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									 スピーカーから二限目の始まりを告げるチャイムが流れた。 
											廊下に生徒の気配は無く、それぞれの教室で授業を受けているんだと思う。 
											 
											「九重。おまえはどうしてここにいる?」 
											チャイムを聞き流しながら携帯を眺めているコノエに、未央先生があきれたような口調で問いかけた。 
											視線を上げたコノエは、未央先生に無言で微笑み返す。 
											 
											「用がないなら授業に出ろ」 
											「すみません先生。そうしたかったのですが、用事が出来てしまいました」 
											コノエは悪びれもせず笑顔のまま答える。 
											 
											「用?」 
											「はい。先ほどの犯人が出頭してきますから」 
											なにをもって、その自信の後ろ盾としているのか。 
											すでに決まっていることのように話すコノエは、不自然なほどに落ち着き払っている。 
											 
											「ぁ……っ!!」 
											嘔吐感に思考が中断される。 
											来る、と思ったのも束の間、食道を焼くような刺激が一気に喉元までせり上がった。 
											それを口を押さえることで物理的に遮断する。 
											口内に満ちていく刺激。それに呼び起こされる更なる嘔吐感。 
											 
											駄目だ。いつまでも我慢はできない。 
											涙に滲む視界に入ったバケツに駆け寄る。 
											淵を掴んで底を見つめると同時に逆流したものをぶちまけた。 
											ばしゃっと、ポンプで汲み出されるように液体を吐き出す。 
											喉が刺激され、肺の空気をも全て搾り出すようにして胃の中のものが逆流する。 
											 
											「がはっげほっ」 
											ヒューヒューと喉が鳴り、堪らず咳き込んだ。 
											全力で絞り出したものがボタボタと吐き出され、喉と舌を蹂躙する刺激に硬直して耐える。 
											 
											「ミキちゃん……」 
											「え゛ぇ……」 
											背中を摩る手を支えに、続けてせり上がった胃液が滴り落ちた。 
											熱いのか寒いのか、痺れにも似た感覚が脳を締め付ける。 
											サーっと血の気が手足から引いていく。 
											寒気に覆われているのに、全身が汗だくになっていく。 
											ヤバい。体調の悪さとは裏腹に、頭だけは冷静に現状を確認していた。 
											 
											「これで口をゆすげ」 
											目の前に差し出されるコップ。 
											その白湯を含んで吐き出す。 
											それを繰り返し、残り三分の一ほどになった白湯を一気に飲み干した。 
											 
											「大丈夫か。熱は……微妙なところか」 
											未央先生のが手が額に当てられる。 
											ひんやりとして気持ちいい。 
											 
											窓から吹き込んだ風が静かにカーテンを揺らす。 
											その時、保健室に控えめなノックの音が聞こえた。 
											 
											「とにかく、ベッドで横になれ。安静にしてろ」 
											そう言うと、未央先生はドアに向かい、俺はコノエに支えられてベッドで横になった。 
											視線を合わせると、コノエはウインクして人差し指を口にあてる。 
											 
											「し〜。ミキちゃんは言われたように安静にしてて。あとは私にお・ま・か・せ。ね?」 
											コノエの指が額に張り付いた前髪を整えてくれる。 
											その笑顔に安心したのか、目を閉じるとすぐ睡魔が忍び寄ってくるのを感じた。 
											 
											 
										 
									 
									 
										 
									九重はさくらが横になっているベッドを隠すようにカーテンを引く。 
										その視線の先には、困ったような表情の未央と女生徒たち。 
										お互いに様子を伺うように視線を交える。 
										 
										「あ、あの……」 
										女生徒のひとりが話しかけるのを九重が手で制する。 
										 
										 
									「 草野さん、場所を変えましょう」 
										九重は先頭の女子生徒に微笑みかけ、視線を巡らせて人数を確認する。 
										女子生徒は全部で七人。 
										A組のほかにB組それにD組の生徒もいた。 
										 
										「さぁ、行きましょうか」 
										何かに納得したように九重の目が細められる。 
										 
										「おい待て九重。どこに行く気だ? それに今は授業中だぞ」 
										「先生。行く先は生徒指導室です。さっきのミキちゃんの件で少し話し合います。……なんなら、先生も一緒に来ますか?」 
										「そうだな……」 
										と言って、未央はカーテンの向こうのベッドに視線を向ける。 
										 
										「いや、止めておこう。九重、あまり長くなるなよ。それと終わったら授業に出ろ。指導室を使う許可は取っているのか?」 
										「ご心配なく。有塚先生から鍵を預かっていますので」 
										九重は優雅に目礼して保健室から出て行った。 
										 
										「……まったく。なんなんだあの娘は」 
										腰に手を当てて頭を掻きながら、未央は重い溜息をついた。 
										 
										 
									
										 
									 
										 
										「どうぞ。皆さんもかけてください」 
										九重は再び生徒指導室の席に座っていた。 
										その九重と対峙するように女子生徒たちも席につく。 
										 
										「さて。みなさんにお願いがあります」 
										そう切り出した九重に一様に訝しげな表情を浮かべる七人。 
										それもそのはず、告訴を取り下げてもらうために来たはずの彼女たちが、どうしてお願いされるのか。二の句を告げずに九重に注目する。 
										 
										「波綺さくらさんのことなんですが、彼女を苛めるのを今後止めてもらえないでしょうか」 
										予想外に下手に出る九重に対し、どう返事したものかと無言のまま互いに視線を交わす。 
										 
										「先ほど、波綺さんは嘔吐して倒れました」 
										シンと静まり返った室内に九重の声だけが静かに響く。それは奇しくも朝のシーンを再現しているかのようだった。 
										 
										「彼女は気丈そうに見えますが、悪意に対してすごくデリケートです。ここ数日はろくに食事もしてないみたいでした。さっき吐いたものもほとんどが胃液だったから……」 
										九重が視線を巡らすと、女子生徒らの顔は、一様にそれを避けるように伏せられる。 
										 
										「これは内密にして欲しいことですが、彼女は昨日、屋上で襲われました。……誰かが流した噂に踊らされた男子生徒たちに」 
										何人かの女子生徒がビクンと身体を震わせる。それを確認して九重は話を続ける。 
										 
										「幸いにも間一髪、手遅れにはなりませんでしたが、かなりショックが大きかったようです。それもそうですよね。複数の男に無理矢理襲われることがどんなに辛いかは、同じ女性として想像に難くはないでしょう?」 
										もはや九重と視線を合わせる女子生徒はいない。 
										誰も見ていないことを確認して、九重の口角が一瞬つりあがった。 
										 
										「そこで話は戻りますが、波綺さんもかなり辛い目に逢いました。この辺で彼女を苛めるのを止めてもらえませんか? ……どうかしら。草野明美さん?」 
										名前を呼ばれた女子生徒が反射的に顔を上げる。 
										九重を真っ向から視線が合うと、それが苦痛であるかのように顔をしかめて、ゆっくりと頷いた。 
										 
										「他の方もそれでいいですか?」 
										他の女子生徒が恐る恐る顔を上げ、はい……と小さく返事して頷く。 
										 
										「ありがとうございます」 
										嬉しそうに九重の声のトーンが上がる。 
										この部分だけを聞くと、今まで深刻な内容の話が成されていたとは思えない明るさだった。 
										 
										「そ、それで、あの……訴えるのは……」 
										彼女たちの代表なのか、草野が上目遣いで小さく質問する。 
										 
										「もうひとつお願いがあります」 
										その声を掻き消すように九重が話す。女子生徒たちは怯えたように黙った。 
										 
										「安心して。訴えたりはしません。その代わりと言っては何なんですが、波綺さんの教科書や鞄、それに机や椅子に制服など、被害にあった物的損害を、みなさんで補償して欲しいの。ここに居る七人に加えて、この場に居ない人たちで分担すれば、ひとり当たりの負担はそう多くはならないと思うし。どうかな?」 
										「それは……わ、わかりました。それで、いいんですか?」 
										「もちろん。私がお願いしてるんだし」 
										ニッコリと笑う九重に、七人の女子生徒たちの表情が明るくなる。 
										 
										「ご、ごめんなさいっ」 
										「すみませんでしたっ」 
										「もうしませんから。絶対」 
										涙声も混じりつつ、女子生徒たちから謝罪の言葉がかけられる。 
										 
										「私には謝らなくてもいいのよ。その言葉は波綺さんに直接伝えて」 
										微笑みながら目を閉じた九重は、心の中で蔑むように笑う。 
										 
										「それなら、あとふたつ、お願いしてもいいかな?」 
										微笑を絶やさずに人差し指をピンと立てる。 
										 
										「……」 
										「あぁ、そんなに大変なことじゃないのよ」 
										九重はおどけた様に両手を左右に振った。 
										 
										「な、なんですか?」 
										「ひとつは、ミキちゃ……波綺さんと友達になって欲しいの」 
										「……」 
										「これまでのことは水に流して、仲良くして欲しいの。もちろん、ミキちゃんには私からも取り成すから心配しないで」 
										九重は上品にウインクする。 
										 
										「わ、わかりました。努力……します」 
										「そ。ありがと。波綺さんは、あぁ見えて人見知りをする性質でね。一度離した手は自分から絶対に繋ごうとしないの。同じクラスの人もいるし、これから三年間、ずっと気まずいままなのもお互いに重荷になるでしょ? だから、初めは気が重いかもしれないけど、友達になって本当の意味で許して貰ったほうが良いと思うの。どうかな?」 
										「はい。そういうことなら喜んで……」 
										 
										「お願いね。そして残りのひとつは……」 
										静まり返った指導室で、ただひとり櫻子の小さな声が廊下に漏れることなく囁かれていた。 
										 
										 
									
									 
									 
										 
									話し声で目が覚めた。 
										頭痛い。吐き気がする。胸焼けもする。身体がだるい。思考が霞む。加えて、昨日受けた打撲も痛む。幾重もの不調の原因に視界すら歪んでいた。 
										 
										のたうち回りたい衝動と、それすらも出来ない体調がせめぎ合い、筋肉だけがビクビクと痙攣し、それを引き金に身体のあちこちが悲鳴をあげ、全身に走る痛みに身悶える。 
									 
									
									(ちょっと、これ、大丈夫なのか?) 
											じっとりと脂汗を浮かべながら必死で耐えていると、覆われていたカーテンが引かれて人影が見えた。 
											 
											輪郭が像を結ぶ前に人影が近づいてくる。 
											 
											「さ、さくらちゃんっ。ごめん、ごめんね」 
											人影が覆い被さってきた。 
											その衝撃に胸が圧迫され、辛うじて均衡を保っていた嘔吐感が決壊する。 
											 
											反射的に跳ね起きようとして身体中に激痛が走る。 
											覆い被さってきた誰かをはね除ける体力もなく、仰向けのまま胃液が逆流する。 
											 
											「うっぶ……がはっ! はぁはぁ」 
											なんとか首を回して胃液の汁を頬に溜め込む。 
											枕やシーツを汚せない。こんな時なのに、そんな考えが身体を支配する。 
											 
											「ご、ごめんなさいっ」 
											その声とともに身体が軽くなる。 
											 
											「波綺。これに吐き出せ」 
											洗面器が差し出され、未央先生が背中を支えて起こしてくれる。 
											吐き出した胃液は、ほんのわずかだった。 
											そもそも吐き出す物が残ってなかったらしい。 
											そうでもないと嘔吐物を口の中に留めておけなかっただろう。 
											 
											反射的に嚥下した反動でしばらく咳き込んだ。 
											それも十数秒ほどで収まり、涙に歪む視界が回復した先には、楓ちゃんが泣きそうな表情でこちらを見つめていた。その後ろには茜と桔梗さんが心配そうに立っている。 
											 
											「どうした、おまえたち。もう授業は始まってるぞ」 
											緊張した空気を未央先生の冷静な声が吹き払う。 
											その言葉に答えるように茜が口を開いた。 
											 
											「す、すみません。どうしても気になって……。すぐ済みますから、ちょっとだけ」 
											そう未央先生に告げると、今度は俺に視線を合わせて頭を下げた。 
											 
											「さくら、ごめんね……。朝学校に来たらあんなになってて……。ボクたち消そうとしたんだけど、消せなくて……」 
											申し訳なさそうに茜の表情が曇る。 
											 
											「あ……がはっげほっ……」 
											そうじゃない。茜たちに責はない。 
											そう答えようとして声を出した途端に咳き込んでしまう。 
											 
											「さくらちゃん……うえぇ」 
											「ほら。楓が泣いててどうするのよ。ねぇ、さくら。まずはゆっくり静養して、元気になったら、また一緒にお弁当食べよ? みんなで待ってるから……」 
											桔梗さんが泣き出した楓ちゃんをなだめながら話しかけてくる。 
											ひゅーひゅー鳴る喉のイガイガを堪えて、なんとか作った笑顔で頷く。 
											 
											「もういいだろう。お前たちは授業へ戻れ。波綺は、もうしばらく様子を見てから家に送り届けるから安心しろ」 
											「……はい。それじゃ、さくらちゃん……またね」 
											名残惜しそうに見つめる楓ちゃんたちに、もう一度頷き返す。 
											そして三人は何度も振り返りながら保健室を出て行った。 
											 
											「大丈夫か?」 
											未央先生の手を借りて、再びベッドで横になる。 
											見上げた未央先生の表情に笑みが浮かんでいた。 
											 
											「よかったじゃないか。心配して泣いてくれる友達がいて。方法はアレだが力になってくれる友達もいる」 
											そう言って乱れた前髪を指で直してくれる。 
											 
											「微力ながら私もついてる。だから、おまえは安心して休んでろ。落ちついたら送ってやる」 
											未央先生に頷き返して眼を閉じる。 
											もう眠れそうにはなかったけど、今は少しでも回復しておくべきだ。 
											 
											「ところで波綺。おまえ、ちゃんと食べてるのか?」 
											眼を開くと、未央先生の顔が予想より近くにあってびっくりする。 
											声が出せないので首を振って答えると、ムッとした表情の未央先生に睨まれた。 
											 
											「吐いたものを見て思ったんだがやっぱりか。その弱り方からすると今に始まったことじゃないだろう?いつからだ?」 
											サバを読んで、指を二本立てて答える。 
											 
											「それは2日ってことか?」 
											頷き返すと、静かに手が顔の前にかざされた。 
											 
											「ばかもんっ」 
											「っ!」 
											怒声とともにデコピンされた。 
											十分に手加減されてはいたけど、突然の暴挙に涙目で非難の視線を向ける。 
											すると、怒った表情のまま、未央先生はベッドの脇に腰掛けて顔を近づけてきた。 
											 
										(え?え?) 
											見る見る迫ってくる未央先生のおでこが俺のおでこにコツンとぶつかった。 
											 
										(えぇ〜〜!?) 
											間近に見える未央先生の瞳に自分の瞳が映っている。 
											 
											「いいか波綺。早く治したかったらちゃんと食え」 
											「で、でも……食欲が無くて……」 
											お互いの吐息を感じながらの会話。 
											頭の半分がオーバーヒートしている。 
											残りの半分は現在そもそも機能していないから、思考のタスクがハングアップしかけてる。 
											 
											スッと未央先生が離れ、こちらを睨んだままカーテンを引いてその向こうへと姿を消した。 
											 
											はぁ……緊張した。 
											どっと汗が噴き出るのを感じて、そっと眼を閉じた。 
											 
											 
										 
									 
									 
											 
											シャァッっとカーテンレールを擦る音とともに、いつ戻ってきたのかコノエが姿を見せた。 
											「どう? ミキちゃん。具合の方は」 
											ニコニコと笑ってベッドに腰掛ける。 
											 
											「波綺は今から病院だ。点滴を打ってもらってから帰宅させる」 
											その後ろから未央先生が代わりに答える。 
											 
											って、え? 病院? 点滴? 
											 
											「それと、これを飲め。白湯だ。五十度くらいに冷ましてるから」 
											上半身を起こし、手渡されるカップの中身を少しずつ飲み下す。 
											 
											「点滴かぁ。今のミキちゃんにはそれがいいかもね。あ、彼女たちの方は大丈夫よ。制服とか教科書とか、ちゃんと補償してくれるよう話してきたから。そうだ。ミキちゃん、なにかまだ学校に用事があるんじゃなかったっけ?」 
											コノエの言葉で思い出す。そうだ。ちひろさんと響の連絡を……と考えてコノエを見つめる。 
											コノエは『ん?』と小首を傾げた。 
											 
											そうだ。コノエなら響と連絡を取るのは問題ないし、ちひろさんとの伝言役には打ってつけ……と言うか代役としては、コノエ以上に適任はいないだろう。 
											 
											「あのさ、コノエ……」 
											と、切り出したお願いをコノエは快く了承してくれた。 
											その後、『あとのことは任せて』と言うコノエの笑顔に見送られ、未央先生とともに病院へ行って点滴を打たれた。 
											どうやら脱水症状も出ていたようで、点滴後は大分楽になり、家に帰ってから昨日のスープを二杯おかわりするほどに食欲も回復した。 
											 
											 
										 
									 
									 
											 
											それから、土、日、月、火の四日間を、ひたすら寝て過ごした。 
											 
											 
											 
											九重から後日聞いた話では、ちひろさんと響の試合は無事行われ、戦績はほぼ五分五分だったらしい。再戦の約束も交わされたらしく、その時こそ同席しなさいねと響が言ってたと聞かされた。 
											 
											日曜日の下宿訪問にも結局行けなくて、なぜか突然『行かない』と言い出した瑞穂とチェリルと一緒に留守番していた。 
											 
											薙がまたお見舞いに来てくれて、騒がしかったけど大いに気分転換になった。最初は余所余所しかった瑞穂も、夕方になって薙が帰る頃には普通に喋る程度には仲良くなったようだった。三人で過ごした時間のおかげか、その晩からは普通の食事が摂れるようになった。 
											 
											月曜の放課後には、コノエや楓ちゃんたちがお見舞いに来てくれた。 
											コノエが間に入って話す内に、お互いのぎこちなさも消えて以前のように話せるようになった。コノエに貰った携帯の使い方を教わり、みんなとお互いの番号やメアドを交換した。 
											 
											火曜日はトールから電話があった。デートの催促だったけど、返事が遅れてる理由を話す間に結局なにがあったのかを洗いざらい喋る羽目になった。多少ボカシはしたものの、それでもトールの怒りはすごかった。俺にじゃなくて襲ってきた男たちやファンクラブの娘たちにではあったけど。なんとかなだめて、デートの返事は延期してもらった。 
											 
											そして迎えた水曜日。万全ではないものの再び登校できるまでには回復した。 
											 
											恐る恐る登校すると、クラスの対応は気味が悪いほど友好的だった。 
											制服や鞄、教科書やノートに至るまで、今回被害にあったすべてが新品で戻ってきた。 
											草野さんたちからも正式に謝罪を受けて友達になることになった。 
											……どんな心境の変化なんだか。 
											 
											ただ、それもクラスの中だけで、他のクラスや違う学年の生徒からの視線は冷たかった。 
											楓ちゃんたちが庇ってくれるものの、白い眼で見られたり、露骨に中傷されたりした。 
											また、なにを聞きかじったのか、援交を持ちかける男子生徒もわずかながらいた。しかし、それはどこからか現れた男子生徒に直ぐさま連れ去られ、実質的被害に及ぶことはなかったんだけど。 
											 
											そんな日々が二週間ほど続き、ようやく左腕のギプスが取れた頃。 
											 
											噂の方は相変わらずで、校内での立場はすごく微妙なままだった。 
											クラス内ではともかく、ひとりでは廊下も歩けない状態だった。 
											実質的になにかされたワケじゃないんだけど、ひとりだと、よからぬ輩から頻繁に声をかけられるため、常に誰かが付き添ってガードしてもらわなければならなかった。 
											 
											そんな時に、突然コノエからこんなことを持ちかけられた。 
											 
											 
											 
											 
											 
										「ねぇミキちゃん? 生徒会長に、なってみない?」 
										 
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