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Chapter. 7
Standing position
立つべき場所 13





 
   

ゴールデンウィークが明けた翌日。
光陵高校の掲示板に生徒会選挙の候補者が一斉に開示された。

光陵の生徒会は通常、五月の生徒会選挙で会長と副会長のふたりを全校生徒の投票によって選出する。
書記や会計など、その他役員の人選は選挙ではなく、当選した会長と副会長による人事権が認められていた。
これは、選挙の時間短縮や生徒の自主性を重んじるところから導入された制度で、創立間もないころの生徒会によって定められていた。
人数が集まらないのでは? と危惧する意見も過去に散見したが、役員を集める手腕をもって、その後の生徒会運営を計る試金石ともなっていることを理由に、現在もなお連綿と続けられている。

候補者の選抜は立候補を基本とし、現生徒会が四月最終週を申し込み期間として受け付けする。
現生徒会長や副会長が任期を延長する場合も再度立候補する必要があり、その場合は候補者の開示から選挙が終わる日までは、一時的に生徒会役員の任を解かれることになっていた。
これは生徒会が選挙を取り仕切る立場のため、より公平性を高めるための措置として定められており、それが理由で選挙の管理運営人数に支障が出る場合は、立候補者のいないクラスのクラス委員が協力する決まりとなっている。
万が一、立候補者がひとりもいなかった場合は、三年生を除く各学年から推薦で数名が選出され、通常通り選挙が執り行われることになるが、今年は人数こそ少ないものの、会長、副会長それぞれに複数の立候補者が現れていた。

会長の立候補者は二名。
まず、昨年、一年生でありながら副会長の任を務め上げた二年E組の『秀才』野村勝(のむらまさる)が、今期は会長として立候補していた。
決して目立った存在ではなかったが、成績は常に上位をキープしていて素行も特に問題が見あたらないため、生徒間の評価は普通だったが、教師の評価はまずまず高かった。

その現副会長と一騎打ちとなる、もうひとりの候補者の名前は、多くの生徒から、ある種の驚きと失笑をもって認識された。

一年A組 波綺さくら。

いろいろと良からぬ噂が絶えない生徒として知名度が高まっていたところに、よりにもよって自分たちを代表する立場へ立候補したという事実は滑稽にさえ映った。

「ねーよw」
「どのツラ下げて立候補したんだか」
「分をわきまえないっつーか、身のほど知らずっつーか」
「ねぇ、これってフツーに恥ずかしくない?」
「これがいわゆる『スイーツ脳』ってやつか」
「ど〜ゆ〜神経してんだコイツは」
「ぶっちゃけ、ありえなくね?」
「自分がピエロだって誰か教えてやれよ。いや、俺は遠慮するけど」

と、概ねの反応は嘲笑か冷ややかなもので、良くて無視か、よしんば好意的な意見を持っていても、とてもそれを公言できるような空気ではなかった。

一方、副会長候補者は四名。

一年D組 有家雄高

一年E組 九重櫻子

二年B組 牧島太輔

二年D組 国見雪枝

副会長候補は、いずれも特に注目されている生徒ではなかったために、話題の中心は会長選の一騎打ちについてだった。
その内容は結果ではなく、どれほどの差がつくかについて、ではあったが。

掲示直後の下馬評としては、会長選は大差で野村。
副会長は横並びで、二年の牧島が頭リードしているというものだった。

しかし、その下馬評は時間とともにゆっくりと変化していくことになる。

第一の変化は発表の二日後に行われた球技大会で起こった。
波綺さくらはスポーツテストの結果に違わぬ活躍を見せ、男子野球の試合では臨時ピッチャーとして登板して野球部ホープの一年を抑えて完封した。
惜しくも参加する前のスコアを覆せずに負けてしまったが、相手チームとお互いの健闘を称え合う姿は、ギャラリーに好意的に受け入れられたようだった。

立候補によって強くなっていたバッシングもトーンダウンし、少なくとも連休前程度には静かな日々を送れるようになっていた。

その翌週には中間考査が実施された。
連休を遊び倒した多くの生徒が悲鳴をあげる中、三日間に渡って行われた試験はなにごともなく平穏無事に終了した。

そして、テストが終わって、すぐに約一週間に渡る選挙活動が始まる。
公式に選挙ポスターが掲示され、各候補者は休み時間にクラスを回ったり、生徒用玄関や正門前で立会演説を行い始めた。

特に会長候補の野村は、現生徒会副会長の肩書きをもって精力的に行動していた。
ライバルとなる候補者は一年生ひとりだけであり、しかも女、加えて全校生徒から爪弾きされている。
野村自身も、さくらに関する噂のいくつかは聞き及んでいたし、それを踏まえて負ける要素など微塵も感じてはいなかった。
前途洋々たる追い風に乗って、明るい未来予想図を思い描いていたとしても、彼の置かれている状況を考えれば無理もないことであっただろう。

一方、波綺さくらは、中間考査前には治まりかけたかにみえたバッシングが活動開始とともに再燃した。
選挙ポスターは一日をおかずに破られたり落書きされることが続いたため、ひとりだけ特別にガラスケース内の掲示板に貼り出される始末だった。

試験が終わった解放感がソレを加速させたのか、演説のために各クラスを回ろうにも心ない生徒たちによって教室を閉め出されたり、入れたとしても集団ボイコットで教室内に数人しか残らないことが続き、物を投げつけられ怪我をしそうになるに至って、やむなく活動を自粛することになった。

厳しい状況の中ではあったが、それを仮想敵として一部の理解者やクラスメートたちの団結力も強くなった。
再び、さくらには常に複数人が付き添うようになり、悪意を持った生徒が迂闊に近づけないようガードが徹底された。
そのおかげで直接的な攻撃は否応なく沈静し、危ういバランスではあったが表面上は仮初めの安寧を得ることができた。

だがそれは反論を無理に押し込めただけで、本来の意味で沈静化したとは言い難く、ゆえに波綺さくらの選挙活動は何もできないまま時だけが過ぎていった。





第二の変化が訪れたのは、選挙活動三日目のことだった。

前日に中間考査の結果が公表された。
いつものように悲喜こもごもな情景とともに、その結果は多くの生徒たちに驚きを与えた。
ひとつは、一年生の首位(トップ)に生徒会立候補者の名前があったからだった。

1位 698点 一年E組 九重櫻子。

注目されたのは順位もそうだが、それよりも点数の方だった。
700点満点の698点というのは、光陵高校の歴史でも類を見ない記録であるらしく、生徒よりもむしろ教師たちの方が騒いでいた。
では前回、四月に行われた学力考査はどうだったかというと、九重櫻子は試験日に欠席していたため、補習で試験を受けていた。
そのために校内に掲示される一覧表には乗らなかったのだが、その成績は中の上で特に目立ってはいなかった。
それが中間考査で、いきなりの首位に躍り出た意外性も手伝って、大きな話題となって波紋を広げていた。
九重のクラスメイトすらも、この結果にはかなり驚いたようで、今ではクラス総意で『九重さんを生徒会に』と一致団結している。

その九重櫻子の影に隠れはしたものの、もうひとり、意外な人物が上位に名を連ねていた。

3位 674点 一年A組 波綺さくら。

いろいろと話題にのぼる名前であり、つい二週間ほど前にもスポーツテストの結果で聞いた名前だった。
こちらは多くの生徒に複雑な心境を持って受け止められていた。
もちろん、これまでのように『不正を行ったからだ』という偏見に満ちた意見もあるにはあったのだが、スポーツテストや球技大会の結果と併せて、『ひょっとして本当はすごいのかも』と思う生徒も少なくなかったからである。

変化はそれだけには留まらず、前日まで波綺さくらをバッシングしていた生徒たちが、突然穏健派へと宗旨変えしたり、その話題になると不自然なまでに口を閉ざすようになった。
そのあからさまな変化は、全校生徒を対象に注意深く観察していたならば、間違いなく驚いたであろうスピードで増加していった。
しかし、『変だな?』と思いはしても、点と点を結んで作為的な『何か』に気付くほど分析できた生徒は皆無だった。
どのような心境の変化があってのことか、急に意見を変えた生徒たちは一様にその理由を語ろうとしないことも、気付かれにくくなった要因であったが。

それゆえ、波綺さくらに対して悪意を持っていたはずの一部の生徒らに、他人には言えないような何かが起きていると確信が持てるほどに問題視する生徒もいなかった。

時を前後して、これまでの『悪い噂』に対し擁護する内容の『噂』も流れ出した。

その最もたるものは『彼女は赤坂真吾と幼なじみだったことが理由で赤坂ファンの女子からいじめを受けていて、噂もそいつらが流した根も葉もないものだ』という内容で、なぜかこれまで沈黙を守ってきた斎凰院中等部卒の生徒も『波綺さんは、噂されてるようなことをする人じゃない』とポツリポツリ語りだしたりと、これまでの風向きが変わるような話も、ちらほらと生徒たちの耳に入りだした。

しかし、それを打ち消すように『火のないところに煙は立たない』とか『露骨な印象操作だ』という反発もあり、真相は混迷を極め、どちらの『噂』も素直に鵜呑みにはできないというのが大方の意見を集約した結論となっていく。

ここに来て下馬評も混迷の様相を見せるが、依然、野村勝優位の評は動いてはいなかった。
ただ、噂でしかよく知らない『波綺さくら』なる人物への興味は良くも悪くも高まっており、本人の与り知らぬところで注目度も飛躍的に増していた。

その微妙な空気をさくらが感じたのは、さらに丸一日が経った選挙活動四日目の放課後になってからだった。
嫌がらせや聞こえよがしの陰口が形を潜め、視線の圧力がずいぶんと軽くなったように感じていた。
そして、クラスメイトたちからの情報も合わせた結果、噂の中心である本人でさえも、この変化について訝しく感じるほどであった。





「コノエ。……なにかやってない?」
そう問いかけると、後ろで髪を梳いてくれていたコノエがクスクスと忍び笑いを漏らした。

放課後の生徒指導室はとても静かで、今はコノエと俺のふたりしかいない。
俺はともかく、コノエ自身の選挙活動は一段落したようで、ふたりして手持ち無沙汰だった。

今は、そのコノエにせがまれて髪を好きに任せている最中だ。
器用な手つきで髪を梳かし、あり合わせのヘアピンを使ってヘアメイクを試している。
残念なことに鏡がないので、どんな風になっているのかは確認できないけど、なかなかに手慣れているように思える。

そこで、
朝から感じていた違和感……簡単に言うと全校生徒からの悪意の量みたいなものが今日になって急激に減っていることについて、コノエなら何か知ってるんじゃないかと当たりを付けてみた。

情報操作はコノエが最も得意とする分野。
しかし
、コノエが操作してる確証もないんだけど。

「私は特になにもやってないよ。ミキちゃんの努力の成果じゃないかな? 中間考査の結果も良かったし、なにより試験前の球技大会で大活躍だったからね〜」
案の定、それは否定された。

「それもあるとは思うんだけど、球技大会は一週間以上も前のことだし、時期がズレ過ぎてない?」

球技大会かぁ。
五月の連休が明けてすぐ、学年男女別クラス対抗の球技大会が開催された。

でも、生い立ち的な理由から、女の子に混じってやるスポーツは正直まじめにはやっていなかった。
もちろん、例え俺が全力を出したとしても、響をはじめ敵わない娘はいくらでもいた。
それでも本気になれなかったのは、変に目立ちたくなかったこともあるし、学校行事で行うスポーツでは、なんだかズルをしているみたいに感じていたからだと思う。

それが、今回の大会を前にしてコノエから『全力でね』と、言い含められた。
スポーツテストの結果が実力であることと、全面的な印象アップのためにスポーツで活躍するのは凄く効果的だと。

生徒会選挙候補者発表後の風当たりの強さもあったので、状況の改善にはなるだろうと思って頑張った。
参加したバスケットは僅差で負けたものの準優勝まで行ったし、バレーボールでは、なんと学年優勝できた。
それに、欠員で棄権しそうになっていた男子野球に混ざって試合したりもした。

そして、当初の予定通り沈静化に一役買う結果に繋がったと思ったのもつかの間、中間考査が終わる頃には元に戻っていた。
目立ってしまったことで反発を招いたって理由もあるのかもしれない。

「ジワジワと効いてきたんじゃないのかな?」
「ジワジワじゃなくて、突然変わった感じがするんだよね」
「なら、ジワジワ効いてきたのは球技大会で、劇的に変わったのはテストの成績がきっかけなんじゃないかな〜」

う〜ん、それは無関係じゃないかもだけど、それだけが理由だとも思えないんだよなぁ。

「ね、ミキちゃん。噂のような形がないものにも作用反作用がちゃんとあって、一方的に世論……と言っても校内のだけど、その全部が同じ方向を向くことはないのよ」
生徒に教え諭すような口調で話すコノエ。

う〜ん、そんなもんかなぁ? なにか違うと思うんだけど。

「なんだか、まだ納得できてないみたいね」
疑問が顔に出てたのか、コノエはクスクス笑いながら説明を補足してくれる。

「ほら、今回の立候補で風当たりが強くなったでしょう? 聞こえるように陰口を言われたり」
コノエの言葉に苦い顔で頷く。

中学時代に逆戻りしたような嫌われっぷりに、ある程度慣れていたとはいえ精神的に辛かった。
平気な振りはしてたつもりだけど、コノエやちひろさん、クラスのみんながいなかったら不登校にでもなりそうだった。

「そういうのが酷くなるとね、引く人がでてくるのよ。しかも、噂を元に攻撃してくるなんて、人間としての品性が問われることだしね。言うなれば自分は『下種』だと喧伝してるようなものね。正常な人間なら、そういう行為をしてる人を見て『嫌だな』『あんな風になりたくないな』って思うでしょ? 誰しも、そんなのと同じだと思われたくはないものだしね。だから、積極的に関わろうとしない生徒が多くなっていって、その中の何人かは擁護してくれる人もでてくるものなのよ。今回の件は、特に影響力が強い斉藤先輩たちの存在も大きいし」
サラサラになった髪を弄びながらコノエが穏やかに説明する。

「なるほど、ね。それじゃぁファンクラブの方はどうかな? なにか進展はあった?」
「進展とまで言えるのかわからないけど、ネット方面は完全に押さえ込めたかな」
「ネット?」
「そう、インターネット。どうやら実際の行動にでれない分、ネットで活動してたみたいなの」
「活動ってどんな?」
「う〜ん、隠し撮り写真と誹謗中傷がワンセットでって感じかな」
「…………」
しまった。現実に対応するのが精いっぱいで、そっちまでは考えていなかった。

どんな写真とどんな内容なんだろう……。
心なしか血の気が引いていく。
深く考えに沈みそうなところでポンと肩を叩かれた。

「安心してミキちゃん。完全に押さえ込めたって言ったでしょ? その書き込みがあったのは学校裏サイトみたいな非公開アングラサイトだけだったから。今は該当データはもちろん、各プロバイダのキャッシュも全部消去できてるの。それに、悪いことばかりじゃなかったのよ? その書き込みの相手が特定できたから、その娘らとファンクラブの関係を探れば芋蔓式に解決しそうなのよ〜」
「そ、そうなの」
「うん。特定した相手にはちょっとした脅しをかけておいたからね。沈静化してるのも、そのことが少なからず関係してるのかもしれないと思う」
それか! 
聞いた話では、アンチ波綺さくらな生徒が人が変わったかのように黙り込むようになったとか。
でも、正直ネット関係となるとお手上げだ。
パソコンの操作なんて学校で習っただけだし、携帯もメールくらいしか使ってない。

「で、脅しって、なにしたの?」
「ん? 同じコトをやりかえしただけよ? ミキちゃんに対する書き込みに、一方では『名誉毀損で訴えられるかもしれませんよ〜』って忠告しておいて、もう一方で『この書き込みをしたのは私です』って相手の写真とプロフィールを付け足していっただけ。つまり、匿名であるはずの書き込みに署名してまわったってわけ」
「そんなんで効果あるんだ」
もっと、こう直接的になにかしたのかと思ってたんだけど。

「それはもう。匿名だからこそ卑劣な行為もできたんだろうけど、それに自分のプロフィールが勝手に付くのよ?」
そう言ったコノエは、思い出し笑いを懸命に堪えていた。

「でもさ、そのプロフィールが本当に書き込みした本人のものかなんて判断つかないんじゃないの?」
「それはそうね。でも、それでいいのよ。本人にだけ、それが『本物』だと判ればいいの。事実、署名した元発言はすべて本人の手によって削除されているしね」
「そっか。……なら、こちらが逆に名誉毀損やプライバシーの侵害で訴えられたりする危険は?」
「それは、あるなしで言えば『ある』……のかな。でも、簡単には足が付かないようにしてるし、そもそも内容は名誉毀損に当たらないの。プライバシー問題的には黒なんだけど、それを立証するには、自分がやった名誉毀損にあたる書き込みについても公にしないといけないリスクが伴うしね」
なるほど。なんとなく理解できた。

「ありがとう。そっち方面はさっぱりだから助かるよ」
ネット上で嫌がらせされてるなんて、その可能性すら頭になかったし。

「明美さんに話を聞いてから、ここ一ヶ月ほど、ネットもずっと監視してたからね。パスワードが必要な閉鎖的な掲示板ばかりだったのが幸いして、さっきも言ったように、ほぼ完全に封じ込めることができたと思うの。今では、ミキちゃんだけに関わらず、誹謗中傷を書き込むと個人情報が明かされるって都市伝説にまで発展してるみたいなのよ。それにね、前に話した心当たりっていうのも、その書き込みの人物のことでね、あとはカマかけて誘導尋問にでも引っ掛ければ、チェックメイトは目前かなって」
「すぐ解決できそう?」
「うん。でも、もう一日だけ時間をくれないかな? ここ三日ほどメールやネットだけで接触して様子を見てたんだけど、そろそろ限界がきそうなの」
ほんのりと柔らかな笑みを浮かべるコノエ。

コノエと、いくらか深く付き合ってきて気付いたことの中に、言葉と表情のギャップが大きいっていうのがある。
物騒なことを話してる時も、いつもの控え目な笑顔や言葉遣いが崩れることはない。
例えるなら、晩ご飯はなにかなって話してる時と、今みたいに誰かを追い詰めている話をしている時の雰囲気に変わりがない。
それが性格的なものなのか、それとも自分を律してるからなのかは、まだ見分けがつかないんだけど、ふと違和感を覚えることがある。

「その、限界って、なんのこと?」
その疑問は心に留めて、今は会話の内容に集中する。

「精神的なものの、かな。常に監視下におかれているってことを、それとなく定期的に教えてあげているからね。かなり人間不信に陥ってるみたいだし、結構追いつめてると思うんだ。そろそろ揺さぶりかけるだけで簡単に折れちゃうんじゃないかな。でね、ミキちゃん。どうする? 会ってみる?」

人間不信……。
その言葉に胸がズキっと傷んだ。

「……あとにしてもらってもいいかな。選挙が終わって、当選するにしろ落選するにしろ、落ち着いたあとで」
「うん。そうしよっか。当選してからしばらくは、引き継ぎとか役員任命とか慌ただしくなっちゃうだろうし」

……当選のことしか考えていないのかと聞いてみると『落選した時は何もやることないから今は考えなくていい』と答え、当選できるのかなと尋ねると『ミキちゃんしだいかな』と気楽そうに笑う。

まぁ、確かにそうだ。
当選までコノエに頼ってたのでは、独り立ちすらできないってことだ。
ただでさえ、ファンクラブの件を任せきってるんだから、選挙の方は自分で頑張ろう。

「よし。活動日も今日と明日だけになったけど、今から出来るだけ頑張ろう!」
決意を込めて席を立つ。

各クラスを回るには遅い時間だから明日にして、今からなら校門前での演説あたりだろうか。

「あ、ミキちゃん。せっかくやる気出してるトコ悪いのだけど、明日まで活動は自粛しておいて」
「へ? どうして? 明日までって、活動そのものが明日までしかないんだよ?」
今からでも挽回しないと当選が危ういって言うのに。
いや、今からやっても、どれだけの効果があるか疑問は残るんだけど、やれることはやっておかないと。

「その方が当日の注目度が高くなると思うの。宣伝にも大きく分けて二種類あってね、大々的にPRすることで周知を徹底する方法と、露出を極端に抑えて見せないことで興味を煽るやり方。ミキちゃんの場合は状況から後者を選択するべきなの。ポイントは『活動したくても出来なかった』ってところね。やるべきことをやらなかったわけじゃなくて、出来なかったって名分があるから印象は悪くならないだろうし」
「はぁ……」
「その分、演説にかかるウェイトがすごく大きいのよ〜。ビシッとカッコイイのをお願いしますよ? 会長」
にこやかにプレッシャーをかけられた。

演説か……なにを話せばいいんだろう。
やはり抱負とか目標とかかな。
でも、それはみんなもやることだろうし、演説を決定打にするなら、もっと別のことをやらなきゃいけないんだろうか。その前に、みんなが大人しく聞いてくれるんだろうか。
閉め出しやボイコットされた身としては、同じようにならないことを祈るばかりだ。

「大丈夫よミキちゃん。私も援護射撃してあげるから」
「うぅ。頼むよ。あんまり自信がない」
「そんなこと言わないで。大丈夫よ、任せておいて。一番効果的なタイミングで支援してみるね」
自信満々なコノエの言葉は、すごく心強く感じた。



そして選挙活動最終日も、ほとんどなにもしないまま過ぎてしまった。



さらに翌日の土曜日。

いよいよ生徒会選挙の当日を迎えた。

あまり眠れなかった割には、頭がスッキリしている。
ベッドから抜け出してカーテンを開いて窓を開けた。

天気は快晴。
澄んだ空気で深呼吸する。

「……よし!」
勝算なんてない。自信もなけりゃ確信もない。
あるのは、クラスや友人たちの応援と自分の決意だけ。

正直言えば逃げ出したかった。活動すらできなかったこともあって怖かった。

でも、応援してくれるみんなのために、なにより俺が俺であるためには逃げることなんて出来ない。
逃げない。負けない。屈しない。
そう蔡紋に啖呵を切ったこともあったっけ。
そうだ。形振り構わず、藻掻いて、足掻いて、最後まで抵抗してやるんだ。

落選するかもしれないけど、素直に負けてなんかやるもんか。
いままで我慢してきた分、ここから巻き返していこう。



「ごちそうさま。行って来ます」
朝食の食器を下げて鞄を手に取った。

「あれ? お姉ちゃん、今日は早いんだね」
ようやく食べ始めた瑞穂の声に足を止める。
まだ眠いのか、目をこすりながら見つめてくる視線を受け止めて微笑み返した。

「うん。今日はちょっとね」
……生徒会選挙だから。その言葉を飲み込む。

「ふぅん。いってらっさーい」
ぼやけた見送りに手を挙げて答え、意気揚々と外へ出る。

とにかく。当たって砕けろだ。

なにかのスイッチが入ったのか、微妙に高まるテンションを胸に秘めて、生徒会選挙という闘いの場に向かった。

 
   






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