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Chapter. 8

The Cherry Orchard
さくらの園 11





 
   

「よく噂で聞くんだけど、九重さんって、そんなに有能なの?」
リビングに戻るなり、メグがテレビに視線を向けたまま尋ねてくる。
テレビ
画面に目を移すと、ちょうど俺とコノエが並んで生徒会の抱負を語ってるシーンだった。

その質問を受けて、改めて『あぁ』と納得する。
メグとコノエとは顔見知りではあるんだけど、まだ、俺を介して挨拶や会話をするってだけの間柄なんだと。
結構、気が合いそうな感じはするんだけどな。
まぁ実際に意気投合でもされると怖い考えしか浮かばないけど……

「まぁね。今の生徒会はコノエ……九重さんの手腕で運営できてると言ってもいいかな。唯一の生徒会経験者だし、どっちが会長かわからないくらいだよ」
肩を竦めて答えると、みんなは、ほほぅっと感心してテレビへ視線を戻す。

(……この録画を見なくて済むように部屋に戻って着替えたんだけどなぁ)
視線を天井に向けて静かに深呼吸する。

拗ねるチェリルにご機嫌を取りながら時間をつぶして戻ってみると、事もあろうか二回目の再生が始まっていた。と言うか、帰宅する前にも見てたらしいから、今日だけで少なくとも三回目なはずなんだけど。

ともかく、戻ってすぐに席を外す理由も作れないので、仕方なく席に腰を下ろしたところで、メグの質問を受けた。
ふーん。と頷くメグは、視線をテレビに向けたまま言葉を続ける。

「会った印象からは、どこにでもいそうな普通の娘って感じを受けたんだけどね。でも、先日の中間試験では学年首位なのよねぇ」
その言葉に頷き返すと、今度は真吾が口を開いた。

「でも、恵が言うとおりの印象は僕も思ってた。こう言うと失礼だけど、どちらかと言うと影が薄いよね。あまり目立たないタイプというか」
ふむ。真吾にしては辛辣な意見かな。

「そうだね。確かに私も中学の時にメグや真吾の印象と近いものを感じてたけど。でも、近くでその才能を垣間見てると、まさに『能ある鷹は爪隠す』を地で行ってる風にも思えるかな」

そもそも、コノエは目立つことよりも潜むことに長けている。

それは、コノエの気配がたまに感じられないことからも証明されていると思う。
中学の時も、コノエは響と一緒に居ることが多かったから割と顔を合わせていたはずなのに、実際に会話したのは卒業間近だった。そして、その時まで、それをそれほど変にも思わなかった。

まぁ、響の存在感がそもそも強すぎるということもあったんだけど、今のコノエを見ている限りでは、単に影が薄いとかじゃなく、目立たないように振る舞うことができるんだと思ってる。
どうやればそんなことが出来るのかはわからないけど。

「そういう性格なんだろうな。人の上に立つよりも、人を支えることに向いている娘なんだろう」
そう言って大吾おじさんが頷く。たしかにその意見には同感かな。

「ほかの娘はどうなの? みんな可愛いけど、さくらちゃんの好みで選んだの?」
恵子さんが肘で俺をつついて含み笑いを漏らす。

「まさか。九重さんとふたりで手伝ってくれる人を当たってみて、引き受けてくれたのが聖さんと高木瀬さんだったってだけで」
「でも、ニュースの人も言ってたじゃないさ。可愛い子ばかりを選んだんじゃないかって」
あぁ、なんか最後で言ってたな。

「それはレポーターの人も否定してた通り違います。それに生徒会なんて、そんなにステータス高いわけじゃないでしょう? みんながみんなやりたがるものでもないし、実際やってることも地味なんだし」
そんなに人気職なら生徒会長への立候補がふたりだけのはずがない。
内申書とかに効果があるとも聞くけど、実際はどうなんだか。

「あら。それも今は違うんじゃない? あんなに可愛い娘ばかりなら、男の子なら自分も生徒会にって、殺到してるんじゃないの?」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、ニマニマと笑う恵子さんは豪快に笑って、バンバンと背中を叩いてくる。

「今のところないです」
と答えて、楓ちゃんが貰ってたラブレターのことを思い出す。
あれの別アプローチとしては、恵子さんがいうように生徒会に入りたいということもあるかもね。
今はないけど……生徒会結成後すぐに体育祭の準備だったから、言い出すタイミングがなかっただけとか?

まぁ、それも楓ちゃんがいるからこそなんだろうなぁ。
あそこまで高いレベルで容姿も性格も可愛いのは、もはや反則じゃないかと思える。

うーん。
当事者過ぎて、もはや自分たち生徒会を客観的に見ることなんてできない。
けれど、実際のところ世間での反応はどうなんだろう?

家族は別として、赤坂家や羽鳥家は小さい頃から知ってるから話題になってるんだろう。
でも、なんの関係もない人にとっては……いや、同じ光陵高校の生徒だとしても、数あるローカルニュース番組のコーナーのひとつに過ぎないんだから、きっと見てる人も限られてると思うし、いくらテレビだといっても、かなり割り引いて考えておかないと。
それに、その方が都合がいい。と、いうか、そうであって欲しい。切実に。

「ちょっと真吾? 思うんだけど、早くしないと手遅れになるわよ?」
「え?」
琴美さんの突然の言葉に真吾が素で問い返す。
周囲を含めて、なんの話なのか見えなくて戸惑っていると、大吾おじさんが『あぁ』と頷いた。
どうやら心当たりがあるらしい。

「結納の件か。さくらちゃんのオーケーが出れば、ウチとしては異論はないんだけどな」
赤ら顔の大吾おじさんが、しっかりとした口調で頷く。

例の結納の話って、まだ生きてたんだ。
どばっと精神疲労に襲われる。
ただでさえ疲れが取れてないから尚更に堪えるなぁ。

にしても、大吾おじさんは酔ってるからそんなことを言ってる……んだよね?

「なになに? 結納って何の話?」
結納というキーワードに反応した壬琴さんが身を乗り出して尋ねると、琴美さんが例の不穏な婚約話を簡潔に説明する。

うぅ。なんとなくだけど、メグと瑞穂の突き刺さるような視線が痛い。
さすがに殺気までは感じないけど、大いに非難の成分が込められているみたいだ。
そっと顔色を伺ってみると、案の定冷たい視線が向けられていた。
だから、俺が悪いんじゃないんだってば。

「……ふぅん?」
壬琴さんは、その内容を頭の中で咀嚼しながら俺と真吾の顔を見比べる。

ここは、壬琴さんには反対してもらいたい。
いざ反対されれば、それはそれで傷つく部分もあるんだけど、この望まない展開を防げるのなら、そこには目をつぶろう。

「うん。いいんじゃない?」
あっさりと賛成する壬琴さん。
危うく口に含んだジュースを吹きそうになった。

「こほっ、ちょ、ちょっと壬琴さん? 正気ですか!?」
「ん? あぁ、お酒ならそんなに飲んでないのよ。まだそれほど酔ってないから大丈夫よ。……でも、確かに問題がまったくないわけでもないのよね」
ビールを飲んでいるけど、顔色を見る限りは確かにまだまだ素面っぽい。

いや、酔ってるかどうかじゃなくて、今は『俺の問題』について、だ。
これこそ待っていた展開だけど、それを人から指摘されるのは、やはりドキドキする。
少しだけ緊張しながら壬琴さんの次の言葉を待つと、

「母さんの言うとおり、時間が経てば経つほど、誰かに先を越されちゃいそうよね」
しみじみと本心を吐露するように、ほぅっとため息をもらす壬琴さん。
その答えは願望の斜め上だった。

「そうだなぁ。俺がもう二〜三十若くて未婚だったら、ほっとかないもんなぁ」
と武弘おじさんの言葉に『あんたの器量じゃ釣り合わなくて、袖にされるのが関の山よー』と恵子さんが豪快に笑う。

いや、いやいやいや。
問題としている部分が正反対すぎる。

確かに、浹には告白されたことがあるし、ナンパされたこともある。
でも逆に、陰口叩かれたり、虐めっぽいことをされてもいる。
そんな俺が、なにをどうすれば『誰かに先を越される』ような展開になるのか?
万が一そんなことになったとしても、そううまくは
(個人的に全然うまくないけど)いかないだろう。

そう考えるのにはもちろん理由があって、問題点は絞りに絞ってふたつ。

相手……まぁ男になるんだけど、俺の過去を知ってなお『女性』として見ることができるのか。
そしてなにより、俺が『女性』として『男』を好きになれるのか。
特に後者は、ハードルと言うより絶壁を登って超えるくらい困難なんじゃないかと思う。

おっと、今はその問題は置いといて、壬琴さんだけでもなんとか説得しなければ。

「壬琴さん、もっと冷静に考えてみてください。ほんの数年前まで男だったんですよ?」
普通気にするでしょ。気にすべきなんだって。気にしてるし。気になるし。

「でも、遺伝子的には元から女の子なのよね?」
「それは……そうですが」
医学的には、性転換とかではなく、元に戻った状態ではあるんだけど。

「さくらちゃんが今も男の子のままなら、さすがに反対するかもね」
「……かも。ですか」
男のままだとしても、絶対に反対するわけじゃないんだ……

「愛のカタチはいろいろだからね」
「それは……確かにそうですけど」
女の子同士だろうと、男同士であろうと、まぁ、頭っから一概に否定はしないし、そんなに気にしないと思う。それが自分のことじゃなければ、ね。

「そうよ〜。結局は本人たちの問題だしね」
「それは、わかりますけど……」
って、だめだ。逆に説得されかけてるじゃないか。

「でしょ?」
「でも……あ、ほら、真吾も嫌だって言わないと!」
決定的な劣勢になるまえに応援を呼ぶ。
当事者の真吾なら立場的にも反対するには打って付けだ。

「僕も家で、いつも言ってるんだけどね……」
人の良さそうな苦笑いで答える真吾。
だから! そんなに押しが弱いと、なし崩しに強行されそうなんだって。

そう思いながら、隣で微笑む壬琴さんを見て納得してしまう。
真吾は壬琴さんには逆らわない。というか口答えするところも見たことがない。
と言うことは、壬琴さんが強く勧めたら真吾は頷きかねない。ということだ。

「さくらちゃんは、真吾くんじゃ嫌なの?」
「それは……」
「それは?」
問いかけた壬琴さんが楽しそうに続きを促してくる。

ここで嘘をついても、さっきまでの心の読まれ具合からすぐバレてしまうだろう。
しかも、話題が話題だけに、みんな興味津々な様子で聞き耳を立てている。

あ〜もう! 居たたまれなさすぎる!
言葉を濁して有耶無耶にするしかないかな。

「別に嫌ってわけじゃ……」
「なら他になにか理由があるのね。よかったら聞かせてくれる?」
予想外に正攻法で尋ねられた。と言うか有耶無耶にできない雰囲気だ。

え〜と、気が進まない理由……ね。

「理由のひとつは自分の問題で、確かに女になったんですが、今は女の振りをするだけでも精一杯で、『男と結婚する』なんて考えられないです。容姿や体型ほどメンタル的には急に変わらないと言うか、変われないと言うか……」
「ふんふん」
「あとは、真吾とは小さい頃からの付き合いで、男として顔を合わせていた時間が長いから『実は女の子でした』って立場になって、すぐに結婚相手として見ろと言われても、そう簡単に割り切れないからです」
「なるほど、なるほど。そうね。そう言われれば、それもそうよね」
「で、でしょう?」
説得できそうな空気に安堵する反面、皆が俺たちの会話を黙って聞いてる状況が嫌すぎる。
特に波綺家と赤坂家は、静かなのが逆に怖い。

「うん。でも、さくらちゃん見てると、なかなか信じられなくなるのよね。数年前まで男の子だったって。確かに言動すべてが女の子っぽいかと問われると疑問が残るところだけど、今のさくらちゃんは、それはそれでアリだと思うの。瑞穂ちゃんの可愛さとは、また違う意味で可愛いのよね」
そう言って頭を撫でてくる壬琴さん。
違う意味ってなんなんだろうと思ったけど、やぶ蛇になりそうなので触らないことにする。

「アリとか可愛いとか言われても……。女としては、まだ三歳児なんですよ?」
そっか。自分で言っててなんだけど、この夏でちょうど三年が経つのか。

「そう言われると、まだたった三年なのよね。あの一樹くんがこうも変身するなんて、ちょっと感動かも。美人さんなのに可愛いとか、ちょっと反則じゃない? 肌も白いし、胸も大きいし」
「肌はともかく、胸はどうでもいいじゃないですか……」
どうして、いつもいつも必ず胸の話題が出てくるんだ?
大きい小さいとか、セクハラな話題じゃないのかと思うんだけど。

「あら、重要ことなのよ? さくらちゃんも男の子だったんだからわかるでしょう?」
そんなことを真面目な顔で言う壬琴さん。
琴美さんを彷彿とさせる物言いに親子なんだなぁと思いつつも、今ひとつわかんないんですってば。と心の中で反論する。

言葉にしないのは学習したからだ。
胸の話題を進めていくと、なぜか相手の気分を害する結果になることが多い。

「さくらちゃんはこれでも着痩せしてるのよ。今や壬琴も負けてるくらいすごいんだから」
混ぜっ返す琴美さんの声に意識が現実に戻る。
と言うか、すごくないですから!

一方
お酒が入った親同士は、なにやら別の話題で盛り上がっている。
こちらの話は俺や真吾の隣に座っている恵子さんと琴美さん以外には聞こえてないみたいだ。

そして、壬琴さんは反論するかと思いきや素直に頷いた。

「そうなのよねー。さくらちゃん、なにか秘訣でもあるのかな?」
壬琴さんが変わらぬ笑顔で聞いてくる。

しかし、重要……ねぇ。そんな気にすることかな、と思う。

それが自分の胸なら、殊更どうでもいい。
世間的には大きい方がいいのかもしれない。
でも自分の見ても気恥ずかしいし、複雑な気分……というか自己嫌悪に陥る。個人的な意見としては無い方がいい。運動するとき邪魔だし。

「特には……寝る前に軽く筋トレしてるくらいかな」
「そうなの? それで、筋トレってなにしてるの?」
「腕立て伏せと腹筋、背筋を。寝る前だから、それぞれ軽く三十回くらいかな。あとは倒立……ですね」
「ふぅん。それにしては、あまり筋肉ついてないね」
壬琴さんが俺の二の腕をふにふにと掴む。

「昔からだけど、なかなか筋肉がつかないんですよね」
剣道や空手を習っていたころは、子どもなりに筋トレメニューをこなしていた。
でも、基礎となる筋力がなかなか身につかなくて悩んだこともあったっけ。

「まぁねぇ。あんたに限らず、女性はそもそも筋肉が付きにくいものだから」
会話に加わってきたメグに視線を向けると、いつのまにか真琴くんは壬琴さんの隣でウトウトしていた。
真琴くんの相手をする必要がなくなって、手持ち無沙汰になったんだろう。

そういえばジョンも
静かだなと思って下に視線を向けると、目をつぶって寝てるみたいだ。背中を撫でるとゆっくりと尻尾を振るので、名前を呼べば起きると思うけど。

「ねぇ恵ちゃん? どうして女の子は筋肉がつきにくいの?」
瑞穂の質問にメグは優しげに微笑んだ。
ホント、この二人は仲いいよな。

「ひとことで言えばホルモンの影響ね。筋肉は成長ホルモンと男性ホルモンで作られるんだけど、男性ホルモンが少ない女性は、筋肉に負荷をかけても男の人よりも筋肉が付きにくいってわけ。もちろん付くことは付くんだけど、男の人よりも運動量を増やさないと同じだけの筋力の増加は得られないのよ」
「そうなんだ〜。でも男性ホルモンって男の人のホルモンじゃないの? 女の子には、そもそもなさそうだけど」
「女性にも男性ホルモンは分泌されてるのよ。もちろん、量は少ないんだけど。分泌量の個人差によって筋力の付き具合も違うみたいね。これは男の人も一緒かな。筋肉が付きやすい付きにくいというのは、同じ男の人でも差があるそうよ」
「すごーいメグちゃん。詳しいんだねー」
すらすらと答えるメグに壬琴さんが小さく賞賛の拍手を送る。

「そんなでもないです。筋肉は消費カロリーや新陳代謝に大きく関係してるから、引いてはダイエットと関わりが強いんですよ。適度な筋力の維持は体重のコントロールにも影響しますから」
「あぁ。だから、お姉ちゃんのスタイルがいいって話に繋がるんだ」
ようやく理解できたのか、うんうんと感心する瑞穂。

「科学的に説明すると今メグが言ったようなことなんだろうけど、ダイエットなんてものは『適度な運動と正しい食生活』が一番で、筋トレまでしなくていいと思うけどな」
と、瑞穂に言い聞かせたつもりが、反応したのは両隣の人たちだった。
壬琴さんと恵子さんがそれぞれ俺の肩に力強く手を置く。

「わかってるじゃない、さくらちゃん」
「そうなのよ。筋トレまでは、ねぇ」
異口同音なステレオ放送で頷かれる。
スポーツでもやってないと、日常的に筋トレは難しいよな。
それこそ、テレビ見ながらペットボトルをダンベル代わりに二の腕の引き締めとかの方法もあるけど。

「実は私も、最近太ってきてたんで慌ててやってるところなんです」
共感が生まれたところで、すかさずフォローを入れる。
まぁ実のところフォローと言うか事実なんだけど。

「そうなの? そんな太ってるようには見えないけどねぇ」
恵子さんの視線を脇腹に感じてくすぐったくなる。

「脱線しちゃったね。話を戻しましょうか……って、なんの話だっけ?」
寝ちゃった真琴くんの頭を撫でながら、ほんのり頬を赤くした壬琴さんが微笑む。
ちょっと酔ってきたのかな?

「確かあれよ〜。結納の話で、早くしないとさくらちゃんに悪い虫が付きそうだって」
明らかに壬琴さんよりピッチが早いはずなのに、恵子おばさんはケロリとした顔で口を挟んだ。

「そうそう。そうだった。でね、私の見立てだと、さくらちゃんは女の子にこそモテそうなのよ」
ちょうど食べてる最中だったので、なにげなくサラッと漏らす壬琴さんの言葉にむせそうになる。

いや、さっき廊下でそう言ってたけどさ。

「壬琴さんもそう思います?」
真っ先に同意したのは意外にもメグだった。

「思う思う。うーん、なんて言えばいいんだろ。やはり、男の子として育ったからなのかな。背中に一本、筋がビシッと通ってる感じがするのね。あとは……そうねぇ。瑞穂ちゃんと一緒のところを見てたからわかるんだけど、なんだかんだで面倒見がいいのよね。こう言うと以前は否定されてたけど」
確かに以前なら照れくさくて否定してたと思う。
今は言葉ではなく、決まりが悪くて肩を竦めて見せるに留めた。

「それに、なんといっても見た目ね。さくらちゃんは美人さんなんだけど、顔つきが凛々しいのよね。眼ヂカラもあるし。そういうのを総合して頼れる雰囲気があるのかな」
と結んだ。

そんなこと言われても困惑してしまう。

好感を持たれるのはすごく嬉しいけど、正直言って内心的にそれどころじゃない。
素性を隠すためには目立たない方がいい。そして注目を集めるとボロが出たときに致命的な事態に陥る可能性が増していくだろう。
しかし、現状は笑っちゃうくらい理想と真逆になっている。
これを自分なりにどう納得するのか。そこが課題なのかもしれないな。

「この子ったら、この前、学校で男子の学生服来てたんですけど」
と、壬琴さんに話しかけるメグ。一瞬だけ俺に向けた視線に嫌な予感がわき起こる。
壬琴さんが乗り気で『へぇ〜それでそれで?』と乗り気で相づちを打つので、話を止めようにも止められない。

「廊下でさくらに呼び止められた時に、一緒にいた友達が男の子だと勘違いして色めき立っちゃって」
「へぇ。さくらちゃん、学生服着たりしてるんだ?」
「いや、あれは着替えがなくて仕方なくですね……」
壬琴さんが『得心した』と言わんばかりの顔をしたので慌てて否定する。

「まぁまぁ。それで、すぐに『あれは女の子だって』誤解は解いたんですけど、その娘の話がクラスで広まって、みんな興味を持って密かに見に行く始末で。それからいろいろあって、今じゃ私のクラスの女子のほとんどが、さくらの隠れファンみたいな感じなんですよ」
「へぇ〜やっぱりねぇ」
「って、どういうこと!? それに、やっぱりって」
いや、例の悪い噂な時もメグのクラスは好意的だってのは聞いてたけど。
隠れファンとか初耳だ!

「別にファンクラブとか、そういうんじゃないんだけどねー。その下地があったから生徒会への注目度も高かったし、みんな投票したんじゃないかと思うのよ。それにほら、体育祭の準備とか応援合戦の練習で二年生は特に協力的だったと思わない? まぁ三年生も舞浜さんとか斎藤さんがいるから特別目立ってはないかもしれないけど」
そう言われると思い当たる節はある。
と言うか、懸念材料だった応援合戦の練習が、あんなに短時間で終わったのはみんなが協力的だったからだ。

「ほとんどの娘が例のテレビも見てたみたいよ? 男子も結構な人数が見てるみたいだったし」
身近なところで、そんなことになってたとは気付かなかった……

「なるほどね。でもすごく理解できる気がする。うん。やっぱり、うかうかしていられない感じよね。でも、実際に結納するかどうかはともかく、これだけは知っておいて」
膝に置いてた手を壬琴さんがそっと握る。

「さくらちゃんが家族になるのは、私も賛成だってこと」
にっこりとトドメを刺される。
だめだ。反対勢力にはなってもらえそうにない……

「壬琴なら賛成してくれると思ってたわ〜。美咲さんも智さんも賛成してくれてるのよ」
「そうなの……。でもね、お母さん。無理強いも良くないと思うの。周りが勝手に騒げば騒ぐほど、当人たちの溝は深くなるものなんだから」
一転、壬琴さんが擁護するように琴美さんの意見に異を唱える。

「そういうものなの?」
「もう。お母さんはお嬢様育ちで疎いのかもしれないけど、思春期ってデリケートなんだから」
「まぁ。この娘ったら失礼ね」
ブツブツと『私にも思春期くらいちゃんとあったのよ?』と、ふくれる琴美さんだが、あまり気分を害した様子はない。

「でも真実よ。恋なんて勝手に落ちるものなんだから、外野は黙って見守ってればいいのよ。それに、私はさくらちゃんだけじゃなくて、メグちゃんや瑞穂ちゃんが真くんの相手でも賛成だけどね」
唐突に名前を出されたメグと瑞穂が顔を赤くして動揺する。

「そうそう。私よりもその方がいいと思う」
壬琴さんの尻馬に乗って賛同する。
とにかく矛先が逸れてくれれば。そして無言の圧力が少しでも和らげば。と、打算的に考えながらふたりの様子を伺うと、お互いをチラチラ気にしながらモジモジしていた。
これで、少しは俺の立場がどういうものかわかってくれれば助かるんだけど。

「でもなぁ……」
なぜか大吾おじさんは残念そうだ。
俺のなににこだわって残念がるのか皆目見当がつかない。

「確かにね。あのテレビを見たあとじゃ不安にもなるってものだけどねぇ」
苦笑する恵子さん。だからなにが不安なんだ?
周囲の認識と俺の感覚とのズレ幅が予想以上に大きい。

「でしょう? だから今の内に婚約したら安心かなぁと思ってね」
琴美さんが我が意を得たりと頷く。

そういうことか。
まぁ、そこまで買ってくれてるのは嬉しいんだけど。
だからと言って婚約に納得できるわけがない。

困ってるを見かねたのかどうか、壬琴さんが俺の肩に手を置いて助け船を出してくれる。

「だから母さん、周囲が勝手に話を進めたり、扇ったりするのはやめた方がいいんだって。それに私の見立てだと、まだ大丈夫だと思うな。今のさくらちゃんは、男の子には敷居が高いんじゃないかと思うの」
敷居が高いって……さっき廊下で言ってたことか。

「そぉ?」
琴美さんは娘に反対されたのが心外なようで見るからに気落ちする。

「うん。だってほら、さくらちゃん頼れそうな雰囲気あるじゃない? 女の子なら同性ってこともあって気軽に好意を寄せられるでしょ? 逆に、男の子にとっては、美人さんだし頼り甲斐あるし、おまけに生徒会長でしょう? かなりの高嶺の花なんじゃないかな」
「うーん。自分じゃよくわからないですけど……」
高嶺の花とか。
そういや、そもそも『ちゃんと女に見えるか』『男だったとバレはしないか』には気を遣ってきたけど、『男に恋愛対象としてどう見られるか』なんてことは全然考えてなかった。
と言うか、そんなこと考えたくなかったってこともあるけど。

「少なくとも私はそう思うのね。落ち着いてて大人っぽいから同級生だと特に感じるんじゃないかなぁって。だから、大学生か社会人くらい年上じゃないと、そうそう釣り合いが取れないと思うの。あ、これは男の子からアプローチしてくる時のことで、さくらちゃんからの場合は違うけどね」
壬琴さんが、ちらっと俺を見てウインクする。
ないない。俺からアプローチなんてあり得ない。

「なるほどねぇ。壬琴も一応考えてるのね」
「お母さんには言われたくないなぁ」
「まぁ。この娘ったら失礼ね」
なんてやりとりに笑いながら、話はみんなの近況に移っていった。

真吾の部活でのこと。
メグの友達とのエピソード。
瑞穂の学校でのこと。
そして壬琴さんの子育てについて。

話して聞いて食べて飲んで。

疲れて寝てしまった真琴くんとジョンを除いて、久々の宴会はブランクを感じさせないほど盛り上がって九時過ぎに終了した。

まだまだ呑み足りないらしい父親たちは二次会を羽鳥家で行うと言って移動した。
残ったメンバーで簡単に後かたづけして、母親たちはそのままここで寝るとかで布団を準備し始め、壬琴さんはメグの部屋に泊まると言って真琴ちゃんを連れて羽鳥家へ。

その前に『一緒にお風呂に入らない?』と誘われたけど丁重にお断りした。
まぁ、最初から断られるとわかってたみたいで、あっさりと引き下がった。
でも、『じゃぁまた次の機会にね?』と不穏な返答から諦めてはいないようだ。

残った真吾は俺の部屋を使ってもらうとして、俺自身は瑞穂の部屋で寝ることに決まった。自分の部屋でも良かったんだけど、瑞穂の無言の視線がすごくアレだったから。

とにかく、今日はいろいろな意味で疲れた……。
風呂済ませてさっさと寝て、明日に備えようっと。

 
   




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