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Chapter. 7
Standing position
立つべき場所 02





 
   

「……ん?」
まどろみの中でコーヒーの香りを知覚する。
重くまとわりつく水中から、もがくように意識が覚醒していく。
心臓の鼓動は、調子が悪いエンジンみたいに、どくん……どくんと不規則な律動を刻み、チリチリとした胸焼けと鈍い生理痛が相まって不快感が口から溢れそうになる。
それを無理に飲み込むと、ピリッとした刺激が喉を刺した。


「……はれ?」
寝ぼけ眼で周囲を見回す。
ここは……そうだ保健室だっけ。

「おはよう。目が覚めたか」
視線を横に向けると、未央先生がコーヒーを手に微笑んでいた。

「……はひ」
寝てたのか……。少し横になるだけのつもりだったんだけど。

「それで、調子はどうだ?」
「……サイテーです」
吐き気に眉をしかめながら返事する。
口の中が酸の味で満たされているみたいだ。
寝てる間に少し戻しちゃったかな。
上半身を起こして枕を確認する。
うん。汚してはいない。ほぅっと安堵の息を吐く。

時間を確認すると思ったよりも進んではいなかった。
一限目が始まってから三十分くらいか。すると、一時間くらい寝てたのか。

「そうか。しかし今日は休んでもよかったんじゃないか?」
「……最初はそのつもりだったんですが、
コノエに……九重さんに登校した方がいいと……」
「あぁ……」
未央先生は視線を斜め上に逸らすと、思案顔のままコーヒーを口にする。

波綺九重とどういう関係なんだ? 中学が同じってことはさっき聞いたが」
もう一口だけコーヒーを口にして、未央先生はカップを静かにソーサーに戻した。

コノエとの関係か……どうなんだろう?
正直、彼女のことはよく知らないというのが実際のところかな。
あまり話したこともなかったし。

「う〜ん……友達未満、顔見知り以上って感じ……かな」
「ほぉ? それにしては親しそうに見えたが」
「俺もちょっと戸惑ってます。でも悪い娘じゃないし」
「まぁな。昨日、おまえが危ないからと知らせてくれたのも彼女だったしな」
「そうなんですか」
「あぁ。彼女のおかげで、なんとか最悪の事態は避けられたようなもんだ。ちゃんと礼を言っておけよ」
「はい」
そうか。そういえばきちんとお礼言ってないかも。

「なかなかにしっかりした娘だな。見た目はまだ幼いイメージがあるが」
「そうですね。頭良い娘ですから」

以前……と言っても今年早々に、響が
『あの娘は天才だ』と評したのを聞いたことがある。
響もそうじゃないのかと訊くと
『自分と櫻子では才能が違いすぎる』と苦笑いしていた。
そう見えるのは櫻子が本家の自分を立ててくれているからだと。
本人にその気がないみたいだけれど、本来、人の上に立つのは櫻子の方が自分より相応しいのかもしれない。だからこそ、自分は正直あの娘が恐ろしいと感じている、と。

あの響がそんな弱気なことを話してくれたことが驚きだったので、よく覚えている。

「しかし、交渉をすべて任せてしまってよかったのか?」
「はい。その点は問題ないと思います。こういうこと上手ですからね
コノエは」
「まぁな。なにせ委任状まで準備するくらいだ」
「あれにはびっくりしましたね。ちゃっかりしてるというか慣れてるというか」
「流石はおまえの知り合いだな」
ニヤリと笑う未央先生。

「流石って何なんですか…」
「いや。なかなかに規格外な娘だな、と」
「……」
言い返せなかった。

「ん、怒ったか?」
「いえ? 別に……」
「そうか? さっきから機嫌悪そうに見えるんだが」
言葉とは裏腹に、楽しそうな未央先生。

「あー……今回はいろいろあったせいもあると思いますが……こういう表情してても別に怒ってはないですよ」
頬をさすって顔の筋肉を揉み解す。
生理が始まった時はボーっとするんだけど、それが終わると決まって
『怒ってる?』と聞かれることが多かった。

前に、ふと目に入った鏡に映った自分の表情に驚いたことがある。
鏡に映った自分の顔は、確かにすごく不機嫌そうだった。
その表情は、眉間に皺がよってるわけでも口をへの字に曲げてたりもしてないんだけど、ただただ視線が冷たかった。我ながらぞっとしたことを覚えている。
別に怒ってないんだけど、きっと不快感が表情に出てるんだろう。
それから、なるべく意識的に表情を作るようにしてたんだけど。

「そうか、ならいいんだ。
九重が戻ってきたら……」
そう未央先生が言いかけた時、ドアをノックする音がした。

「お待たせしました〜」
場違いに能天気な声とともに入ってきたのはコノエだった。噂をすればというやつかな。

「ご苦労。どうだった?」
未央先生が訊くと、コノエはにっこりと笑顔で俺が寝ているベッドに腰掛けた。

「はい。学校側にはこちらの要求どおりで許可してもらいました」
「ほほぉ?」
未央先生の片眉が上がる。

「双方合意の元に示談ということで今回の件は無かったことに。その代わり五人の指導は教育指導の先生の下、私が行います」
「しかし、そんな条件がよく通ったな」
「そうですね。でも、元より選択権はあちらにはありませんでしたから」
無邪気な笑顔でそんなことを平然と口にする。

「そうか。それで、指導と一口に言ってもどうやるんだ? それにあの子たちが素直に従うとも思えんが」
「そうですね〜。最初はちょっとだけ荒療治が必要でしょうね。今回のことは反省してもらわないといけませんし。それに
有塚先生にもわかるように更正してもらわなくちゃ」
「荒療治? なにするんだ?」
「躾ですよ。し・つ・け」
「だから、なにをするんだ?」
「えへへ。実はまだ決めてません」
ぺロっと舌を出して微笑むコノエ。

……嘘だな。
言葉には出さなかったけど、コノエの横顔を見ながらそう思った。
条件を出したコノエが、それを考えていないわけはない。
きっと未央先生には言えない内容なんだろう。

……言えないような内容って、一体なにをするんだろう?
少しだけ気にはなったけど、あいつらに関して同情する気はまったくない。
むしろ思いっきりやって欲しいくらいだ。

「ごめんね
ミキちゃん
「え? なにが?」
いきなり謝るコノエに訊き返す。

「本当は今日休んでてもよかったのに無理に登校してもらって。万一、私の代役を認めてくれない時には同席してもらいたかったし……」
「うん」
「それに、家に居るよりも気が紛れるかなって」
「そうだね。ありがとう。それよりもこっちこそお礼を言わないと。昨日はありがとう。助かったよ」
「う、ううん。いいのよそんなこと〜。当然のことなんだし。で、で、で。今日は授業出ないでしょ。どうする? 帰るのなら
莉子さん呼ぼっか」
「あ、うん。ありがと。その前に、鞄とか取りにいきたい」
「……そっか。そうだね。なら次の休み時間に取ってきてあげようか?」
「いや、自分で行くよ」
楓ちゃんたちにも挨拶しておかないと。心配してると思うし。

「身体辛いでしょ? 私が行ってあげる。遠慮しないで」
「大丈夫。用事もあるし」
「そお?」
僅かにコノエの表情が曇る。
でもそれは一瞬のことで、すぐに元の笑顔に戻った。

「なら二限目が始まったくらいに迎えに来てもらおうか?」
携帯を取り出すコノエ。

「待って。他に用事もあるし、時間がはっきりしないから。大丈夫。送ってもらわなくてもひとりで帰れるから」
明日のことでちひろさんとも話しておきたい。
鞄取りに行って、次の休み時間にちひろさんを訪ねよう。

「でも、身体痛いでしょう?」
今度ははっきりと眉を曇らせるコノエ。

「大丈夫。走れはしないけど歩くくらいなら問題ないから」
「ふむ。時間がはっきりしないなら私が送ろうか。九重もそれならいいだろう」
今まで黙って聞いていた未央先生が不意に口を挟む。

「……はい。
ミキちゃんもそれでいい?」
「いいんですか?」
「遠慮するな。これも勤めのうちだからな」
「なら……よろしくお願いします」
微笑む未央先生に頭を下げた。

「そうだ
ミキちゃん。これ持ってて」
コノエがポケットから何か取り出し、それを手渡される。
これは……携帯電話?

「連絡取れないとなにかと不自由だから持ってて」
「持っててって……」
「あ、お金とかは大丈夫。気にしないで好きに使っていいのよ」
「いや、好きに使えって言われても…」
そんなわけにはいかないだろ。

「あ。そうそう」
何かを納得したように微笑むコノエ。

「それはね。実は私がデザインした試作品なのよ」
デザイン? 試作品?
改めて手にした携帯電話を見る。
そう言われれば、ハンドグリップ型というか個性的な形の携帯だ。
そういや九重の家も九條グループに属してて、コノエ自身もなにかやってるって聞いたことがあったけど、これがそれなのかな。

「渡そう渡そうと思ってたんだけどバタバタしてたから。それでね。使用料金の代わりに、どんな感じかレポートを書いて欲しいのよ。
ミキちゃんにモニターをお願いしたいの」
「うん。まぁそういうことなら……」
「じゃぁはい。これが充電の時のアダプタ。電話のかけ方はわかるよね。で、これが登録呼び出し」
側面にある平たい面…タッチパネルかな? を親指で撫でると、画面のメニューがくるくると変わる。
人差し指にあるボタンを押すと選んだメニューが次々と決定されいく。
あ、薙と響の名前があった。

「ある程度は登録してるから。あとは自分で追加してね。試作品でちゃんとした説明書がないから、今度私が説明するね。それまでにわかる範囲で使ってみて、わからない部分とかあったら遠慮なく言ってね。それも参考にするから」
「うん。わかった。でも、いいの?」
「いいの。というかお願い。携帯持ってない娘の意見も欲しいの。
ミキちゃんだけでなく、ナギーたちにもあとで渡すつもりだし。ね? いいでしょ?」
「うん。わかった。ありがたく使わせて貰います」





休み時間になり、俺は自分の教室に足を踏み入れる。
楓ちゃんはっと……いたいた。自分の席に座ってる。
その背中を見つめながら、まずは鞄を取るべく窓際の自分の席へと向かう。

異変はその時起こった。

ざわざわとした喧騒が波が引くように静かになっていく。
あれ? っと思いつつ周囲を見回すと、クラスメイトたちの視線、視線、視線……。とにかくその大多数の視線とぶつかる。自分の席の前に着いた時にはクラス全体が沈黙していた。

そして机の上、なにかを消したような跡に気付く。茶褐色だったはずの机の表面がこすられたように白い木肌をのぞかせていた。
これは……なにかを消した跡?
よく見ると、うっすらと……おそらく油性マジックで書かれた丸っこい文字が残っている。
それを消すためにシンナーでも使ったために色落ちしたのだろうけど、かえって被害が拡大してるんじゃないか?

うっすらと残った文字……らしきものを読み取る。
えっと……さんずいに……。

え?
淫……売?

『五千円でやらしてくれるって』

昨日耳にした台詞が蘇る。

ひょっとして……みんな知ってる? 昨日のこと……。
いや、それとも噂の方か。

大事にはしていないと未央先生は言っていた。
コノエも、学校側と
『無かったこと』にするって……。

でも。

なら。

この現状はどうして……。
疑問ばかりが頭を駆け巡る。

血の気がひく感覚を押し殺して椅子を引く。
とにかく荷物を……。
そして椅子の座面に目がとまる。
そこにはナイフで削ったような刻まれた文字。
『死ネ売女』と書かれいた。

半ば予想できていたのか。
それとも衝撃が大きすぎるのか。
悲しいとか怒りとか、そういう感情が凍りついたように沸かない自分に驚く。
あぁ、昔あったな。こういう感じ。
世界と自分が切り離されたような。
いや、周囲と自分を切り離してたあの頃の感覚に似てる。
出来事の……外界の情報全てが感情に直結しない。
テレビを見ているような……自分すらも他人ように眺めている感覚。

現実感が喪失したまま机の中を取り出す。
手に触れたのは予想と異なる違和感。
その感触に構わずそれを取り出す。
違和感の正体。それは原型を留めていないくらいビリビリに引き裂かれた教科書やノートだった。

比較的無事なものには殴り書きのメッセージ。
パラパラとめくってみる。

死ね。

ブス。

売春って儲かる?w

今度奢ってw

学校くんなインバイ。

キモいんだよバカ。

今度殺してやるw

…………。

ふと顔を上げて周囲を見る。
視線が合うたびに、それはドミノのように逸らされていく。
そのままぐるりと教室を見回し、楓ちゃんや茜たちと目が合った。
数秒見つめあった後、それは他のクラスメイトたちと同じように逸らされた。

「……」
その時、心臓が針が刺さされたように痛んだ。

あぁ、まだちゃんと感情残ってるじゃないか。
そう思って少し笑った。そして溜息を吐く。

止まっていた手を動かして机の中から残りを取り出す。
パサリとなにかが椅子に零れ落ちた。
5センチ四方のそれを手に取ると、昔のおもちゃのようにパタパタと下に広がる。
これは……コンドーム?
そこにもマジックで
『よかったら使ってw』と書かれていた。

「ククッ」
喉から無意識に声が漏れた。
あれ? 笑ってるのか? 俺。

とりあえず掛けていた鞄を手に取る。
その鞄も無事ではなかった。
正前からだと気付かなかったけど、後ろは大きく十字に切り裂かれていた。


「あらあら〜。これはすごいことになってるね〜」

背中からの能天気な声に振り向くと、そこにはコノエが立っていた。
驚きの表情でこの有様を眺めている。

「まさかとは思ったんだけど……」
コノエは横に並ぶと、ふぅっと大きく息を吐き出した。

「でも。起きてしまったことを今悔やんでも仕方ないし、とりあえず証拠写真撮っとこうか」
そう言ってポケットからデジタルカメラを取り出し、鞄の切り裂かれた部分を撮影する。
カシャァっとシャッター音を模した電子音が静まり返った教室に響く。

「酷いねこれ。誰がやったのかな?」
コノエは落ち着いた言葉で話しながら、教科書やノート、椅子や机などを次々にカメラに収める。

「昨日は普通だった?」
教室は沈黙に包まれたまま。
そんな中でもコノエは、保健室と同じ雰囲気で話しかけてくる。

「うん」
次々と撮影を続けるコノエを見守りながら返事する。
なにをしてるんだろう? そうは思うものの、なぜか疑問は口にできなかった。

「これで一通り全部かな。他はどう? ロッカーとか」
「まだ見てない」
「そか。なら後で見ておこう。嫌かもしれないけど証拠品は回収しておいて」
「証拠品?」
「そ。使えなくなっててもまだ捨てないでね。提出するから」
「提出って……どこに?」
「やぁね
ミキちゃん。警察に決まってるじゃない」
俺の質問が面白かったのか、コノエはコロコロと笑って答える。

「器物破損に名誉毀損……あぁこれは殺人予告として提出できるかな?」
コノエは
『今度殺してやるw』と書かれた教科書を取り上げる。

「こういう悪質なのはね、例えばネットに書き込んだだけでも捕まるのよ」
「でも誰がやったかなんて……」
「あはは。すぐにわかるよ。状況から犯人は学校関係者……このクラスに出入りしても見咎められない人物……つまりここに居る生徒に絞られるでしょう? それにこれだけ証拠があるのよ?」
コノエは教科書やノートを取り上げる。

「これだけの筆跡と証拠があれば、犯人を捜すのなんて時間の問題。
ミキちゃんは心配しないで。告訴の準備とかはやってもらわなくちゃいけないけど」
ふふふと笑うコノエ。

「楽しそうだね」
コノエを見てると、深刻になるのがバカらしく感じてつられるように笑ってしまう。

「まぁ任せてよ。これでも警察には顔が利くのよ。目標は、この犯人の履歴に傷を付けることと慰謝料を払ってもらうことにしようか」
「傷?」
「そう。あ、例えば進学とか就職とかの時にね
『この人は過去にこういう罪を犯しています』って連絡がいくようになってるの。もちろん何もしてなければ問題ないんだけどね。大抵の学校や企業は常識的にみてもそういう人たちを敬遠するものなのよ。うちの系列会社もそうだしね。また問題を起こすんじゃないかって。見えないところでかなり不利になるのよ」
「へぇ……。あと慰謝料って?」
「う〜ん、精神的苦痛の代金って言えばいいかな? 
ミキちゃん今すごく傷ついてるでしょう?」
「まぁ平気ではないけど……」
「この椅子の文章とか、公の場でのいわれのない中傷による名誉毀損は十分その対象になるかな。女の子にとって、かなりの苦痛を受けるってことは簡単に立証できるから……そうね、三百万くらいは請求しようか」
「そんなに?」
「まぁ三百万丸々は無理だと思うけどね。被害はこれが始めてじゃないでしょう? 先日の制服のこととか、いろいろ立件していけば……そうねぇ百万くらいは見込めると思う」
「はぁ……」
なんか驚きを通り越して感心してしまう。

「覚えておいて
ミキちゃん。イジメもお金になるのよ」
コノエはそう言って軽くウインクする。


「そ、そんなわけねーだろっ! 告訴とかバカじゃねぇの?」
予想外の方向から聞こえる第三者の声。
俺たちはその声の方向に振り返る。
そこには、眉間にしわを寄せて睨んでいるひとりの女生徒。
でも……誰だっけ?

「笑わせないでよ。こんなことで警察が動くわけないだろバーカ」
嘲るように女生徒が笑う。

「あら、どうしてそう思うの? 
草野明美さん
コノエが微笑を崩さず答える。
そっか。草野明美って言うのか。

「あたりまえだろっ。たかが学校のイジメくらいでいちいち動くほど警察も暇じゃないって言ってんの!」
「ふぅん、そうかもね。でも、警察が動くとか動かないとか、あなたには関係ないんじゃない? 
草野明美さん
にっこり笑うコノエ。

「なっ……」
草野さんの顔が赤くなる。
……そう言えば、どうしてコノエはこの娘のこと知ってるんだろう?

「教えてあげるけど
草野明美さん。こういうのは親告罪って言って被害者が訴えない限りは罪にはならないの。と言うことは訴えれば罪に問えるのよ。もし、それが不服というのなら被告は裁判所に訴えてもいいのよ。弁護士を立てて争ってみましょうか」
「…………」
「まぁ、これだけ証拠があるんだから無駄だとは思うけど。こちらはそうなっても全然構わないわ。必ず勝てる裁判だし、その費用も請求できるしね」
コノエはふふふっと可笑しそうに笑った。
草野さんは真っ赤になって震えている。

「と、思うのだけど。どうかしら? 
五木眞由美さん柳多賀子さん和田今日子さん? あなたたちはどう思うかしら?」
次々と名前を呼ぶコノエ。
呼ばれた女生徒たちの表情は見るからに青ざめている。
しかし、うちのクラスの名前まで良く知ってるな。
俺なんか初めて聞く名前だ。

「ふふ。みなさん奥ゆかしいのね。それとも恥ずかしがりやさんなのかしら。ふふ」
楽しそうに笑うコノエ。
しかも完全にお嬢言葉になってるし……。

恐らく今呼ばれた名前が今回の犯人なんだろうと思う。
昨日、調べてるって言ってたし。
でも、まだ完全に裏を取ってないって言ってなかったか。
まぁ、草野さんに至っては自白したようなものか。

「さ。
ミキちゃん保健室に戻りましょ。早速告訴状の準備しないといけないですし、書けたらその証拠品を持って警察に行きましょうか。そうそう。やっぱり莉子さんに車をまわしてもらいましょう。お昼ご飯までには手続きは全部済むでしょうし」
コノエが手を繋いでくる。
俺は促されるまま付いて行くしかなかった。

「では、みなさんお騒がせしました」
教室の入り口でコノエは優雅に頭を下げる。
俺は半分あっけに取られたまま、その後ろに立ち尽くすだけだった。





「……ということがあって」
保健室に戻ってすぐ、コノエが未央先生にあらましを説明する。
そして先生は、俺の鞄と教科書を手にとるとその現状に眉を顰めた。

九重。こういうことは……まず教師に報告して相談するものだ」
「だから今報告したじゃないですか〜」
「いや、だからな……」
はぁっと溜息を吐く未央先生。そして
「本当に告訴するのか?」と俺に訊いてきた。

「いや……」
コノエがそう言っただけで、まだ決めてはいないんだけど。

「やだなぁ。言葉の綾ですよ綾。実際にはやりませんよ。このくらいで訴えても仕方ないでしょ」
とコノエ。さっきと言ってることがまるで違うんだけど。

「さっき教室で言ったのは……可能性のひとつね。やろうと思えばそこまで出来るってこと。まさか実際に告訴はしませんよ〜」
人差し指をぴんっと立てるコノエ。

「これも覚えておいて
ミキちゃん。ああいう交渉のやりかたもあるのよ。まぁ見てて。ほどなく犯人が連れ立ってここにやってくるから」
自信満々のコノエの言葉に、曖昧に頷くことしかできなかった。

 
   






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