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Chapter. 8

The Cherry Orchard
さくらの園 4





 
   

「間に合う……よね?」
「にゃ?」
自室で制服を脱ぎながら独り言のように尋ねると、チェリルは短く鳴いて『なにが?』と問い返した。
……そう言ったような気がしただけだけど……。

体育祭の準備に追われる中、今日だけは仕事をほどほどにしてみんなで切り上げてきた。と言うのも、今日は例のテレビ放送がオンエアされるからだ。

「うん。みんな頑張ってるし、コノエのスケジュール進行通りだから大丈夫だと思うんだけどね」
なら、大丈夫なんじゃないの? とでも言うように、喉をゴロゴロ鳴らしながら俺の足に額を擦りつけてくる。

体育祭まで、もう五日を切っていた。
準備もコノエの前段取りのおかげで忙しくも順調に進んでいる。各方面の協力も滞り無く得られ、やらなければいけないことは沢山あるけど確実に整ってきていた。

問題はチームの旗の製作や応援合戦の練習だ。
旗はクラスのみんなに任せるとして、問題は応援合戦の方。一部の組織票だけが原因ではなく、ほぼチームの総意として応援団長に任命されてしまったからだ。正直、会長の責務だけでいっぱいいっぱいなのだが、決まったからにはやらなければいけない。その練習も考えると、体育祭前にゆっくりできる時間は今日が最後になるだろう。

それでも、コノエがこなした実務の量に比べると俺の仕事量なんてかなり少ない。コノエがいなかったらと思うとゾッとするが、そもそもコノエがいなければ生徒会長になろうとすら思ってないはずだからいいのかな?

それでも、本来は会長が行う業務までコノエに任せている現状はどうにかしたいと思う。かと言って俺が役割を引き継いで、すぐにこなせるほどの自信や知識もない。
まぁ、体育祭が終わってから少しずつでもやっていこう。うん。

「お姉ちゃん! ほら、もうすぐ始まるよ〜」
ドアの向こうから瑞穂が催促する。

「今、行くー」
そう返事して鏡で身支度を確認する。
上はグレーの長袖Tシャツの上に黒のハイネックカットソー。下はストレッチのデニムパンツ。
暖かくなってきたとはいえ夜半はまだ冷え込む。
でも、そろそろ半袖でもよさそうだ。

「よし、問題ないな」
ドアの前で振り返ると、足を上げてお腹を舐めてたチェリルが視線に気付いて飛ぶように走ってきた。

「……でも、ちょっと気が重いよチェリル」
そう呟くと、視線を合わせたチェリルは『仕方ないさ』と、ゆっくり瞬きした。



瑞穂と一緒にリビングに入ると、父さんと母さんが並んでテレビを囲んでいた。ふたりとも今日は仕事を早めに切り上げて帰ってきていたらしい。
そんなに期待するようなもんじゃないんだけどな……。

しかも、やけにテレビとソファーの距離が近い。
先日新調されたばかりのフルハイビジョンプラズマテレビは、前のブラウン管と比べて画面がかなり大きくなったというのに、ソファーとの距離が一メートルもなかった。今朝まではソファーとの間にあったはずのテーブルが部屋の片隅に追いやられている。

そう言えば、テレビが届いた時に、どうして液晶じゃなくプラズマなのか父さんに聞いたら『スポーツ観戦や映画がメインだから』と言ってた。黒とか明るさとか残像とかの面で、プラズマの方が好みなんだとか。なんとなくテレビは液晶って感じだったから聞いてみただけで、自分では特にこだわりもないしどちらでもいいんだけどね。

「それにしても、さすがはさくらちゃん。入学から二ヶ月あまりで、もうテレビの取材を受けちゃうなんて」
満面の笑みを浮かべる母さんの隣では、父さんがテレビと一緒に購入したデジタルレコーダーを操作している。永久保存するとかで、ハイビジョンがそのまま録れるという高画質が売りのレコーダーで録画のテストをやってるみたいだ。

……個人的には永久保存じゃなくて、永久封印して欲しいんだけどなぁ。

「取材ったって、俺じゃなくて生徒会のだよ? しかも数分のコーナーだし、映るのもほんの一瞬だろうし」
「でもでも。お姉ちゃん、丸一日密着取材されたって言ってたじゃない」
「編集するから短くなるだろ。それに生徒会の取材なんだから人数的に四分の一だし、校長先生のインタビューとかもあったからね」
数分しか時間がないんだから、ちょこちょこっと映るくらいだろう。

質問とか結構受けたけど、使われるのはほんの一部分だ。
コノエからも『インタビューは、迷いや気弱な態度を微塵も感じさせちゃダメだよ? 最悪、そこだけ切り取って編集されちゃうんだから。根拠なんてなくていいから、質問には全て自信がありますって顔で答えること。ヤバイって思ったら、とちった振りしてNGにしちゃえばいいよ』なんて、変なアドバイスを受けたし。

「さぁ、さくらちゃんは主役なんだから真ん中に座らないとね」
なかば無理矢理、母さんの隣に座らせられる。
そのさらに隣には瑞穂がやけにくっついて座り、チェリルが狙い澄ましたように膝に飛び乗ってきた。

「あらあら。さくらちゃんモテモテね」
「…………」
その状況を作ってる人に言われても……俺にどうしろと?

「お。そろそろ始まるみたいだぞ」
父さんの声にみんなの視線がテレビに集中する。

足場を確かめるように足踏みしながらも顔がテレビに向いているチェリルが可笑しかった。俺が出るってことが気になるのかなぁと一瞬だけ思ったけど、単に前より大きいテレビが発する光や音を警戒しているんだろう。

間もなく軽快な音楽とともに、『突撃!スクールレビュー!』って文字が踊りながら画面一杯に表示された。
うあ〜なんだか緊張してきた。どうか変に映ってたり変なこと言ってませんように!

でも、やっぱ近いよ……テレビ。

『今日は、県立、光陵高等学校の新生徒会をクローズアップします。光陵高校は、創立三十五年の歴史を誇る男女共学の進学校なんですが、なんと今期の生徒会メンバーは全員が女の子で、しかも一年生なんです……』
取材に来ていたレポーターのお姉さんの解説とともに、校舎が校門からズームインしながら映し出された。すぐに画面が切り替わって、生徒会室で会議している俺たちの様子が映る。

「あ! 本当にお姉ちゃん映ってる!」
「あらあら。みんな可愛いらしいわねぇ」
「これは……取材が来るのもわかる気がするな」
母さんや父さんの感想のように、確かに絵的には華やかだった。
以前に、同じように評したのは御門先輩だったか。特に画面の中でも楓ちゃんが笑うと周囲が明るくなったように感じるほどだ。

しかし、テレビに映る俺は、ますます自分じゃないみたいだ。
メイク後に鏡を見たときの違和感と同じ感覚に包まれる。自分で言うのもなんだけど、画面の中ではちゃんと『女子高生』に見えるからだろうか?

ちょっと前に、この違和感について未央先生に相談したことがある。と言うのも、未央先生は簡単なカウンセリングもやっている関係で、浹とデートした時に強く感じたことについて尋ねてみた。すると未央先生は、俺が思っている自分像が男の子の姿なんだろうとあっさり答えた。だから実際は女の子してる姿を不意に見てしまった時に違和感を覚えてしまうんだろうと。
そんなことは自明の理だそうなんだけど、俺が『女の子な自分』を本心ではまだ認めていないことが、答えに気づかない……いや、もっと違う言い回しだったな……そう、気づいているのに気づかない振りをしている、だったかな。結局は自分が女の子であることに心から納得しないと、その違和感は完全には拭えないだろうってことだった。

そう指摘されれば確かに思い当たる節がある。と言うか、そうとしか考えられない。普段から無意識に鏡に映る自分と目を合わせないようにしてることも一因だと思う。
そんなわけで、未央先生が言うには、こうして他人の視点で見る自分に慣れることが必要なのだそうだ。

「ほら! さくらちゃんの出番よ〜」
母さんが画面を指すと、大画面にアップで自分が映し出されていた。

な、なんかすごい違和感。一体、なんの罰ゲームなんだこれは……。
緊張から高鳴る鼓動を意識的に押さえ込む。

『……不慣れではありますが、皆が楽しい学校生活を送れるように……』
画面の中では、誰だこいつは……と我ながら思うくらい落ち着いて答えている。

……ふぅん。これなら、確かに貫禄があるように見えるかもしれない。見た目だけなら内心の不安までは見て取れないし。大学生と間違われる容姿も安心感を与える材料になっていると思う。

「お姉ちゃん可愛いねぇ」
「……だから可愛いはやめてくれ。微妙な気分になるんだから」
しみじみと呟いた瑞穂はテレビに夢中で聞いてないみたいだった。

「ホント、我が娘ながらモデルさんみたいだわ〜。それに、可愛いと言えば、この楓ちゃんって娘も本当に可愛らしいわね」
「そうだな。みんな可愛いと思うけど、この娘は頭ひとつ飛び抜けてるんじゃないか」
「うちの瑞穂ちゃんと良い勝負かしら?」
「瑞穂、楓さんに会ったことあるよ。前にお姉ちゃんと一緒に下校してたし、ちょっと前に御見舞にも来てたし。実物はね、もっとすご〜く可愛かったよ」
「あら、家に来たことがあるの? 母さんは会ってないわ〜。残念」
「その時は、お母さん仕事からまだ帰ってなかったから」
「ねぇさくらちゃん。今度、家に呼んでもらえないかしら? 母さんもお話ししてみたいな」
「それなら俺も見てみたいな。話は母さんに任せるが。次に呼ぶのは日曜日とかじゃダメか?」
「別にいいけど……明日都合を聞いておくよ。早くても来週以降になるけどいいよね?」
「あぁもちろん。次の日曜は体育祭だからな」
次の日曜は、すでに家族総出で体育祭の応援に来ることが決まっていた。
高校生にもなって親の応援は気恥ずかしいだけだけど、なにせ中学時代がアレだから強く断れなかった。

それにしても、なんていうか楓ちゃんこそ大人気だ。
かく言う俺の意見もみんなと同じなんだけど。

「あら、校長先生はいいから。もっと、さくらちゃんを映してくれないと」
母さんの身勝手な意見を採用したわけではないだろうが、校長先生のコメントは途中で音声だけを残して休み時間の様子に画面が切り替わる。
教室で茜に火野くんたち、そして明美一党と談笑しているシーン。
そういえば、桔梗さんは出演について全力で遠慮したんで映ってない。
出来るのなら俺も全力で遠慮したかった……。

しかし、明美は華があるなぁ。意外だけど。ほんの数秒しか映ってないシーンでも一番存在感が強くて目を惹いた。……単に動きが激しかっただけかもしれないが。

『みんなに自慢してもらえるような生徒会を……』
シーンが次々と変わり、今はコノエが副会長としての目標を語っている。

選挙でも言ってた内容なんだけど、これがレポーターの共感を得たみたいで取材中にすごく誉めていた。なんでも、常々昔から生徒会や放送部などは、集団としてのエンターテイナーであるべきだと主張していたんだとか。だから『学校生活を楽しくするための生徒会』というコノエの考えに賛同していた。その辺もあって『力を入れて特集を組みますから!』っと宣言してくれたんだけど、その言葉通りだと思う。

「ほらほら! またさくらちゃんの番よ」
興奮気味の母さんが腕を引いて画面を指さす。
いやいや、隣で見てるんだから気付いてるってば。

部活のシーンだ。ナレーションで生徒会活動との両立が〜とか話している。
そういや、見栄えがするだろうってことで、チャーハンを炒めてるシーンを撮ったっけ。エプロンと三角巾を付けて中華鍋を振っている様は、我ながらなかなか手慣れているように見えた。

続いて香澄会長に教わりながらオーブンを覗いてるシーン。香澄会長がこだわってリテイクを七回もやったからよく覚えている。そのおかげか、仕上がりを見て微笑み合う姿は自然体でいい感じだ。

「この娘はクラブの先輩なのか?」
「うん。尾道香澄さん。三年生で料理研究会の会長なんだ」
「知的な感じで、なかなかモテそうな娘だな」
「そうだね」
あの言動がなければね。と、心の中で付け足す。

……しかし、やけに長くないか?

全体で一、二分のコーナーだと聞いてたんだけど、すでに録画時間は五分を超えようとしている。とか思っていると、見下ろすアングルのカメラの前に生徒会メンバーが走り寄ってくる。あぁあれか。なら、ようやく終わるんだろう。

『楽しい学校生活のために、頑張るぞー!』
画面中央で女の子にしか見えない自分が拳を突き出す。

『おぉー!!』
体育会系的なノリで、生徒会のメンバーと集まってきた明美や香澄会長たちも拳をカメラに突き出した。勢いがついて、みんなでもみくちゃになりながら笑っているところで、ようやくコーナーが終わった。

「あ〜ぁ、もう終わっちゃったね」
「いや、充分に長かっただろ?」
残念そうに呟く瑞穂にすかざず答える。

結局、レコーダーの録画時間は六分近かった。ローカルとは言っても、一時間枠のニュース番組で六分も時間を取るってどうなんだ?

『いやぁ最近の高校生はみんな可愛いですねぇ』
映像がスタジオに戻って、初老を迎えた男のベテランキャスターがモニターに視線を向けたまま感想を漏らした。
いつもテレビで見ている人から自分たちの感想を聞くと、なんだか変な気分だ。

『実は可愛い娘を基準に選んだんじゃないんですか?』
その司会の隣に座っていたレギュラーの政治評論家……たしか県内の大学教授だったかな?……が冷やかすようにレポーターに問う。

『その意見には同意したいところですが違うんです。会長と副会長はきちんと選挙で選ばれているんですけど、その時の得票数が、なんと全体の六割から八割もあったそうなんです』
『八割!? ほぼ全部といってもいいじゃないですか』
『はい。しかも生徒会のメンバーは、今学期の中間考査でトップスリーを占めたそうなんです』
『本当に? まだ生徒会役員は四人しかいないんですよね? それでトップスリー独占はすごい! 天は二物を与えるものなんですねぇ。それに料理の腕もなかなかだったんですよね』
『実は私、生徒会長が作った炒飯をいただいたんですが、お店で出てくるものと遜色ないくらい美味しかったです』

……まぁ、それは一応得意料理だからね。レパートリーがまだまだ狭い分、失敗する料理も少ないってだけで。

『ははぁ。勉強が出来て料理も上手い。これでスポーツが出来れば完璧じゃないですか』
『生徒会長の波綺さんは、驚いたことにスポーツも出来るそうなんです』
『本当ですか!?』
『体力測定……スポーツテストって言うんですか、それで学年トップ、県内でも十指に入る成績だったそうなんです』
『文武両道。それであのルックスでしょう? いやはや、すごい女子生徒がいたものですね。それに、なんて言うのか彼女は姿勢がいいんですよね。立ち姿がサマになってるのが私としてはいいと思うポイントですね。しかし、あんなに存在感がある高校生は今まで見たことがないですね』

望まない方向に話が膨らんでいってる……。こうも誇張されると現実とのギャップが心配になってくる。話だけ聞くと、本当にすごいみたいに思えることもマズい。試験は選挙のために実力以上にがんばった結果であって、いつも出来ることじゃないんだ。次もトップスリーに入る自信はまったくない。スポーツテストも透子先輩たちとのマッチポンプな結果だったし。
安定してると言えるのは、料理と姿勢くらいか? 

『こうして話を聞くと、得票率が八割超えたというのも頷けませんか? これは私感ですが、生徒会長にも『なるべくしてなった』んだと取材していて感じました』
『しかし、光陵高校は共学ですよね? まるっきり女子校のようにも感じましたが……』
『そこも注目すべきポイントです。共学だと、どうしても男の子が代表になってしまいがちですからね。光陵高校でも女の子が生徒会長だったことは過去に数回しかなかったそうですし、珍しいことは珍しいんです。それになんと言っても、彼女たちはまだ一年生ですからね。今後も注目すべきだと感じました。ですから、もう私の独断で、これからも定期的に取材していこうと思っています!』

(なんだってー!?)
思わず声が出そうになるのを堪えた。
しかし……なんでキャスターや解説の人たちが盛り上がってるんだ? いまいち自分ではピンとこないんだが、女の生徒会長ってそんなに珍しいものなのか? 手放しで絶賛されてるように聞こえるんだけど。

「お姉ちゃん! また取材に来るんだって。よかったね」
そう言いながら寄りかかってくるニコニコな瑞穂。
どうでもいいが、くっつくなって。

「……あ〜」
答えきれずにいるのを見て母さんがクスクスと笑う。

「その様子じゃ、さくらちゃんも知らなかったみたいね」
「良かったじゃないか」
「個人的には勘弁して欲しい……」
これまた嬉しそうな父さんが困っている俺を見て面白そうに笑った。

「これでさくらちゃんもご近所の有名人確定ね〜。お母さん、みんなに自慢しなくっちゃ」
本気で嬉しそうだ。と言うことはマジで自慢するつもりなんだろう。

「いやいやいや。それはやめてよ。目立った末に男だったことがバレたら、もう失踪するしかなくなるから」
失踪するにはまだまだ“時期尚早”だ。
大幅なプランの前倒しは不安要素が多すぎるんだけど……でも、無理ってわけでもないか。最悪のシナリオを想定した場合、ここから出来るだけ離れることが被害を最小限にとどめる最善の手だと思う。

「大丈夫よ〜さくらちゃん。さくらちゃんは正真正銘の女の子なんだから。しかも、テレビに出ても、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘よ?」
不安そうに見えたのだろうか。母さんにギュッと抱きしめられる。

「そうだぞ、さくら。人には、それぞれ背負ったものや生き方というものがある。いくら他人が口を挟もうが、そこを曲げるかどうかは本人次第だ。人の目を気にしないわけにはいかないが、人の目ばかりを気にしても息苦しくなってしまうからな」
抱きしめる母さんの肩越しに語りかけてくる父さん。
このシチュエーションは、自分がまだ小さな子どもだった時に戻ったかのような既視感がある。
黙って頷くと、父さんも頷いて話を続ける。

「このテレビ放送で、良くも悪くもおまえは今までよりも注目を集めてしまうだろう。だからこそ、胸を張って自分を貫け。隠れるようにコソコソしているよりも、今の状況は今後のおまえの人生にとって、きっとプラスになると俺は思っている。なに、ひとりで抱え込まなくていいんだ。おまえには俺が付いてるし、母さんや瑞穂もいる。下宿先の大家さんや学校の保健の先生も味方してくれるだろう。だから大丈夫だ。……正直に言えばな、俺には、おまえが男だとか女だとか、それはどっちでもいいんだ。親にとって子どもというものは、元気でのびのびと成長してくれることが一番なんだからな。……それにな、今のお前を見ていれば、昔を知ってる俺でさえも、男の子だったと言われても信じがたいくらいだ。だから少なくとも、今から心配する必要はないと俺は思う。テレビを見て、こうして毎日おまえを見ていて、おまえには不本意かもしれないが『女の子だなぁ』と思うんだよ。確かに、女の子らしいかと言われれば全面的には肯定できないが、それでも俺は『あと数年も経てば、いい女に育つだろう』と確信している程度には、そう感じているよ」
父さんは安心させるように、もう一度ゆっくりと頷いてくれた。

「ね? だから平気だってば、お姉ちゃん。妹から見ても格好いいし可愛いし。もっと自分に自信持っていいと思うな〜」
母さんと瑞穂にサンドイッチ状態で抱きしめられる。

照れくささが邪魔して、父さんの言葉に答えられず無言で俯く。
チラッと視線を上げると、母さんに『さくらちゃん。顔、真っ赤よ?』と言われて、みんなに笑われる。

「にゃ?」
オマケに、大人しく背中を撫でられていたチェリルまでが、俯く俺の鼻の頭を舌で舐めて慰めてくれる。



ひょっとして……いや、ひょっとしなくても。

俺は、幸せなんだ……と思えた。

女になってから二年半、いろいろ思い悩むことも多かった。

自分の境遇を呪った。

でも、
周囲の人たちに支えられて、なんとかここまでやってこれた。

何度も
挫折しかけたけど、結果的には家族から自慢してもらえるようにもなれた。

まだ、しっかりとした実感は湧かないけど、結果論として、俺は今の俺で良かったんじゃないだろうか?



「……それで、どうだった? テレビに出た感想は?」
父さんの質問に、しばし考えてから口を開く。

「柄じゃないから、こういうのは今回限りにしたいかな。でも、意外に女の子してたんで自分でも驚いた」
「もう、さくらちゃんったら! こんな立派な胸してて、今更女の子してたとか言っちゃって! えい! えい!」
「ちょっやめてよ、母さん!」
母さんがむにむにと胸を掴んでくる。不覚にも至近距離過ぎて防げなかった。

「瑞穂も触りた〜い! えい! えい!」
「だから! ふたりとも、やめてって……言ってるだろっ!?」
背後から手を回した瑞穂に胸や脇をつつかれる。
くすぐったさに身悶えながら屈んだ視線の先には、いち早く避難したチェリルが毛繕いしていた。

(あ〜もう! なんか、さっき感動した自分がバカみたいだ! これがなければ良い家族なんだけど!)
くすぐったさと情けなさで涙が出てきた。

「って!? 父さん! それ、なに撮ってるの!?」
気付くとビデオカメラがこちらに向いて作動している。

「ん? あぁ、そういえば、みんなの様子も記録しておこうかと思ってセットしてたんだった」
まいったな、さっきの台詞も録画されてるのか。と呟く父さん。
いやいや、それよりも今のセクハラシーンまで撮られてるのが問題なんですけど!
じゃれてくるふたりを振りほどいて逃げ出す。

「あん。さくらちゃん、お母さんのも触っていいから、もうちょっとだけ、ね?」
「瑞穂のも触っていいよ〜」
なんてことをいいやがりますか、この人たちは!?

「断固として断る!」
「いいじゃないお姉ちゃん。減るもんじゃないんだし〜」
「減る! 心の中のなにかが確実に減るから!」
「そうねぇ……さくらちゃんを開発する楽しみは、真吾くんのために取っておかないと悪いものねぇ」
「か、母さんっ!!」
なんてことを。て言うか、そんな理由で嫌がってるんじゃない!

「いやん。さくらちゃん怒ると恐いわ〜」
「……いくぞ、チェリル」
リンリンと鈴を鳴らしてチェリルが追いかけてくる。

「……これは戦略的撤退だからな」
「……にゃぁ〜」
階段で追いついたチェリルにそう言うと『あのふたりには、お互い気苦労が絶えないよね』とばかりに弱々しく返事した……気がした。

 
   




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