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Chapter. 7
Standing position
立つべき場所 17





 
   

「ただいまー」
夕方と呼ぶには遅い時間、夜のとばりが降りきてしまいそうなタイミングになって、ようやく家へと帰り着いた。
今日は本当にいろいろあって、そのいろいろを解決するのに予定よりもかなり時間がかかってしまった。

靴を揃えようと屈みこむと、左の髪だけがパサリと頬を撫でて垂れ下がる。
そう、遅くなった理由は、下校途中にコノエの行きつけの美容院に寄って髪を切り揃えてもらったからだ。
そこで応急措置として、アシメ……『アシンメトリー』つまり左右非対称の髪型のことなんだとか……にしてもらった。バッサリ切っても良かったんだけど、思いのほか似合ってる(らしい)ということと、サービスでやってもらえたので手間のかからない方ってことで決めた。

後ろから見ると、毛先が右から左にかけてゆるやかな斜めのラインを作っている。
髪をそのままおろすと、右の耳は外に出て、左は完全に髪で隠れてしまう。
美容院に向かう途中で、コノエや志保ちゃんがレイヤーがどうとか、ウルフがなんとか言ってたけど、今回は普通にストレートを活かして切りそろえるだけにしてもらった。『いろいろ試したいけど、会長になってすぐ派手な髪型にするのはちょっとね』というのはコノエの意見だったけど、本当に残念そうなのが気にかかる。

「お姉ちゃん、お帰り〜」
「お帰りなさい。さくらちゃん」
「お帰り。遅かったな」
背後から聞こえる家族総出の声。
振り向くと、想像通りみんなに出迎えられている。
一体なにごとなんだ、これは。

「ナァ〜」
チェリルが足元にすり寄ってくる。

「な、なに? どうかしたの?」
「えへへ。お姉ちゃん。生徒会長になったってホント?」
どこから話が漏れたんだろう。
ついさっき学校で決定したものが、自分が家に戻るより早く家族の知るところとなっているとは。
今まで家で生徒会長に立候補したとか話してないし、今日が選挙だとも言ってない。

「ふふ。今日お買い物の帰りに恵さんにばったり会ってね。聞いちゃったのよ。それで、急遽お祝いしようってことで、今日はお寿司にしたのよ〜」
「おめでとう、お姉ちゃん」
「おめでとう、さくら」
「にゃぁ〜」
父さんと瑞穂、そして理解してるか怪しいチェリルの祝福を受ける。

「あ、ありがと……」
「もう。さくらちゃんが生徒会長に立候補してたなんて、ちっとも知らなかったわ。ひと言教えてくれてもいいのに」
「いや、ほら、自分でも、まさか当選するなんて思ってなかったし」
母さんの非難めいた視線にたじろぎながら答える。

「聞いた話では得票数が八割を越えたそうじゃないか。信任投票じゃなかったんだろう?」
何故か誇らしげな父さんに対して曖昧に頷く。

「八割って、ほとんど全部ってことでしょ?すごいねぇ〜お姉ちゃん。ところで、どうして生徒会長になろうって思ったの?」
「まぁ……いろいろあってね」
半分は瑞穂のためだ……とも言えずに言葉を濁す。
正確には俺の問題であって、瑞穂が原因じゃないから責任はない。
むしろ全面的に俺の責任だ。

「あらあら。さくらちゃん、その髪どうしたの?」
母さんが左側頭部を覗き込む。
パッと見には目立たないようにしてもらったけど、やはり切ったことは誤魔化せないか。

「うん。ちょっと変に切っちゃったから、綺麗に整えてもらってて少し遅くなったんだ。おかしいかな?」
「いや、似合ってるんじゃないか?」
「大丈夫よ。そうやって髪をおろしてても花の顔(かんばせ)がよく見えるようになったし、むしろ美人っぷりが上がってると思うわ」
「お姉ちゃん可愛い♪」
「……可愛いはやめてくれ。まぁ変じゃないならいいんだけど」
なんだか家族にチヤホヤされると居心地が悪く感じる。
褒められるのがどうとかじゃなくて、容姿のことを言われてるのが原因でそう思うんだろう。

「さぁ、いつまでも立ち話もなんだし、さくらちゃんも着替えてらっしゃい。それからみんなで御飯をいただきましょう」
母さんの声で玄関に集合していたみんなが解散する。
着替えのために階段を上ると、当たり前のような顔で瑞穂とチェリルが着いてくる。

いや、俺の部屋はチェリルの部屋でもあるんだからチェリルはいいとして問題は瑞穂だ。
自分の部屋に戻るのかなと思ってると、案の定、部屋の中まで着いてきた。

「なにか用事でもあるのか?」
「ううん。別に?」
ベッドに腰掛けて、むずがるチェリルをあやしながら抱きかかえる。
一体なんなんだか。
そう疑問に思いながら着替えていると、瑞穂の視線を感じた。目を合わせるとニコニコとした笑顔がさらに嬉しそうに変化する。

「そんな風に黙って笑っていられると、居心地が悪くなるんだけど……」
「あぁ。気にしないでいいよ」
「気になっちゃうから言ってるの」
部屋着に着替え終わるのを待ってたのか、身支度を整え終わるのと同時に再び瑞穂が口を開く。

「あのね。なんだかお姉ちゃん機嫌がいいなぁ〜って思って」
「機嫌? 確かに悪くはないけど」
そりゃぁ今日で、ここ最近の悩みの大部分が割り切れたし、なにより選挙が終わったからな。
次は生徒会の運営って問題が控えてるけど、とりあえず状況が好転する土台は整った。
これまでの待ちの姿勢じゃなくて、こちらから積極的に動くことで事態を変えることができるようになったのは大きい。当面はやることが多くて暇する時間もなくなるだろうし、その方が暗い考えに沈まずに済むから都合がいい。しかも、それが事態の解決につながっていくとすれば尚更だ。

「先月の事故で休んだあたりから元気ないみたいだったから心配してたんだ。でも、今日のお姉ちゃんは、久しぶりに『いつものお姉ちゃん』だったから嬉しくって」
「……そんなに違うか?」
昨日と今日とで、自分自身では違うって感じはないんだけど。

「微妙な差なんだけどね。なんだか今日のお姉ちゃんは余裕があるみたい。逆に昨日までは余裕がなさそうだと思ってたから。でも、瑞穂の思い過ごしかもしれないけどね。えへへ」
「……心配させたんなら悪かったな。生徒会選挙が終わるまで緊張してたのが伝わってたのかもな」
頭を撫でてやると、瑞穂はくすぐったそうに肩を竦めた。
その隙を突いて、瑞穂の戒めからチェリルがスルリと脱出する。
そして、俺を見上げて『グッジョブ!』とばかりに、ゆっくりと瞬きした。

でも、瑞穂が俺の変化を感じてたとすると、母さんもそう思ってた可能性が高い。
ふたりと比べて、俺自身は自分のことでいっぱいいっぱい過ぎて、そんな風に心配されていたことすら気がついていなかった。
まぁ、それは『もう大丈夫』ってことを示すことで解決しよう。うん。

「さ。御飯にしようか。いくよチェリル」
「ナァ〜」
足下に擦り寄るチェリルを廊下へと促しながら、ニコニコ笑顔の瑞穂に笑い返して部屋を出た。





「恵さんが言ってたけど、一年生で、しかも女の子が生徒会長に選ばれるのは珍しいんでしょう?」
「……ん。そうらしいね」
とても食べ切れそうにない山盛りの唐揚げとお寿司を囲んだ一家団らんのひととき。
話題は当然、生徒会選挙のことだった。

「らしいねって、お姉ちゃん他人事みたいだね」
「まだ実感薄くて。当選すると思ってもなかったし」
今からでも『実は嘘でした〜』と言われても納得できると思う。
信じられない思いと、信じたくないという思いがまだ心にあるんだろう。

「さすがはさくらちゃん。なんだか、余裕で当選って感じよね」
「余裕どころか目一杯すぎて。ようやく重圧から解放された気分だよ」
「お疲れさん。そう言えば、さくらは生徒会役員やったことがあるのか?」
ビールを手にした父さん。思わず視線がグラスに釘付けになりそうなのを無理矢理引き剥がして答える。

「それがまったくの初めてで。副会長の子が経験者だから教えてもらいながらやってみようかと思ってる」
「そうそう。会長と副会長ふたりとも女の子なのよね。これも珍しいって恵さん言ってたわ」
「今年の立候補者は男女比半々だったから確率的には十分有り得る組合せだと思うけど、実際には珍しいみたいだね。過去に一度しか例がないって先生も言ってたし」
「そうねぇ。なんだか会長は男の子で、副会長が女の子ってイメージがあるものね」
「瑞穂の学校は男の子がほとんどかな。書記とか会計に女の子が多いって印象があるよ」
「なにはともあれ生徒の代表たる立場になるんだ。失敗を恐れずに前に進んでいかなければな」
「やるからにはね。演説で言ったことは実現していかなくちゃいけないし、まずは出来る範囲を確実にこなしていくよ」
心構えを説く父さんに力強く頷き返した。

「あ! ならさ、瑞穂が来年光陵に入ったら、お姉ちゃんが生徒会長してるんだよね?」
「そう……なるか。五月が引き継ぎだから、ひと月ちょっとくらいだけどな」
「入学式で、お姉ちゃんが新入生歓迎の言葉を言ったりするの?」
……そんなこともやらないといけなかったっけ?
入学式は出てないからなぁ……って、そうだ。確か、ちひろさんが歓迎の言葉を在校生代表として話したって言ってたから、生徒会長が話すわけじゃないんだろう。

「……どうかな。入学式出なかったからはっきりしないけど、歓迎の挨拶は生徒会長じゃなかったみたいだから違うんじゃないか?」
「えぇ〜ツマんない〜。ね? 来年は生徒会長が話すことにしようよ」
「なんでだよ」
やるべきことはやるけど、それだけに無用なことまで背負い込みたくないな。

「だって友だちに自慢できるじゃない。あれが私のお姉ちゃんなんだよって」
「あのなぁ。身内が生徒会長だからって自慢になんないだろ」
「あら、私も自慢するわよ?」
「うん。父さんも自慢できるぞ」
「……そうなんだ」
そんなに生徒会長ってステータスなのか?
俺のイメージでは物好きがやるものくらいの認識しかなかったんだが。
でも、瑞穂にとって自慢に思ってもらえる立場を手に入れることは重要かな。
今までの状態なら自慢どころか他人の振りをしなくちゃいけないほどなんだから。
噂を風化させるだけじゃダメで、それを逆手にとって評価を上げるくらいのことをやっていかなくちゃ。

「それで、真吾くんの方はどうなの?」
そんな母さんの前振りで話題が変化する。それにしても抽象的な質問だな。

「どうって、元気にしてるよ?」
「もう。そうじゃなくて。ほら、先々週泊まりに行ってたじゃない」
「うん行ったけど?」
「なにか、進展はあったのかなって」
進展? なんの話だ?

「もうキスくらいはしたんでしょ?」
「ぶはっ! げほっげほっ」
父さんがビールを吹き出し、瑞穂は動揺したのか茶碗を取り落とした。
そんなふたりのリアクションに気を取られたせいで、なんとか平静を保っていられた。

「そんなの、あるわけないだろ……」
自分の母親ながら、なにを考えてるんだろうか。頭が痛くなってくる。

「そうなの? せっかくさくらちゃんがオーケーサインを出してるのにね。……あ、そうか。本当はもう、いろいろと済ませちゃったとか?」
家族の団らんで、なにをどうしてそんな話を今ここで切り出すのか……いかん、俺の思考もなんだか混乱してきた。
幸い(?)先にパニクった瑞穂と父さんのおかげで取り乱すまでには至らなかったけど、こういうのって先に行動されると否が応でも客観的になれるよな。

「別にサイン出してないし、なにも済ませてません」
三人の視線を一身に浴びながら平静を装って食事を続ける。
動揺したら負けだ。
そもそも動揺する心当たりはないんだから大丈夫大丈夫。

「……さくらちゃん、顔赤いわよ?」
「そんな話をされたら赤くもなりますっ!」
「お、お姉ちゃんっ!? 瑞穂に黙って、あんなこととか、そんなことまで……」
「さ、さくら、おまえ……。と、父さんはとやかく言うつもりはないが、そういうことはまだ早いんじゃないかと思うんだが……」
鬼気迫る表情の瑞穂と父さんの視線が鋭くなる。

「だから、ふたりとも母さんの与太話を本気にしないで。どうせ、少し煽って意識するように仕向けようとか、そんなことを考えてるんだから」
「あらあら。そんなことないのよ? 単に『こうなったらいいなぁ』って思ってることを話してるだけで」
「全然まったく、そんな話の仕方してないでしょう!?」
「なんだか、さくらちゃんが敬語使って他人行儀だわ。母さん哀しい。よよよ」
「そんなあからさまな泣き真似は通用しません! 大体、前にも言ったけど、真吾とくっつけるんなら瑞穂の方が問題少ないでしょう!」
急に話が振られた当の瑞穂は、目をぱちくりとさせて期待に胸を膨らませている。

「あら。瑞穂ちゃんは万一の切り札ですもの。……あ、そうなのね。前に話してた浹さんとの間で迷ってるのね? ふたりの間で揺れる乙女心なのね?」
「揺れてないし、迷ってもねぇぇぇっっ〜〜〜!!!」
思わずテーブルを両手で叩いてしまう。

「ふ、ふたりも?」
そして、なぜかクリティカルヒットなダメージを受けている父さん。

「でもでも。恵ちゃんに聞いた話では、他にも何人か関係が怪しい男の子が学校にいるって言ってたけど?」
「そうなの瑞穂ちゃん? あらやだ。これは競争率高そうね。ん〜さくらちゃん? 今のところボーイフレンドは何人いるの? 怒らないから話してみて。お母さん全国各地に十二人って言われても驚かないから。ね?」
「じゅ、十二人……」
「おとーさん大丈夫?顔真っ青だよ?」
「ねぇねぇ、さくらちゃぁ〜ん」
「………………もう好きにして……」
悪乗りが果てしなく加速していく。それを俺に止めることは出来そうになかった……。

これって家庭内セクハラじゃない?
どこかに訴えたりはできないんだろうか。
そう真剣に考えるほどハチャメチャで騒がしい夕食の時間は過ぎていく。

すっごく疲れた。
でも、騒いだことでスッキリしたのも確かだった。
これも母さんなりの気の使い方なのかもしれない。はなはだ迷惑な方法ではあったけど。
そう思うものの、例の写真の件もあるし、琴美さんと母さんの間で、なにかの協定が結ばれてるような気がしてならなかった……。

 
   






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