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Chapter. 5
Shadow of malice

シャドウ・オブ・マリス 7




 
   

「なるほどな、他には?」
「……スカート。かな」
「ふぅん、やはり落ち着かないか?」
「そりゃぁもう。今までジーンズとかばっかりだったから気になって気になって。しかも、この制服のスカートって短いし」
「短い? まぁ制服としての丈はそんなものなのだが。ふむ、ちょっと立ってみてくれ」
言葉の途中で、なにか考えこむ未央先生。俺を立たせるとスカートを注視する。

「ふむ。折り返してるんで足に自信でもあるんだろうと思ってたんだが……」
自信? なにが?

「ちょっとジッとしてろ」
と言うが早いか、未央先生が制服の上着をめくってスカートを脱がそうとする。

「え!? あ、あの?」
「動くな。すぐ済むから」
一度外したスカートを、なにやらごそごそと動かす。
な、なにがすぐ済むんだ!?
うはぁ……。ちょっ、ちょっと、く、くすぐったい。

「なんだ? 脇腹苦手なのか?」
つ〜っと、むき出しの脇腹を指先で撫で上げられる。

「ひゃんっ?」
なにかが背中に走り、がくりと足に力が入らなくなって、腰が抜けたようにへたり込んでしまう。
なんとか椅子に座るカタチになったけど、椅子がなかったら床に尻餅をついてたと思う。

その様子を見て、未央先生が面食らったような表情になっていた。

「……スマン。そんなに反応するとは思わなかった」
しかし、その表情は、だんだんと笑い顔へと変わっていく。
急に恥ずかしくなって、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。

「なっ、なんですか!?」
自分の反応に戸惑いつつも、なんとか問い返す。

「いやいや。すまなかった。くくっ。なかなか可愛い反応だったからな。波綺。おまえ、年上には色々と親切にされるだろう?」
「親切、ですか? まぁ、下宿先は年上ばかりで、確かに親切にしてもらいましたけど。それが、なにかあるんですか?」
未央先生は、なおも堪えきれずに笑っている。

「ス、スマン。気にするな……くくっ」
「って、気になります!!」
「あはは。うん、だろうなと思ったんだがやっぱりか。うん、そうだろう。そうだろうとも」
苦しそうに笑いながら、ひとりで納得している。

「先生っ!!」
「ん? あ〜。んっ、ん〜ゴホン」
そして、気を取り直すように咳払いをひとつ。
ようやく未央先生が真顔になった。

「まぁ、いい。それより立ってスカート見てみろ」
結局、なにを笑われたのかわからないまま、言われるままに立ち上がってスカートを見下ろす。

(あれ? スカート丈が長くなってる。どうして?)
さっきまでと比べて五〜六センチは長いと思う。

「それが標準の長さだ。波綺は折り返してたから、より短くなってたんだが、本当に気づかなかったのか?」
「嘘……」
いや、おかしいなって思ってはいた。
でも『スカートはこうやるんだよお姉ちゃん』って瑞穂が言うから、そう言うもんなんだろうって……。

「でもまぁ、短い方が似合ってたぞ」
「…………」
「どうした?」
「い、いえ……」
くそっ瑞穂のヤツ。わざとだなっ!

「しかし、そんなにスカートが気になるんなら、そうだな」
未央先生は立ち上がって、ロッカーからごそごそとなにかを取り出した。
あれは……白衣?

「ほら。ちょっと着てみろ」
手渡されるままに袖を通す。

それは、未央先生が今着ているものと同じ白衣で、裾が膝下まであるコートのようなものだった。
薄くて通気性がよく、着ていることがあまり気にならない。
それにポケットがついてるのがいい。
今までの癖で、どうも片手だけはポケットに入れてないと落ち着かない。
制服にも申し訳程度にあるんだけど手を入れておくには小さすぎる。
その点、この白衣なら深さもちょうどいい。

「それならスカート姿でも幾分ましだろう」
ポケットに両手を入れ右に左に捻ってあれこれと試すのを眺めて未央先生が軽く笑う。

「そうですね。これなら階段でも気を使わなくてもいいし。でも、これをずっと着ているわけにもいかないでしょう?」
一瞬キョトンとした表情を見せて、未央先生はすぐになにかを考えこんだ。

「……その辺は私がなんとかしよう。アテがある」
真面目な顔で断言する。

「そ、そうですか。あ、でもっ。これ着てると目立ちませんか?」
白衣で校内を歩けば、嫌でも目立つだろう。
だからこそずっと着ていられないんだけど。

「まぁ、目立つだろうな」
未央先生は『なにを言っている?』という口調で答える。

「……なら、いいです」
脱いだ白衣をたたんで未央先生に渡す。

目立つのだけは避けなくては。
余計なリスクは増やすべきじゃない。
決意を新たに、心の中で拳をぎゅっと握る。
心象心理上で炎が燃え上がる! そう、出来るだけ普通に地味に学校生活を送るんだ。

「ふふ。まぁ、そう言うな。目立ってもいいじゃないか」
「よくないですっ」
「どうして?」
「だって、目立ったら昔の顔見知りに……」
「だから、それは大丈夫だと言っただろう? 普通そうは考えないと。それに、おまえはなにもしなくても目立つんだから、そもそも、その努力が無駄だ」
「そ、そんなこと……」
「なんだ。自覚してなかったのか? それならいい機会だ。自覚しておけ」
心象心理上にスコールが降り注ぎ、燃え上がっていたはずの炎が瞬く間に鎮火する。
心の中で握った拳が、所在なげにわなないた。
でも。でもでも。
どうして目立つんだろう?

「白衣の件については、そうだな。授業中は他の先生方の許可を取らないとまずいだろうが、放課後以降は別に構わんだろう。保健委員なんだし」
「はい?」
保健……委員? 誰が?

「そうそう。これを伝えるために呼んだんだった。波綺。おまえ、保健委員になったからな」
その書類を取ってくれ。そんな感じの口調でサラリと言う。

「なったからなって。ま、まぁ、それは構いませんが、確か委員はもう……」
「あぁ。決まっている。だが、それは問題ない。委員の変更については、私の方から赤井先生の許可も取っている」
「…………」
やけに手回しがいいですね。

「保健委員ならば白衣を着ていても、そうおかしくはないだろう?」
「それは……そうですね」
なるほど。一理はあるか?

「それとな、波綺の病気の件では、校長から私に一任されている。だからなにかと面倒をみてやれるというわけなんだが……」
言葉を途中で切って視線を合わせてくる。

「実際は、他の生徒たちの手前ってものがある」
真剣味を帯びた口調。

「手前? あ、贔屓になる。と言うことですか?」
「そうだ。飲み込みが早くて助かる。校医という立場上……まぁ、他の教職員もそうなんだが、特定の生徒に肩入れしてはだめなんだ。だが、波綺の場合は特殊でな、普通の学校生活が送れるようにサポートしてくれと頼まれた、ということもあるし、実際、身体面に異変が起きた時に、適切な処置を迅速に取るために私が色々と把握している必要もある」
「……はい」
「で、だ。こうやって引き受けたんだが、やはり他の生徒たちの手前もあるし、そう言うことが公になると波綺自身の立場も悪くなるだろう。だからな、保健委員という肩書があれば、たとえ頻繁に保健室に来たとしても対外的におかしくはないし、白衣を着てても、ある程度納得してもらえるだろうと。そう言うわけだ」
なるほど。まったく考え無しでやってるんじゃないってことか。ちゃんと考えてくれているのは嬉しいけど、少し強引すぎるのがなんとも。

「あの。ひとつ、いいですか?」
「なんだ?」
「お気持ちは嬉しいんですが、どうしてそこまでしてくれるんでしょう?」
「言わなかったか? 私は波綺が気に入った。と」
「それは聞きましたが、どうして校長先生が……」
「…………」
数瞬、未央先生が口を閉ざす。
だけど、考えこむような表情ですぐに口を開いた。

「ふむ、それは、わからん」
「え? わからん……って」
「気にするな。と言うのも無理な話かもしれないが、まぁ、いいじゃないか。波綺にサポートが必要なのは違いない。資料に目を通す限り、なかなかに問題があるようだし」
視線を手に持った資料に落とし、未央先生がニヤリと笑う。
うぅ。なんの資料で、どんなことが書いてあるんだろう……。

「前にも言ったが、なにか困ったことがあれば出来るだけ手を貸そう」
「は、はい。ありがとうございます……」
「ふふ。そう気負うな。代わりに、波綺には保健委員として色々役に立って貰うつもりだからな。校長公認で助手が雇えるんだ。私にも十二分なメリットはある」
ふふふと笑う未央先生に対し、やはり一抹の不安が拭えなかった。
助手……ってなんなんだ?

「ところで、波綺の中学の時の資料に目を通してたんだが」
「…………」
「すごいじゃないか。学業優秀で。先日の試験も名前の記入漏れがなければ、学年上位だったらしいじゃないか」
うわっ。もう名前書き忘れのことも知ってるのか。
「は、はぁ」
「運動の方はパッとしないが……これは故意に抑えてるだろう? 女の子相手に本気を出すと目立ってしまうからか?」
「な、なんのことです?」
「隠すな。波綺一樹の記録を見ればわかることだ」
「なっ! ……そ、そんなものまで?」
「極秘ルートで入手した」
ふふふ、と自慢げに微笑む。
極秘って、どんなルートなんだ?。

「中学時代の資料を見ると、体育は欠席が多くて芳しくないだけで、今も本当は以前のように動けるんだろう? 合気柔術部とやらに所属してたくらいだし。でも、大会実績は残っていないみたいだが……」
書類みたいな紙の束をめくりながら言葉を続ける。

「な、なにか、色々調べてますね」
「悪いな。あまり気持ちのいいものではないだろうが、私も三年間、波綺の面倒を見ると言った手前、色々知っておかないと。と考えてな」
「はい。それは、わかります」
「いい子だ」
未央先生が、どこか含みがありそうな笑みを浮かべる。
やっぱり、想像通りにとんでもない人なんじゃないだろうか……。

「ふふふ。そんなに不安そうな顔をするな。安心しろ、と言っても今は無理かもしれないが。当然守秘義務は守るし、波綺が不利になるようなことはしないから」
多分な。という言葉が語尾に小さく聞こえたような気がした。

「は、はい……」
「こう見えても、私はここでカウンセラーの真似事をやっていてな。私にとっても波綺のようなケースを受け持つと言うのは良い勉強にもなる。理由が欲しいなら、まぁ、そう思っていてくれ」
思っていてくれって……。でも、悪い人ではないんだろう。
誰かそうだと言ってくれ。

「しかし、成績優秀、運動神経良好。それに、ルックス、プロポーションも申し分無し……か。最初にも言ったと思うが、正直出来過ぎだな。料理とかは?」
「まぁ人並みには」
まだまだ改善の余地アリ。だけど。

「なら裁縫とか、編み物とか?」
「裁縫は簡単な繕い物ならなんとか。編み物はマフラーなら編めます。セーターは一度失敗しちゃって、再挑戦中ってところです」
「……掃除や洗濯は?」
「それくらいは普通出来るでしょう」
「なら……そうだ。赤子の世話はどうだ?」
「赤子って赤ちゃんですよね。それもやらされました。おしめにミルクに、夜泣きの世話とかも」
目をつぶった未央先生は、ボールペンで机をカツカツと何度か叩く。

「あの……」
あまりに沈黙が続くので、不安に駆られて声をかけようとすると、

「どう育てば、そこまで万能になるんだ?」
半ば呆れたような苦笑いの表情で、未央先生が口を開いた。

「どうって別に」
「それじゃぁ、例えば……そうだな。中学の時の生活サイクルをちょっと教えてくれないか?」
「生活サイクル……ですか?」
「あぁ、ちょっと興味あるな」
「え〜と、朝は……」

「待て。まぁ待て」
一日……いや、正確には一週間の生活サイクルをひととおり話したところで、げっそりした顔の未央先生が手の平で言葉を制する。

「毎日、毎週、ずっとか?今のは?」
「え? えぇ、そうですけど」
「早朝から就寝までか。おまえ、趣味とかないのか? 自分の時間は?」
「趣味?」
そう言えば……俺の趣味って、なんだろ?
最近では料理かな。
でも、それは趣味とはなにか違う気がする。昔はなんだったかな。

「別に。でも、友達と遊びに行ったりしてましたよ。自分の時間は、土曜日の放課後は部活が終われば自由だったし、当番もちょくちょく代わって貰ってたし」
そして、ミルフィーユや薙の世話をしてたんだけど。

「なるほどな。そうか。女性としての訓練と花嫁修業。ルックスとプロポーションはともかく、それだけ毎日勉強しているのなら成績が良いのも頷ける。あとは……体を動かすことも好きなのか?」
「はい。昔、空手と剣道やってましたし」
「ほぅ。意外だな」
今度は面白そうな表情を見せる未央先生。
と言っても、その変化は微妙なもので、こうやって正面向かい合って、お互いの表情を見ながら話してるからわかる程度のものだけど。

「そうですか? でも、昔は『女みたいだ』ってからかわれることが多くて。だから男らしくなろうって考えて空手とか習ってたんです」
「ふむ。なるほどな。しかし、そんなに万能になってどうする気だ?」
どうするって、そんなの決まってる。
早く自立出来るように。
誰にも迷惑をかけずに生きていけるように。

……ひとりでも生きていけるように。

未央先生が冗談交じりに言ったその言葉に、心の中で答える。

「よし」
表向きは愛想笑いで沈黙する俺に、未央先生は苦笑しながらゆっくりと息を吐いた。

「改めて、これからの三年間よろしくな」
晴れやかに笑って手を差し出す未央先生と、ちょっと強めに握手をした。

「それと、毎月第一水曜日が委員会だ。場所はここ。全員集まると狭いが、なに、すぐ終わる。事前に担任を通して連絡が行くから、特別な用事がなければ参加するように。それ以外は私からの要請がなければ仕事はない。まぁクラスメイトが怪我や気分が悪くなった時の付き添いくらいだな。ただ、波綺は時間があれば顔を出せ。ひととおり教えるから、私が留守の時はおまえに任せる」
「任せるって……そんな」
いいのか、生徒に任せたりして。

「大丈夫だ。手に負えない場合は、ちゃんと他の先生に取り計らってもらえるようにしておく。それで異存はないか?」
「え、えぇ。まぁ……」
「ふふ。簡単な応急処置から、ひととおりの手当ては覚えておいて損はないぞ?」
「……それは、そうですね」
薙が、よく擦り傷作ってくるし。

「よし。少し長くなってしまってすまなかったな。もう帰っていいぞ」
少しだけ微笑むと、再び机に向かう未央先生。

「……あの」
「ん。どうした?まだ、なにか話すことがあるのか?」
「いえ、その……写真を」
まだ返してもらってない。

「ん? あぁ、そうか。すまんがちょっと貸しておいてくれ」
「あ、はい……。それじゃ失礼します。コーヒーごちそうさまでした。美味しかったです」
「あぁ。ご苦労さん。寄り道しないで帰るんだぞ」
「はい」
それにしても……写真、なにかまだ必要なのかな?
そう疑問に思ったけど、すぐに、まぁいいかと思い直して保健室をあとにした。





さくらが出て行ったあと。未央は引き出しから写真を取り出して、もう一度まじまじと眺める。
そして、ほぅと溜め息をついてコーヒーカップに口をつけた。

「ん?」
気づかぬうちに飲み干していたらしいコーヒーカップの底に険しい視線を落として立ち上がる。
そしてコーヒーを注ぎ直す。手慣れた仕草でミルクを注いで慎重にかき混ぜる。

「まだまだ警戒を解いてはくれないか。心を開いているようで、その実、確実に他人を拒絶している……ってところかな」
そうつぶやいて、くすくすと他人の前では見せない可愛らしい笑い声を出す。

「そう言う意味では、私も似たようなものね」
未央は、どこか晴れやかにも見える自嘲の笑みを浮かべると、見つめていた写真を引き出しにしまって再び机に向かうと書類をまとめる作業を再開した。

 
   






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