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Chapter. 7
Standing position
立つべき場所 16





 
   

「終わった……」
いや、正確にはまだ終わってないのだが、あとは結果を待つのみである。

なんとかなった。今はただそれだけが頭の中を占めていた。
演説内容は予定とかなりズレたものの、それなりに上手くまとめられたと思う。
最後のは、あれくらしか出来なかったけど少しでも信じてもらう材料になればいい。
付け焼き刃とぶっつけ本番出たトコ勝負な要素で占められていた割には我ながら上出来だ。

それにしても、はじめに起こったバッシングたるや目眩で倒れそうだった。
あれだけの悪意を向けられると精神的にもかなりキた。
上辺を取り繕うことが精一杯で動揺しまくりだったし、演説の続きも普通に喋れないかもと思った。

でも、みんなの姿が目に入った。
メグや火野くんたちは周囲に対して怒ってくれていた。
楓ちゃんたちは心配してくれていた。
舞台袖からは真吾や先輩たちが応援してくれていたし、ちひろさんやコノエの視線も背中に感じていた。
まぁ、颯は目を伏せていたし、蔡紋に至ってはどこか面白そうにしてたけど、それも含めて、その全てが支えになった。
みんなのためにもと思うだけで不思議とざわめく心が静かになった。
だから、なんとか落ち着いて演説を続けることもできたんだと思う。

しかし、今は、まるで実感がわかないほど真っ白だ。
さっき自分が、なにを話したのかすら曖昧になっている。

いくら自分評価で上手くいったとしても、あのバッシングとこれまでのことを併せて考えると、やはり当選は難しいだろう。
かなり良い方に考えて、なんとか競り合えるまでには健闘したってところだろうか。

コノエは大丈夫とか言ってたけど、散々陰口や後ろ指を指されてきた経験上、多少演説が上手くいった程度では楽観できない。
自分が出来ることは精一杯がんばった。
その姿を見せることが出来ただけで良しとしておこうかな。

「それでは、投票用紙に会長副会長の氏名をひとりずつ記入してください。記入が終わったクラスは委員長が取りまとめてステージ前の箱に投票してください。投票箱は各学年別に……」

現生徒会によるアナウンスを合図に、みんなが予め配布されていた用紙に候補者の氏名を書き込んでいく。
時折、こちら……候補者に視線を向けながらガヤガヤと賑やかに記入され、各クラス毎に回収されていく様を他人事のように眺める。
集められた用紙はまとめて投票箱に投函され、集まり終えた学年から直ちに開票されるようだった。

「光陵のシステムは迅速でなかなかいいよね」
背後からコノエが話しかけてくる。

い、いつの間に来てたんだ?
そう言えば中学時代にもよく気配を消してたりして気が付きにくいことがあったっけ。

「確かに、結果がすぐにわかるのは良いと思う。……早く楽になれるしね」
落ちるにしても早く答えが分かった方がいい。

「そうね〜。ミキちゃんにとって、みんなの前で結果が出ることは意義として大きいからね」
「当選すれば、の話だけどね」
「ん? ミキちゃんと私が当選するのよ?」
やけにキッパリと断言する。

「いや、まだわかんないだろ」
なんとなく隣の立候補者たちの気配がささくれ立っているような気がする。
ある意味、無神経な発言だもんな。

「そんなのは自明の理だと思うけど。そうね、蓋を開けてみれば意外な結果になってるかもね」
コノエはともかく、問題は俺の方だ。
演説を無事終えられたのが奇跡のようなバッシングだったし。

「さくらさん。どうして髪を切ったりしたんですか!?」
コノエと話し込んでいると、ちひろさんも席を立ってやってくる。
その表情は厳しいもので、珍しく怒っているみたいだった。

「え〜……ちひろさん、応援演説ありがとうございました」
答えに詰まって苦し紛れにお礼を言って頭を下げる。

「あ、ううん。あれくらいしか手伝えなくて申しわけないくらいで……」
うまく話がそれたようで、いつものおっとりした雰囲気に戻るちひろさん。

「そんな。本当に助かりました……ん?」
このまま有耶無耶にできないかなーと思っていると、投票を終えた透子先輩たちもステージ上へ戻ってきた。
志保ちゃんが黙ったまま痛々しげに、そっと髪に触れてくる。

「波綺っちもなぁ。なにも髪切ることはなかったんじゃないの?」
非難めいた口調の透子先輩。
その横で真吾も不満そうに黙っている。
もはや話の中心は間違いなく髪のことだった。
やっぱり誤魔化すのは無理か。

「いや、まぁ、その、ね? 信じてもらうには、こうでもしないと足りないかなって思って」
人差し指同士をツンツンとつつき合わせる。

あとで咎められるだろうなとは思ってた。
でも、ほかに証を立てられるものが思いつかなかったから。
代償の落としどころとして、髪を切るのは自分自身の決意のためでもあった。

「それにしても、事前に相談してくれれば……」
ちひろさんが眉をひそめる。

「あ〜、でもでも、話したら反対されるかなって……」
「あったり前よっ!」
突然現れたメグに頭を軽く叩かれた。

「な、なにするんだよ」
「あんた、その髪どうするつもりよ!」
その髪と言えばコレのことかと思って、左手の房を少し持ち上げてみる。

「バカ! 残ってる方!」
「こっち?」
左右がアンバランスになった髪を撫でつける。

「これは……切り揃えるしかないんじゃない?」
香澄会長がサワサワと触れながら覗き込む。

「う〜ん、結構短くなっちゃってるところもあるし、これで揃えて切ったらおかっぱ頭になっちゃわない?」
透子先輩が後ろに回り込んで、切った髪の様子を観察する。

でも、
おかっぱは避けたい。いっそショートカットにでもしようかな。
その時、コノエがパチンと手を合わせた。

「そうだ! ね、ミキちゃん。髪切るんなら私の知り合いの美容室に行かない? 安くしてあげられると思うし、ついでにエクステも選んでおきたいし」
「エクステ?」
プレステ……じゃないよなぁ、話の流れからすると。

「エクステかぁ。それもいいかもしれないけど、でも、波綺クンはショートも似合うと思うなぁ」
顎を親指で撫でる香澄会長の瞳は輝いていた。
香澄会長の頭の中によからぬ思考が巡っていそうで、思わず苦笑いがもれる。

「う、うん。さくらちゃんには悪いかなって思ったけど、実は私もそう思ってた」
心配そうだった志保ちゃんも一転して香澄会長に同意する。
ふたりの間で、なにかのシンパシーが感じられたみたいだ。
お互いに視線を合わせて微笑んでいる。

「でもアシメもアリなんじゃない?」
「あ〜っそれもいいかも」
一歩引いた位置に立っていたモリリン先輩の言葉にも志保ちゃんは同意する。

「でしょでしょ」
「うんうん」
にこーっと笑いあうふたり。

そして、エクステやアシメが一体なんなのか不明なまま、話は別の方向へ進んでいく。

人の髪型なんてどうでもよくないか? 普通。

真吾を見るといつにも増して真剣な表情をしていた。
俺と視線が合うと、苦しそうな表情で目を逸らした。

ん〜女の子ばかり集まってるから肩身が狭いのか?

「よぉ。なかなかカッコよかったぜ?」
その女の子の集まりをモノともせず、空気が読めてないであろう蔡紋が野村を押しのけて隣に座る。
野村は文句を言いたそうにしていたが、蔡紋がひと睨みすると舌打ちしてステージから降りていった。

う〜ん、今のは明らかに蔡紋が悪いはずなんだけど。

「蔡紋、おまえなぁ……」
「それよりさ、おまえ度胸あんのな。バッシングコールにも動じてなかったし」
もはや野村のことは頭にないのか、周囲が唖然としている中で自分の話を続ける。

「すごく動揺したってば。あれが平気なわけないだろ」
ちゃんと平気そうに見えてたことに安堵する。

「いやいや。見てる分にはクールでかっこよかったぜ?」
「そう? 必死に取り繕ったからね。とりあえずありがとうって言っておこうかな……って、ひた、いたひ」
返事するそばからメグに頬を抓られる。

「あんた、まったく反省してないみたいね?」
「いや、まぁ、その、ね? 相談しなかったのは悪いと思ってるけど、これは自分で決めたことだし」
そう答えると、いつのまにか楓ちゃんたちもステージへ登ってきていた。
茜に肩を抱かれるように支えられた楓ちゃんに微笑んで見せる。

「あの、さくらちゃん……」
「楓ちゃんたちにも心配かけたけど、なんとか無事終わったよ。ありがとね」
「さくらも大変だったねー。一時はどうなることかとボクと桔梗もハラハラしちゃった」
あははと笑う茜の隣で桔梗さんが肩を竦める。

「さくらちゃんが無事でよかった」
しんみりとつぶやく楓ちゃんの視線が左手の切り落とした髪に注がれる。

「どちらにしろ、今日から生まれ変わったつもりで頑張るんだから心配しなくてもいいからさ」
「心配、なんじゃ、なくて。びっくり、するから、事前に、教えなさい、って話を、してんの、よっ!」
「い、痛い痛い」
メグにこぶしでこめかみをグリグリされる。
そんなやりとりに、楓ちゃんをはじめ、心配してくれたみんなに笑顔が戻る。

「あの、さくらちゃん……よかったらでいいんだけど、その髪、貰ってもいいかな?」
みんなの笑い声が収まるのを待って、楓ちゃんがおずおずと尋ねてくる。

髪って、この切ったやつ?

「これ? 別に構わないけど……」
「あ。それなら私も分けてくれないかな?」
なんに使うんだ? と思っていると志保ちゃんからも声があがる。

「じゃぁはい。でも、なんに使うの?」
なにか使い道でもあるのかな?

「うん。ちょっとお守りでもつくろうかなって。あ、小椋先輩、半分こでいいですか?」
楓ちゃんと志保ちゃんとで切った髪を半分ずつにして分けている。
……まぁ、このふたりなら呪いの儀式とかに使ったりはしないだろうし大丈夫か。


こんなに騒いでいるのが気にならないほど体育館は喧騒に包まれていた。
投票が終わって開票している間、生徒は元の位置で待機となっているはずなのだが、先生たちの半分以上が先ほど騒いだ生徒を連行して体育館から出ていったためか、みんな割と好き勝手に行動していた。

「こら、おまえたちもウロウロしてないで席に戻れ!」
それでもステージ上に集まっていると当然目立つわけで注意を受ける。

蔡紋は不満顔だったが、みんなは素直にステージ袖から退場していく。

「さくら。ちょっといい?」
ずっと黙っていた真吾が来てくれと手招きする。
まだ開票中らしく、しばらくは待ち時間だろうと腰を上げて真吾の後ろに付いていく。

ステージの袖はそのまま倉庫へ繋がっている。
この倉庫の階段を上がるとアナウンス用の放送設備などがある部屋に繋がっているはずだ。

みんなにちょっと遅れて倉庫へと続く階段を下りる。
ここまで来れば、体育館から死角になるので随分と視線の圧力が減ったように感じられた。

前を歩いていた真吾が階段を下りきったところで振り向いた。
さっきから変だ変だと思ってはいたけど、なにか心配事でもあるんだろーか。

「真吾、どうかした?」
「いや……別に」
そう答えた真吾は視線を外した。

あらら。返事に詰まったってことは、やっぱりなにかあるんだろう。

「溜め込むのはよくないよ? そうだ。いろいろ世話になったし、今度は俺が力になるからさ。よかったら話してみてよ」
ポンポンと肩を叩くと、真吾はいつになく厳しい目つきで俺を見た。

珍しい。こんな真吾は見覚えがないかも。
あまりの珍しさに見つめていると、真吾は口をパクパクとさせて絞り出すように喋りだした。

「どうして……どうしてだよ! なにもしてないのに悪く言われて! 怪我させられて! 物を投げつけられて! 髪まで切って! それなのに、どうしてっ!!」

(痛っ)
両肩を掴まれて壁に押しつけられる。
目の前には真吾の顔。厳しい表情で睨んでいる。

倉庫内で人目が少ないとは言え、今は楓ちゃんたちも居る。
あまりに突然ななりゆきに、みんなが目を白黒しているのが真吾の肩越しに見えた。

「まぁ、落ち着け真吾」
がっしりと肩を掴まれて動けなかった。
想像以上の力強さで押さえ込まれている。

「だから、なんでそん……なに、え?」
周りが見えていない真吾の頬にそっと両手を添えた。

とにかく落ち着いてもらわなきゃ。
あの真吾が怒るってことは、俺のことを心配してのことだろう。
自惚れとかじゃなくて、過去に真吾に怒られるシチュエーションはみんなそうだった。
それくらい心配をかけてしまっていたのか。

この瞬間だけならラブシーンに見えるんじゃないかな。
そんなことを考えながら目前の真吾に思いっきり頭突きした。

ガツンと骨が響く音が頭の中に木霊する。
俺と真吾は互いに頭を抱えて仲良くしゃがみ込んだ。

痛い。額がすごく痛い。もうちょっと加減すべきだった。
とゆ〜か石頭だなこいつ。

「ちょ、ちょっと。なにしてるのっ!」
急転直下な出来事に、透子先輩が慌てている。

多少ふらつく足に力を込めて、事態が理解できない真吾より先に立ち上がった。

「……平気なわけないだろ」
ズキズキと傷む額に手をあてて真吾を見下ろした。
そして、ふらふらしていた真吾の視線を掴まえてから話を続ける。

「あんまりこういうの言いたくないんだけど、今回の件ではめちゃくちゃ落ち込んだし、何度か泣いたし、自分の状況を呪ったし、噂流したやつらを恨んだし、それで軽く鬱ったりもしたし、学校行くのが嫌だったし、敵対する奴らに手当たり次第仕返ししたいとも思ったさ!」
話してるうちに頭に血が上ってくる。
無理矢理に押さえ込んでいたものが溢れ出し、身体の中に怒りの感情が渦巻く。
後ろ髪が逆立つような感触とともに、極度に緊張した筋肉がピクピクと震える。

そんな俺の言葉を真吾は座ったまま、目をパチクリしながら黙って聞いていた。
まだ状況を飲み込めてないんだろう。
それは、他のみんなも同じらしく唖然としている。

落ち着くために、小さく深呼吸して怒りの感情を吐息にこめて吐き出す。

「でもね。真吾がいたから。みんなが見てくれていたから。自分本位な考えに染まらないよう、みんなに対して恥ずかしくない振る舞いをしなくちゃって思えたんだ。あとは、真吾も知っての通り、お……私は、こう見えて見栄っ張りだからね」
「……うん」
正直に頷く真吾に苦笑いを返す。

「だから、取り乱してるところは見られたくないんで一生懸命虚勢を張ってた。それで平気そうに見えてたんなら狙い通りではあるんだけど、無用な心配させたんなら、ごめん。謝るよ」
手を差し出すと、恐る恐る掴んでくる真吾の手をこちらから握って引きあげる。

「いや、僕の方こそ……」
すっかり毒気を抜かれた真吾が申しわけなさそうに俯いた。

「気にするなって。それに前にも言ったけど、ファンクラブのことで真吾が気にする必要はないんだって。そんなとこまで責任取る必要なんて、これっぽっちもなんだから。だからさ、もしも、もしもの話だけど、逆の立場になっても……恨むなよ?」
冗談っぽく言ってニヤリと笑うと、真吾も呆れたように声を殺して笑い出した。

無事落ち着いたことに、みんなもホッとしたのか張りつめた空気が和らぐ。
まぁねぇ、みんな真吾が怒るとこなんて見たことがなかったんだろうし。

アイコンタクトでちひろさんたちに『お騒がせしました』と会釈すると、みんなも『わかってる』と頷き返してくれた。
その時、スピーカーに電源が入ったのかジジッっとしたノイズと、キーンと甲高いハウリング音が響いた。

「開票結果が出ましたので、生徒の皆さんは元の席に戻ってください……」
「お? ついに当選発表か。結果が楽しみだな」
透子さんがスピーカーから俺へと視線を移してニヤリと笑う。

「じゃぁさくらちゃん……またあとで」
「うん、ありがとう。またあとで」
手を振る楓ちゃんたちに手を振り返す。

「さぁ、さくらさん、櫻子さん、私たちも戻りましょうか」
「はい」
柔らかな笑みのちひろさんに頷き返す。
すぐにコノエが隣に寄り添ってきて、耳元で『楽しみだね』っと囁いた。

……楽しみと言うより、俺的には怖いんだけどなぁ。







「それでは開票結果をお知らせします。まずは副会長選の結果です。投票総数512票、うち無効票が18票ありました」

いよいよだ。まずはコノエの結果から。
キュッと手を握ってコノエに視線を向けると、当の本人は気楽そうに微笑み返してくる。
さすが、余裕あるなぁ。

「今年度の副会長は……304票を獲得しました……」
おいおい、過半数を余裕で越えてるぞ。
五百の三百って六割占めてるじゃないか。

「1年E組、九重櫻子さんです!」
予想通りの名前が読み上げられると、体育館が大きな拍手に包まれる。
コノエは立ち上がって、笑顔でゆっくりと頭を下げた。

「各候補者の得票数は、二年B組、牧島太輔さん、85票。二年D組、国見雪枝さん、62票。一年D組、有家雄高くん、43票。以上のような結果となりました」

トリプルスコアか。
二位に三倍以上の差を付けるとは。
流石コノエとしか言い様がないな。
この結果を聞いたあとでは、あの自信も当然のもののように思える。
拍手をしながら、次は自分の結果だと思うと、なんだか緊張してきた。
ドキドキと自分でも感じるほどに鼓動が高鳴っていく。
うわ。演説前よりも緊張してないか俺?

「続きまして、会長選の結果です。投票総数512票。うち無効票が53票ありました」
さっきと比べると無効票が多い。
あの状況を思えば、それもやむなしって感じかな。

「今年度の会長は……411票を獲得しました……」
よ、よんひゃく!?
いくらふたりしか立候補してないとはいえ、あまりにも偏りすぎてないか?

でも……こんなに差が付くとはなぁ。
もうちょっと競り合ってくれれば、協力してくれたみんなにも申し訳が立ったんだけど。
コノエには悪いけど、一緒に当選はやっぱり難しか……

「一年A組、波綺さくらさんです!!!」

……ったって、え?
今度は体育館がどよめきに満たされる。
その気持ちはよくわかる。一番動揺してるのは俺なんだから。
まぁ待て、願望から空耳って可能性もある。
単に聞き間違いとか、発表が間違ってるとか、実はドッキリだとか。

しばらくザワザワとしていた声が少しずつ拍手へと変わっていく。

え? え? なに?

「ほら、ミキちゃん。立って立って」
いつのまにか現れたコノエに手を引かれて立ち上がる。

「さぁ、さくらさん」
空いていた左手をちひろさんが取って、わけがわからないまま三人並んで頭を下げた。
顔を上げると、さらに拍手が大きくなる。

目の前のステージ下には詰めかけたA組のみんな。

「やったぜっ!」
「おめでとーさくらちゃん!」
「おめでとう波綺さん」
祝福と激励の言葉が拍手の渦とともに耳に届く。
その後ろに控えている見知らぬ生徒たちからも声援と拍手が送られていた。

呆然と見回す俺の右手がキュッと強く握られる。
振り向くとコノエがニッコリと笑っていた。

「よかったね。ミキちゃんの気持ちが届いたんだよ?」
言葉を返せずに見つめていると、今度は左手がギュッと握られる。

「……おめでとう、さくらさん」
ちひろさんが少し涙ぐんでいた。

(あ……だめだ)
そう思った時にはもう遅かった。

堪えきれずに涙がポロポロと溢れ出す。
ちょっと待て、泣くな俺。こんな、みんなが見てる前で恥ずかしいだろ?

そう自制しても、鼻の奥がツンと刺激され感極まった涙が次々とこぼれ落ちていく。

少しは信じてもらえたんだろうか。
みんなの協力を無駄にせずに済んだんだろうか。

落とした視線の先に楓ちゃんの姿を捉えた。
茜と桔梗さんに肩を抱かれて支えてもらいながら彼女も泣いていた。
火野くん、氷村くん、水隈くん、陸奥くん、明美、眞由美、多賀子、今日子、颯、真吾、メグ、沙也香さん、江藤さん、北倉先輩、蔡紋、志保ちゃん、香澄会長、透子先輩、モリリン先輩、未央先生。
みんなと視線を合わせていきながら、精いっぱいの笑顔を作って頭を下げる。

ありがとう。

そんなありふれた感謝の言葉しか浮かばない。
でも、みんなのおかげでここまで来れた。
ひとりでは絶対にたどり着けずに心が折れてしまっていた。
こんな自分に、こんなにも多くのみんなが後押ししてくれたんだ。
この感謝の気持ちを、どれだけ返すことができるだろうか。

その思いを胸に、生徒会長として、ひとりの生徒として、これから精一杯がんばろうと心に誓う。

「え〜生徒の皆さんは席に戻ってくださーい。まだ発表の続きと就任の挨拶が残っています。繰り返します。生徒の……」
発表を中断させられたにも関わらず、スピーカーから流れる声はひどくのんびりとしたものだった。

「さ、ミキちゃん。就任の挨拶が残ってるから泣きやんで。ね?」
微笑むコノエにあぅあぅと助けを求める。

今は涙声しか出ないよ絶対。
こんな声で挨拶なんて言われても。

「もうひと仕事残ってるから、あとちょっとがんばって」
ちひろさんがハンカチで涙を拭ってくれるけど、どうしよう。

「ここは冒頭のお礼の言葉だけでいいですから。あとは私に任せてください。会長」
何故か敬語のコノエに促されて再び壇上に立つ。

「……それでは、新生徒会長より就任のご挨拶をいただきます」

いつのまにか発表が終わっていて、就任の挨拶する時間になってたのか。
さっきまでと打って変わって体育館は静まりかえっていた。
すぅっと息を吸って丹田に力を溜める。
みっともない姿は見せられない。

……もう十分見せてしまった気もするけど、それはそれ、これはこれだ。

「みなさん、本当にありが、と……」
ダメだ。瞬間、自制できた声は、脆くも涙声で潰れてしまう。

「……ござい、ます……」
かろうじて語尾まで言い切ったが、またもや涙が溢れてくる。
こんな涙もろかったのか俺は。

今日、何度目になるのか頭を下げると大きな拍手が沸き起こった。

「みなさん。私からも重ねてお礼申し上げます」
コノエが変わってマイクを手にとって言葉を続ける。
あとは任せて。と伝えてくる視線に頷き返した。

「投票していただいたみなさん、本当にありがとうございます。みなさんの判断が決して間違いでないよう、私と波綺さんで公約に違わぬ生徒会を作っていきます。執行部役員を含め、みなさんから協力していただくことも多いかと思いますが、みんなで楽しい学校生活を作っていきましょう。私たちも精一杯がんばっていきますので、どうぞこの一年、よろしくお願いします」

コノエとふたり頭を下げると、今日一番大きな拍手が体育館に沸き起こった。

この瞬間の、この時の気持ちを決して忘れないようにしよう。

そして……全校生徒の前で泣くのも最後にしよう。
そう心に固く誓った。

「……それでは、以上を持ちまして第三十九回生徒会選挙立会演説会を終了いたします」







こうして第三十九回、生徒会選挙立会演説会は、大きな拍手に包まれながら幕を閉じた。
光陵高校の歴史上、最多得票の記録を塗り替えた生徒会がここに発足する。

光陵高校第三十九代生徒会長、波綺さくら。
同じく第三十九代生徒会副会長、九重櫻子。

会長、副会長の両名が女子生徒だった例は過去に一度あった。
がしかし、両名とも一年生で構成された生徒会は、これも光陵史上初になる。

しかも、その後招集された執行部員も女子生徒で占められ、間違いなく光陵高校の歴史に残るであろう女性政権が誕生するのは、これよりわずか一週間後のことであった。

 
   






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