてもいいようにがんばろう。

……お礼になにを要求されるかわかんないからな。

「さくらちゃん。そろそろ戻ろうか」
遠巻きに見ていた楓ちゃんの声に頷き返す。
その言葉を聞きつけたのか、香澄会長がメンバーを決めている輪から抜け出して近づいてきた。

「よし。じゃぁ波綺クン、寄り道して応援旗見にいこう」
そう言うと俺の腕を取って歩き出す。
抵抗する気力もなく、引かれるまま歩きながら振り返ると透子先輩が苦笑いしていた。

「透子先輩、あとお願いしますね」
「はいよ。香澄〜? 波綺くん忙しいんだから手短にな」
「わかってるって。……まったく透子は心配性ね」
後半は声量を落としていたので透子先輩には聞こえていないようだった。

「それなら。私がお目付役として付いてくわね」
「ちーちゃん、私も行く!」
ちひろさんと志保ちゃんもあとに続く。

「ほら、楓クンもちゃんと付いてくるように」
「はい。香澄会長」
香澄会長は、楓ちゃんの腕も取って俺たちを両脇に抱えて引っ張っていく。
その背中越しに楓ちゃんと目が合った。
お互い香澄先輩に逆らえない境遇に苦笑して、引かれるまま美術室に向かったのだった。

 
   




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