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Chapter. 7
Standing position
立つべき場所 06





 
   

波綺ー? 購買行くけど、なンか買ってこよっかー?」
昼休み。いつものように茜と昼食の席を作っていると、教室の入り口付近で明美が声をかけてくる。

「サンキュ。んじゃカフェオレお願い」
「んー。なるべく早く戻るから」
「慌てなくていいよ」
と言いながら百円玉を親指ではじく。

「あいよ〜」
ゆるやかな放物線を描くそれを明美はなんなくキャッチして、いつもの面子と一緒に教室を出ていった。

「……それにしてもさ、仲良くなったねぇ」
意外さを隠さずに茜が感心する。

「そうだね。最近ようやくギクシャクしなくなった……と言うか、良くも悪くも、お互い遠慮がなくなったかな」
いろいろと、そう、いろいろあったんだけど、明美……
草野明美さんたちと仲直りした。
仲直りと言うよりは、こっちが一方的に嫌われて嫌がらせを受けていただけなんだけど。
コノエが仲介となって、これまで受けた被害……制服とか教科書などを弁償するのと、ちゃんと謝罪するのを条件に許すことにした。そして、コノエの提案で仲直りの証として、今後は友達として付き合うことをお互いに承諾したんだ。

正直、最初は気まずすぎてどうなることかと思ったけど、偶然の成り行きで明美たちみんなを真吾に紹介した日から、なし崩し的に無遠慮なまでに一方的に打ち解けられた。
……恐るべき真吾効果。いやマジで。

「よかったね。
さくらちゃん
にっこり笑顔の楓ちゃんに微笑み返して席につく。

茜。楓ちゃん。桔梗さん。
この三人とも、お見舞に来てくれた日から、より親しくなれた気がする。

第一に、俺の言葉遣いが素に近くなった。
一人称は
『私』のままだけど、今後変えなくちゃいけないことでもあるので、これはこれでいいだろう。

第二に、お互いの遠慮が少なくなった。
今回の経緯について、三人には事実をありのままに話したことが大きかったと思う。

あの事件で数日間休みを取って久々に登校した日。
みんなには下手に隠すよりも正しく知ってもらおうと考えた。
同じクラスだから被害にあった現場に居合わせたことも多かったからどのみち説明する必要があったし、コノエもクラスの中に信頼できる味方を作っておくほうが良いと進言してくれた。
それなら、まず説明する人選は茜たち以外には考えられなかった。

そう決めた翌日……もう先週のことになるんだけど、茜、楓ちゃん、桔梗さん、ちひろさん、志保ちゃん、それにコノエも含めた六名に放課後集まってもらって、今回の経緯を説明した。


嫌がらせがあったこと。

謝罪してきたクラスメートのこと。

噂のこと。

屋上で襲われたこと。

噂を流したと思われる人たちの目星。

噂を流した理由の推測。

その噂の温床となった過去の出来事……。


今回の件について、心当たりがあるところはすべて説明した。

そのあと、ちょっと思い出すのも恥ずかしいやり取りがあったんだけど、その辺はご想像にお任せしたい。
ぜひに。

で。そのことをきっかけとして、みんなとはより親しくなれたと思う。
最近は、ちょっとしたところで、気づかってくれてるのを感じることが増えてきていて、本当に感謝しても足りないくらいだ。

その一方、幼なじみであるメグや真吾には詳しい部分までは話していない。
いや、話せていないと言う方が的確かな。

実は四日ほど前に、噂についてメグに追求されたことがあったんだけど、その内容について否定したら、あっさりと信用してくれた。

『……まぁねぇ。あんた美人な部類だけど、はっきり言って色気が足りないからねぇ。本当にウリしてたって言うんなら、もっと色気があってもいいはずだし……』
と、あまり喜べない理由で納得されたのは、ちょっとだけ癪だった。
てゆ〜か、メグにそれを言われるのは心外だ。と言ったら結構本気で叩かれた。
すごく痛かった。

って、話が逸れた。

真吾の方はと言うと、どうも噂そのものがまだ耳に入っていないみたいだった。
全校規模の浸透具合からすると奇蹟的とも言えるほど、台風の目にすっぽり入っているらしい。
サッカー部員の態度などから俺の立場について訝しく思うところはあるみたいだったけど、当の本人
(俺)がはぐらかしたこともあって、最も噂から遠い生徒になっている。
階段から落ちたことにして休んでから以降、なるべく真吾と顔を合わせないようにしてたことも、今の状況になった要因のひとつかもしれないけれど。

自分でも不可解なこの行動が、見栄からくるものなのか、単なる意地なのか、まだはっきりと図りかねている。
噂について弁明すると、どうしても転校したあとの話をしないといけなくなりそうで、それを考えると、メグと真吾のふたりには話したくない。
どうしてそう思うのか、自分でもハッキリと説明できないんだけど、やっぱり面子の問題なのかなぁ。

このまま説明しないで済むといいなぁ。

でも、真吾が気付くのも時間の問題だろうし。
楓ちゃんたちと他愛もない話をしながら、漠然とそんなことを考える。

「でも、やっぱ
さくらのケータイ変わってるよねー」
茜の声で意識が現実に戻る。

おぼろげな記憶をたどると、春の新機種が出た携帯のデザインの話になって、そこから俺の携帯に繋がったらしい。

「これ? まぁ確かに変わってるね」
ポケットから取り出した携帯を机の上に置く。

コノエから支給されたそれは、例えるなら拳銃から銃身を取り除いてグリップだけ残した形状に近い。
撃鉄にあたる部分には親指で操作するジョグダイヤル、人差し指と中指の位置にはそれぞれボタンが付いていて、操作のほとんどをこの三つの組み合せで行えるようになっている。
もちろん独特の操作なので覚えないとさっぱり使えないんだけど、画面にガイドが出てくるし、慣れないうちはそれを見ながら操作すればなんとかなるよと言われた。まぁ携帯電話初持ちの身には基礎知識すらないからいっそ都合がいい。

ほかの特徴と言えば、テンキーなどのボタンの下に画面があることかな。ちょうど普通の携帯を逆さに持つような感じになっている。あとは固定用の指通しやタッチパネル、ジョグダイヤルを回して充電できたり、無線LANに対応してたり、GPS機能も付いてたり、付属のリストケース
(手首に巻いて携帯を収納する)には電波の受信を強化するブースターや補助バッテリーが付いてたりする。正直リストバンドは日常生活では嵩張ってしまうけど、ハンズフリーでトランシーバーっぽく使えたりするらしい。

いろいろな機能がある分、大きくて重いんだけど、コノエ曰く
『今の薄型軽量タイプには敵わないけど、これでも一昔前の携帯程度には抑えてるのよ』と言ってた。携帯とは無縁だったんでピンとこないけど。

「ね、
さくらちゃん。ちょっと見せてもらってもいい?」
おずおずと尋ねる楓ちゃんに携帯を手渡す。

「ありがと。あ、思ったよりは軽いんだね」
「そう?」
「うん。見た目もう少し重いかと思ってたんだけど」
「あーボクも! ボクも触ってみたい!」
「もう。
ったら少し落ち着きなさい。携帯は逃げやしないんだから」
桔梗さんの注意を聞き流して、楓ちゃんから携帯を受け取った茜は目を輝かせる。

「うわ。なんかカッコイイー。ね、
さくら。これって弾出ないの? 弾」
狙いを付けて、引き金を引くように人差し指のボタンを押す茜。
あはは。それは俺も最初に思った。そして茜と同じようにコノエに聞いたっけ。

「オプションであるらしいよ。スライド式の銃身を上に取り付けて、拳銃そっくりになるんだって」
「うそ!? マジであるの?」
「開発中らしいんだけど、発信器を仕込んだペイント弾を撃てるようになってて、それをGPS機能で追跡したりできるらしいよ」
「ホントに? いいないいな〜。スパイ映画で出てくるアイテムみたいでカッコイイじゃん。ね、
桔梗もそう思わない?」
「……私はシンプルなほうがいいかな」
「あー
桔梗は機械オンチだかんね〜」
「オンチ言うな! 気にしてるんだからっ」
毎度毎度のやりとりに、楓ちゃんと視線を合わせてお互いに苦笑する。

ふと上げた視線の先
…教室前の廊下に、ここではあまり見ない真吾の姿を見つけた。
以前、彼女がどうとか部活の人たちにからかわれてから、俺の教室に来ることは控え目にするとか言ってたはずなのに。

真吾は俺の姿を見つけると教室内にズカズカと踏み込んできた。

(あれ? なんか怒ってる?)

普段の真吾なら、よその教室に直接入ってくることはせず、廊下で待ってるタイプなんだけど。

「どうしたの
……!?」
言葉途中で強く右腕を掴まれた。その腕を引いて俺を無理矢理立たせると、今度は廊下へ引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待ってってば。一体どうしたんだよ?」
真吾は立ち止まって振り向いたが、なにも言わずにグイグイと廊下に引っ張っていく。

真吾の様子がおかしいことは分かるけど、話を聞く耳くらい持てってば。

「……待てって言ってんだろっ!!」
掴まれた腕を軸に真吾の腕を大きく振り、その反動の中でお互いの腕を絡ませながら捻り上げて逆手を取る。

その手首を左手で固定すると同時に、背後から空いた右腕でヘッドロックをかけた。
ちょうど背後から取り押さえる体勢にはなったけど、身長差からこっちがぶら下がる感じになる。

それがなんだか悔しかったので、膝裏を自分の膝で折らせ、無理矢理中腰にさせてから前のめりに体重をかけて真吾の動きを止めた。

「言いたいことがあるなら、ちゃんと訊くから」
体勢的に真吾の肩にアゴを乗せながら言うと、振り向いた真吾の頬がぺちっと自分の頬に当たった。
極々至近で視線が絡み、ぷいっと顔を逸らした真吾が振りほどこうと暴れ出す。

……かに思えたけど、すぐに大人しくなった。
数秒様子を見て、もう大丈夫だろうと戒めを解く。
膝をついていた真吾の腕を取って立ち上がらせた。

「よし。じゃぁ話を聞こうか」
茜たちがいる昼食の席に連れ戻して、空いてた椅子を引き寄せて座らせる。

視線を巡らせると、ただならぬ様子に固唾を飲んでいたであろうクラスメイトたちも、一応の無関心さを装って昼食の続きに戻っていく。

クラスのみんなは、ある程度ではあったけど俺の事情について説明されていた。
赤坂FCから睨まれていること。そして、噂の内容は事実ではな
こと。
その結果、俺に対しては
『普通に接する』ことが欠席中にクラスの総意として決められたらしい。
女子は楓ちゃんを、男子は火野くんを中心にして、見えないところでバックアップしてくれている。

それは、とても助かることではあったけれど、なにをもってその恩に報いようかというのが悩みの種にもなっているんだけど、噂の件に比べれば気が軽い悩みでもあるし、自分が出来ることで少しずつ返していこうかな。

大人しくなってから、ずっと顔を伏せたままで視線を合わせようとしない真吾を観察する。

こんな真吾を見るのは正直初めてかもしれない。
なにがあったのか、無理矢理連れ出そうとするだけの理由があるはずなんだけど……。
話をしてくれないと、こちらとしても対応に困ってくる。

「で、なんの用なの?」
なるべく優しく話しかける。
真吾は一瞬だけ顔を上げたけど、視線が合ったとたんにまた俯いて黙り込んでしまう。

「じゃぁ当ててみようか。……俺の
『噂』について……だろ?」
勢いよく真吾が顔をあげた。
その真剣な表情から正解であることが読み取れる。

「当たり。みたいだな」
なにか喋りかけたけど、やはり真吾は声を出さなかった。
ならば話を続けようと思い、コホンとひとつ咳払いする。

「まず、これだけは言っとくけど、
真吾の幼なじみとして恥じるようなことはなにもやってないよ。どの噂を聞いたかは知らないけど、これだけは自信を持って言える」
背筋を伸ばして胸を張る。

「嫌な思いをさせてごめん。その様子じゃ
真吾もなにか言われたんだろ?」
「……ごめんって。それなら! 
さくらはなにも悪くないんだろ!? なんで謝るんだよっ」
「よかった。ようやく喋ってくれた」
にっこり微笑むと、真吾はばつが悪そうに黙った。

「謝ったのは、こうして心配かけてるわけだし、怒ってくれてるのは嬉しいし、迷惑もかけてると思うから、かな。正直、
真吾の耳に入るのがここまで遅くなるとは思ってなかった。きっと、真吾のことを思って誰も言わなかったんじゃないかって思うけど、俺からもなるべく接触しないようにしてたせいもあるのかもね」
「……
さくらは……知ってたのか?」
あまりに真剣な視線に苦笑しながら答える。

「まぁね。当事者だから否応なくね。でも、それもある程度広まった後だったみたいだけど。クラスメイトに聞いた話では、ほら、日曜にサッカー部の練習試合があって応援に行った時があっただろ? あの翌日くらいから広まったんじゃないかって話だったかな」
「…………」
クラスメイトという言葉に反応した真吾が教室を見回す。

「あ、心配しなくても大丈夫。これはみんな知ってる話だから」

そう。真吾と話すのに最も条件がいい場所はここだと思う。

コノエにも釘を刺されたことだけど、俺がひとりで男子生徒と会話する状況を作らないほうがいいらしい。
それが噂を助長するとかで、知り合いが相手だとしても、その相手が揶揄されたりする可能性も考えられるからって言ってたっけ。
変に人目を避けてもなにか言われそうだし、不特定多数に目撃される場所も当然避けた方がいいだろう。
ならば、特定多数に目撃される自分の教室の方が都合がいいんじゃないかと思う。

「もっと早く気付いていれば……」
悔恨の念をにじませて、真吾が膝の上の拳をぎゅっと握りこむ。

「早く気付いたとしても、どうしようもなかったと思うよ。人の口に戸はたてられぬって言うだろ? 噂を止めるのは本人がいくら騒いでも逆効果だしね」
「だから僕がもっと早く気付いてたら、なにか出来たかもしれないって……」
「いやいや。結果的にだけど、
真吾はベストな行動を取ってくれてたよ」
「え?」
「こっちの体勢を整える時間が必要だったからね。その間、
真吾には無関係の立場でいて欲しかったんだ」
「……話がよく掴めないんだけど……」
「その辺は、また時間を作って詳しく説明するよ。それと、
真吾に手伝って欲しいことがあるんだけど……どうしようかな。まだ実行してみるか迷ってるから真吾の意見も聞いておきたいし、まずは相談からってことでお願いしたいんだけど」
「それは、もちろ……」
「きゃーっ!! 
真吾センパイ!! どうしたんですか!?」
背後からの黄色い声で真吾の言葉がかき消される。
この声はあれだ。元赤坂ファンクラブ会員の明美一党に違いない。
購買から帰ってきた
んだろう

この教室内は俺にとって最も安全ではあるんだけど、真吾にとっても同じではないことを見落としてた。
でも、まぁいいか。ちょっとうるさいのは困るけど。

「もう少し静かにできない?」
明美に注意しても
『まぁまぁいいじゃない』と肩を叩かれ、さらに席を半分奪われる。
そして、後ろ手にカフェオレを渡された。

「…………」
ぶすっとした顔でストローを刺して、紙パックのカフェオレを口にすると、茜たちがクスクスと笑っていた。

「流石の
さくらもタジタジね」
苦笑する桔梗さんに肩を竦めてみせる。

「一体なんなんだかねー」
隣に座ってる明美の興奮が、直接振動として伝わってくる。
なにをそんなに興奮してるんだか。

さくらちゃんは幼なじみだから、気にならないのかもしれないね」
「そだねー。さっきもなんだか
赤坂センパイのこと、子ども扱いっぽかったし」
ハの字眉で苦笑する楓ちゃんに茜が同意する。

「確かに。この学校で
赤坂先輩の逆手を取って、なおかつ首を絞めても咎められない女子生徒は、さくら以外にはいないわね」
「それは……まぁ、そうだと思うけど。そこは、ほら。幼なじみだし」
理由を並べる俺のことを桔梗さんがニヤニヤ顔で見ている。

なにも言い返さない方がいいと判断して、黙ってカフェオレを飲んでいると、椅子が真吾の方へと強制的に移動される。

「な〜にしてんだ? この娘は?」
明美の背後から両手で脇腹を掴む。

「あひゃ? な、あにすんのよ! ちょ、くすぐったいって!」
笑い崩れるのも構わず脇腹をにぎにぎすると、堪らず身体をふたつに折る明美。
あまり鍛えてないのか、びっくりするほどの柔らかさにちょっとだけ動転する。
でも、それはそれ。これはこれだ。

「そう言や、
真吾はもうお昼食べたの?」
きゃいきゃいと黄色い声の集中砲火を浴びて困ってる真吾に助け船を出す。

「い、いや、まだだけど……」
「ほら、そろそろ解放してやらないと」
「きゃははっ……な、なら……あたしを先に、解放して、よぁははっ」
予想以上に笑うことが面白くてにぎにぎしまくった結果、息も絶え絶えになった明美をしぶしぶ解放してやる。

「はぁはぁ……後で覚えてろよ?」
ひきつった笑顔のまま涙目で捨て台詞を吐く明美に、にっこりと笑顔を返して再び脇腹を掴みまくる。

「や、やめれへへへっうひゃうひひあははああ」
段々言葉にならなくなっていくのが楽しい。

「じゃぁ、ここで食べればいいじゃないですかっ」
グループのリーダー格である明美が戦闘不能だと判断したのか代わりに眞由美が真吾を引き留めようとする。
でも、真吾は作り笑いのままジリジリと後退していた。

「はいはい。解散解散」
「えぇ〜」
「日を改めて一緒に食べればいいだろ。今日は
明美を解放してあげることを条件に我慢しなさい」
「う〜でも〜」
「ひょっひょ! はははひ! はやふたすふぇふぇよほ〜」
うまく聞き取れないが、助けてとか言ってるんだと思う。

「んじゃ、そういうことで。さっきの件はあとで電話するから。早く戻ってお昼食べないと時間なくなるよ?」
ぜいはあぜいはあと、必死で呼吸を整える明美の背中をさすりながら真吾を見送った。

「ちょ、ちょっと! はぁはぁ……。さっきの話は、本当なのよね!?」
笑いすぎて真っ赤になった顔で明美が詰め寄ってくる。

「さっきって?」
「と、とぼけ……げほっげほっ」
「ほら。落ち付けって」
「元はと言えばあんたが……げほっ」
「はいはい。ちゃんと昼食の席は今度作るから。つか、そのくらいのことでなにを大げさな」
「だ、大体ね、
波綺はどうして真吾センパイにそこまで気安いのよっ」
「だから幼なじみだって言ってるだろ。今でこそ身長逆転してるけど、
真吾も昔は背が低かったし、弟分みたいなもんなんだから」
「ずるいなぁ。あたしも幼なじみだったらなぁ」
草野さん」と、ため息をつく明美の言葉に桔梗さんが答える。

さくら赤坂先輩って幼なじみゆえに友達感覚みたいよね。って、さっきも話してたんだけどね。幼なじみだからこそ、恋愛に発展する見込みは少なそうだけど、それでもさくらの立場がよかったの?」
「そうかなぁ? アドバンテージ違くない?」
「じゃぁ
草野さんに幼なじみの男の子がいたとして、その子と付き合う可能性はどれくらいあると思う?」
再度桔梗さんが問いかけると明美は真剣な顔で考え込む。

「……確かに、それはあり得ないほど低いと思うけど、相手が
真吾センパイなら話は別よ! 何年もかけて超アプローチできるじゃない!」
「だそうだけど。その辺
さくらはどうなの?」
今度はこっちに話が振られる。

「別にアプローチしてないし。お互いの家族間に交流があったから、幼なじみって言っても感覚的には姉弟に近いからね」
「ちょっと待って。なに? 
波綺真吾センパイのご家族とも面識があるわけ?」
血相を変えた明美が詰め寄ってくる……と言うか、椅子を占領されそうになる。

「あ、当たり前だろ。幼なじみなんだから」
おしくらまんじゅうのように明美を押し返して、椅子の専有面積を死守する。

「ずるい。ずるいよ
波綺。ね、今度あたしにも紹介して?」
「紹介って、
真吾の両親を? おまえなぁ、そんなのは本人に頼めよ。なんで俺が……じゃない。私が」
「は? 俺?」
慌てて言い直したけど、明美が俺をマジマジと見ている。
茜たちには何度かボロを出していたので
『またか』みたいにスルーしてくれるんだけど。

波綺って、俺女?
明美の口から不可思議な単語でなにかを問いかけられる。
俺女ってなんなんだ?

「知らない? 女の子が自分のことを
『俺』って呼ぶことなんだけど、自分じゃカッコイイつもりでも周囲から見ると痛いヤツにしかみえないという勘違い女のこと。似たものに荏原さんが使ってる『僕女』ってのもあるんだけど……」
「え? ボクって言うの変なの?」
茜が不安そうに自分を指差す。

「変ね」
「変よ」
「ガーン……」
桔梗さん、明美と続く返答に楓ちゃんが苦笑いする横で、茜は両手を机に付いてショックを受けていた。

「だから
波綺もやめたがいい。っつかやめろ。一緒にいるあたしが恥ずかしいし」
と言う明美をマジマジと見つめる。

そっか。俺女なんてカテゴリ
(?)もあるんだ。
なら、多少失言しても
『俺って言うから元男だ』なんて図式は成り立たないんだ。そっかそっか。

「な、なによ。俺女に、なんかポリシーでも持ってるわけ?」
微笑んでいるのを見咎めて、明美が気味悪そうに離れた。
ようやく空いた椅子に座り直して、考えながら答える。

「別にポリシーとか、そんなものはないよ。子どもの頃のクセが抜け切れてないってだけ。普段はちゃんと
『私』って言うようにしてるし、口調も努力して直そうとしてるんだから」
「そ、そう? ならいいんだけど」
「だそうよ
? あんたも直す努力した方がいいんじゃない?」
意地の悪そうな笑みで忠告する桔梗さんに、茜はう〜う〜唸っていた。

 
   






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